火天の城

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火天の城 (文春文庫) 火天の城 (文春文庫)文藝春秋 2007-06
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山本兼一著

山本さん、三作目。
先日「利休にたずねよ」を読んでからこの本が到着するのを待ち望んでいました。で・・・期待通りでした。
歴史小説を書く作家としては和田竜さんと共に楽しみにしたい作家です。凄い作家だと思っても残念なことに相性というものがありますね。津本陽さんは私は苦手なのです。「・・・ちょうだいあすわせ」でちょっと苦しくなりました。凄くまじめな?いい作品があるのに・・・みたいな勿体無さはありますが、読むのが苦痛なところがあります。
その点この作家も和田さんも平易な文章が楽で、題材目のつけるところが凄く魅力的です。ただ作品がまだ少ないので今後の楽しみですが。
安土城は3回行っています。最初に行ったのはもう20年も前になりますから・・・まさしく兵どもの夢の後。 ゴロゴロ放り出されたような礎石と草ばかりの荒れた城址に過ぎませんでした。天守台の礎石の上から見た琵琶湖が近くて・・・当時の面影を偲ぶのは・・・壮大で儚い夢そのものでした。その後段々整備復元作業が進んで3度目の時には秀吉や他の武将達の雛壇のような屋敷跡の特定も進んでいたようです。その後もっと進んで全貌が明らかになってきつつあるのでしょうが、それでも実際どんな建物が建っていたのかはまだ謎のままです。
それを見事な歴史小説でこの作家は定着させてしまいました。
この作品を読んだ人の頭にはこの親子二人の棟梁の面影と共に八角堂のある天守の姿が定着するだろうと思います。ふもとの安土町の城郭資料館に想定天守の模型が飾られていたましたが、それも八角形だったという記憶が・・・。
ただ現在では城跡の復元もさりながら安土町考古博物館とか安土町天守信長の館とか色々な資料館も出来て・・・その分どんどん馳せる夢の領域が小さくなっていくような気がしていますが。
こういう風に本で読む分にはまだ自分なりの想像の余地も有るのですけれど・・・。
作品で移築された事が描かれている三重塔と仁王門の当時の姿そのままが現在の摠見寺に見られるのは嬉しい事かもしれません。
安土城の造営を通して信長の芸術的な天才部分がとても素直に迫ってきたが・・・その苛斂誅求さ故に、今までそばに行きたくない男№幾つかに絶