鼓笛隊の襲来

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鼓笛隊の襲来 鼓笛隊の襲来
三崎亜記光文社 2008-03-20
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 三崎亜記著

いやいやいや・・・これはこれはこれは・・・なんとステキなホラーじゃないの?
聞いてないよ・・・って、誰からもこの本を読んだ話もまだ聞いてない!いやいやいや・・・この作家本当に好きかも!
しかもこの短編集好きな順に並べられる!だって殆ど好きだもの。
一話ずつ読み終わるたびに背筋がゾクリとしてふっと我を見つめてしまう。不思議な捩れやパラレル・スパイラルなんて言葉が浮かぶ世界で表現されている事象が現実の私の既視感を刺激し、私の未来予想に繋がっていくような。不安を掻き立てられるけれどこの静かな世界は安らぎもあるし刺激も程好い!
1話「鼓笛隊の襲来」には思わず「いい!」すごいシチュエーションなのにちゃんと現実と繋がっていて・・・可愛さと楽しさを併せ持つ異な意識。それに素直に「そうだよ、老人の理知常識が役立つ世界であって欲しいよ」なんて思って。現実には今若い人にどんどん教わり続けなければ生き難いんだもの。

9話「同じ空を見上げて」こんな不条理何故かひどく現実に起こりそうな気がして・・・それでも未来には希望もあるし、心は再生することも出来る。悲しいけれどありがたい。

6話『「欠陥」住宅』窓の外を見ると窓窓窓。
前も隣も後ろにも50階建てのビルの数え切れない沢山の窓が我が家を見下ろしているの。あの窓の一つにひょっとしたら昔の私の大事だった人たちが、二度と合うことも無く捩れた空間を介して向かい合っているのかもしれない・・・そしてその窓から外を見ている人はどんな景色を見ているの?リアルにゾクリ!こんだけ窓があるんだ現実に居るかもしれない・・・

2話「彼女の痕跡展」そうなの、何か心に引っかかることがあった後は頭の中で私が私とその出来事を話し合っているの・・・微妙に削除付け足し変更歪曲・・・出来上がった物は微妙に私には真実。そのとき削除した物は何処かで・・・ね、ほら背筋が・・・過去って唯過去ってだけで不安なのに、記憶って唯記憶だってだけで争いの種になるのに?人が記憶と思っているものを付き合わせたときどんな大きさのブラックホールが出来るんだろう?
と言った具合で・・・

7話「遠距離・恋愛」少女の部分をどう読めば?と思いつつもふと慣れた幸せ慣れた不幸は慣れているだけほっとする部分も。8話「校庭」誰のせいでもないこの存在・・・私も見たような・・・いや私がそうだった様な・・・全部記憶に残る物語!

8話・・・あった、あった、こういう存在・・・誰のせいでもなくて・・・3話、4話、5話・・・皆好きだな・・5話が最後に書かれたのだって唯私が男じゃないってだけで、管理社会の恐怖と共に誘惑のゾクリとする魅力とそれに抵抗する切なさ・・・は・・・この作品十年後に読み返してもきっと心が不思議な感じにスイングするのだろうな。

ぬしさまへ

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ぬしさまへ ぬしさまへ
畠中 恵新潮社 2003-05
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畠中恵著

はい!はい!やって来ました!シリーズ第二作がようやく読めました。平仮名で「ぬしさまへ」とある題名、果たしてこの「ぬしさま」はあの「主様」のことであろうか?・・・一寸三味線を入れて鼻声で「ぬしさまに・・・」とか「ぬしさんは・・・ありんすか?」なんて唸りながら待っていました。
恋文の宛名だったのですね?第1話でした。
でもこの本で一番嬉しかったのは「ねこのばば」を読み終わってから心配でならなかった仁吉の過去がやっぱり書かれていたことです。
案の定でしたね。長い長い片思いが丁寧に騒々しくなく語られて、この一編は仁吉ファンの私には嬉しい贈り物になりました。
この本の1話で語られた「あ、煙管の雨が降るようだぁ!」みたいな恋文の雨が降り続きそれを一顧だにしない仁吉の奥の奥に潜む初心さに嬉しくなりました。全く恋人にはこうあってもらいたいものですよ・・・って、それは罪だろ!可愛そうに、ねぇ?
何百年毎かに「恋と喪失」を繰り返す輪廻?そっちもきつそうだけどなぁ・・・と、ロマンスより安穏を選びかねない?私はちょっと思わないでもない・・・けど。人間の本質も妖の本質も変わらないんだね?
そんなわけでこの6話、好きな順に並べると・・・
「仁吉の思い人」
「空のビードロ」・・・え~困った。「松之助関係は柱の一つみたいでいろいろ知りたいのだけれど、この事件は先ず動物殺しからおぞましく、登場人物もおぞましい。いやな部分が多くて困るよ。
作品全体の読後感は悪くなかったのです。長崎屋はいつもの長崎屋ですし、一太郎は期待通りに頭の鋭い立派に体の弱い若旦那だし、妖たちはいつもの面々、何の不足も無く風景は同じです。
ただね、私的には兄松之助が登場するたびに長崎屋の大旦那が分からなくなるのです。「ホントはどんな奴だ?」って。
ですけれど主要な面々が既にもっと先の作品を読んで好きは好きになっているから?余り悲しい殺人事件はなしにして欲しいなって思ってしまうのでしょうね。悲しいだけならいい、おぞましいのはね。ついで「栄吉の菓子」かな?
「栄吉の菓子」は良く出来ていました・・・と、思います。
老人の孤独も、彼と栄吉の間に流れる細い糸のような交情も。でもこの老人の考えた賭けは他の作品でもよくある自殺して犯人をでっち上げ恨みを晴らすって筋書き風ですが、欲しかない人々しか身辺に集まらなかった(められなかった?)老人の孤独は悲しく思えてこの事件はやっぱり厭だな。
「ぬしさまへ」の殺人事件も犯人の少女も哀れすぎて・・・イヤだな。
「四布の布団」も「虹を見しこと」もそう。彼らの醸す雰囲気にはそぐわない・・・と、勝手に決め付けてしまいました。それなら自分で書けよと言われそう?そう、どうやら期待するものが私の中で勝手なイメージに膨らんで先走っていますね。
解決の上手さはあるし、妖との連携、会話、ユーモア(含ブラック)、情も好もしくちゃんと揃ってはいるのです。お江戸も今も事件は事件、猟奇的事件は同じく猟奇的、厭な世相は厭な世相と共通ですから仕方ない!か。
真綿の中で一本立ちの努力をする6話目の一太郎君がホント可愛い!
 

ぬしさまへ (新潮文庫) ぬしさまへ (新潮文庫)
畠中 恵新潮社 2005-11-26
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辰巳八景

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辰巳八景 辰巳八景
山本 一力新潮社 2005-04-21
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山本一力著

八景、八話、江戸情緒満点の深川を舞台のお話です。
深川近くの堀端に住んでいるから「読みたいでしょう!」とわざわざ知人が持ってきてくださった本です。作家さんも私と同じ区の堀端にすんでいらっしゃるらしいですね。
なるほど、私の地元の2・3百年以上前の情景満載!・・・って?うちはその頃海の中だわ。
風情・情緒は確かに江戸の気分満載で舞台も人々も時代をしっかり感じさせてくれます。でも、何かもう一つ物語りに乗れなかったのです。どの1話をとっても。気分良く情緒にポトンと浸れないんですね。言葉も情景描写も実にたくみにしっかり選ばれている感じ、時代考証もきっと確かなんだろうなぁ・・・という感じは濃厚に漂っているのに?
考えるに、むしろ時代考証をし過ぎて、それに囚われて話が年号でぶつ切りになるからかしら?何代目が何年に・・・とか言う記述で?でもその記述がなければ何十年、いや百年にもわたる一家の歩みは語れないだろうし・・・1話づつが本当は長編に仕立てるべき物を端折ってしまったからではないか?短編にするために?急ぐ余り何代目がどうして何代目がどう繋いで・・・という走り方をしたのが飲み込みにくい部分になってしまった?だから余りそういう部分に力を入れていない物語の方がまだおもしろく読めたのかもしれない。
一つの物語に書き込まれる商店の代々の変遷がこの物語一つ一つの眼目なのではあろうけれども、作家は江戸に何代も代を重ねた商家を縦線にそれに絡む江戸の庶民の哀歓をこそ描きたかったのだろう。
その縦線がある意味で物語の連綿性?を損なっているような気がして・・・だってその辺りが読みづらかったのだもの・・・と私はぼやいている。一つ一つのその屋の家業は面白かったのだけれども、共感しやすい庶民・町やの人々の物語を切ることになってしまったよう。
例えば一番読みやすくて好感を抱いた「石場の暮雪」はそういう商家の長話が無かったし、「やぐら下の夕照」もその点があっさりしていたせいか読みやすいと思い共感を感じられた。
さくらさんに好意を持った「木場の落雁」はさくらの成長話と商家の生き抜く智恵の両立が割合上手くいっているとは思うものの、やはり水に油が流れ込んでいる軽い違和感が読みにくさを読後に残した。ここまで描くならじっくりと長編乃至は中篇にまで育てても良いのではなかろうかと。
つまりこちらは短編として、読みやすい江戸情緒を単に求めていたのに対して作家には読者に江戸時代という時をきっちり意識させる時代物を書くぞという矜持がはっきりあったということかもしれない。私みたいに読みやすい作品、乗りやすい作品、溺れやすい作品を期待する読者は全くこの作家には迷惑な読者かもしれないなぁ?特にこの作品では。
周五郎さんや正太郎さん、周平さんとはまた違う丁寧さ・こだわり方がこの作家の持ち味なのかもしれない?この辺りが好き好きというところだろうか。
 

ねにもつタイプ

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ねにもつタイプ ねにもつタイプ
岸本 佐知子筑摩書房 2007-01
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岸本佐知子著

翻訳者さんだそうである。デ、この方の本を読む気になったのは何故か?勿論新聞の書評欄か下段の新刊広告のせいだろう?
もう忘れたというのは・・・この本も図書館に予約後1・2ヶ月は経っているからで、最近この手の記憶力がどんどん薄れていくようだ。予約して安心したが最後、何を予約したかなんて・・・キレイサッパリ?
でも笑っていられるのは、1にも2にもこの本のおかげ?
最初に「ニグ」を読み始めたとき・・・?「アラ、本の選択をまた間違えたらしい!」と、思ったのだった。
でも、そこで閉じてしまわないのが私の真骨頂でもあって、良いのか悪いのか?「うふっ」と笑い、「ニヤッ」と口の端を捻り、「郵便局にて」で、お友達の本だと認識したわけです。
その後はもう毎晩布団の中で数編ずつ(それ以上はいけません)読み進む事を自分への1日のご褒美にするということになりました。
読み終わって早速検索。図書館にはもう1冊しか(翻訳を除けば)著作は無いようです。ここのところ知人と父から「読め!」と届けられた本がうずたかく積もっているのもナンノカワ?この連休里帰りから帰ったらその1冊を予約するぞ!と、意気込んでいるところです。
それにしてもこんな妄想する人がいて、それを著述してしまう人がいるんだぁ!だってここはナイショの部分ですもん。
「郵便局にて」で、そう思ったのだから、「奥の小部屋」はあたしの頭の中そのまんまだし・・・「心の準備」も私の日常・・・「疑惑の髪型」ではとうとう声を放って笑い崩れてしまった。ナンデ・・・?
頭の中の行動様式は覗かれたか?と思うのだけれど(人は皆その人で、ユニークな存在なんだってば!)・・・表現の、ネーミングの、言葉の、突き詰め方の、なんとも途方も無い表出はやっぱり表現できる人の凄さだ!
だからあたしは「これ」をどう思っていたのかを改めて知るためにというか、私を追いかけるためにというか・・・まぁいいや、私を笑うために?彼女のこの後の、日記も、エブリディも、思い出も、最近も、すべて読ませてください!
それにしても、イラストがまたいい!つぼにぴたぁっとはまっていますね。

まんまこと

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まんまこと まんまこと
畠中 恵文藝春秋 2007-04-05
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畠中恵著

お待ちかね、畠中さんの江戸時代ファンタジーです・・・じゃないの?、残念なことにお約束じゃないのね?妖怪変化なーし!不思議なーし!ファンタジーにあらず!てっきりシリーズ外でもあやかし物だと思い込んでいました。
ファンタジーではなくよろず揉め事承り候?
なんて書くと周平さんの「平四郎活人剣」を思い出しそうですが、ま、それ系の走り書きかな?
明るく書かれていますが・・・それはそれなりに・・・彼らは彼らなりに・・・優しいんだもの・・・生きていくのは色々あらあな・・・でも智恵があればさ・・・あわせる力があればさ・・・人の世はそれなりに渡っていけるのだわね・・・なんて、事件は色々あっても何とかなって・・・
楽しく読ませていただけますね。北原亜以子さんの複雑読み込み心理ものとは北と南の違い。
主人公の醸すムードは畠中さんの世界のレギュラー陣?
やっぱりこれは言われちゃうのでしょうね「畠中ワールド!」
それはとてもステキなことですよ。なんにせよカラーは見つけるまでが大変なのですから。デ、見つけられれば・・・鬼に金棒!
安藤さんのコンクリート壁も、クリムトの金ぴか装飾も、ユトリロの白いモンマルトルも・・・でしょう?
だから「こころげそう」というのは妖が出るのか出ないのか?分かりませんが予約しました。150人待ちのようです。「ちんぷんかん」はやっと25人待ちになりましたし・・・楽しみにはしているのですよ。とにかく時代物を中心にと。でもちょっと「まんまこと」は薄味だったようなきがしないでもないんですね。トリオが楽しいけど一寸躁が勝ちすぎかな。もう少し熟成させて欲しいような?そういえば「はなしあいをもつ」とか「説明の場を持つ」とか・・・翻訳文を感じさせられたのですが・・・今じゃ当たり前ですか?「設ける」とかより現代的なんでしょうか。一つ一つ事件を解決して主人公は成長し、結婚へと、大人へと、階段を上る。成長譚は実に気持ちよくさわやかに読めるジャンルだわい!と、思いながらそれでもなんとなくものたりない気分で、やっぱり「一太郎さんを待とう」という気分の読後感なんですねぇ~。
 

オトナの片思い

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オトナの片思い オトナの片思い
石田 衣良角川春樹事務所 2007-08
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「ふむ・・・オトナとカタカナなのが気に掛かるけれど・・・」と、思いながら、随分長いこと実るも実らないも恋なんか袖も摺りあわない私ですから「片思いアンソロジー」?でもいいや、「ロング・グッドバイ」の後に軽い失恋話しでもつまんで見ますか・・・ってな気分でしょうか?
思ったとおり!軽い気分の短編集。
そして思ったとおり「オトナ」はやっぱり大人ではありませんでしたね。一寸がっかり。11作11人の著者はプロフィールに生年月日の入っていない数人も含めて多分一番年長が1955年生まれの佐藤正午さんでしょうか。殆どが70年代生まれという若さです。
それじゃァいかに想像力+創造力の権化?たちでも、まだ大人の片思いは無理でしょう・・・と、納得。
で、期待は外れましたが何作か記憶に残りそうな作品が!・・・って、失礼ですね。でも実際期待は軽い読み物だったのですからそれでもいいはずでしょ?作家先生たちにも?
最近読んだせいですか・・・三崎亜記さん「Enak!」と角田光代さん「若葉の恋」が印象に残りました。一寸いい感じかも!
山田あかねさんの「やさしい背中」と井上荒野さんの「他人の島」も心に残るかもしれません。
それにしても・・・「どこが大人だ?」いや「オトナ」か?とボヤキが出ます。主人公たちはまだほんのひよっ子じゃありませんか。
そんな年で、そんなことしていて、おとなになったつもりになるなよ!と思っています。
生きていれば普通にあるほんの心のさざめき程度の片?思い!ばっかですよ。これ痛いですか?修行が足らんよ、もっともっと痛いことは直ぐ後を追いかけてくるからね。デモネ、それとオンナジくらいオイシイこともあるからね。と、オバサンらしくつぶやいて閉じました。どっちにしてもおしゃれな気分を楽しめる間はまだまだコドモだね。装丁はちょっとじゃなく、おしゃれなおとなでした。

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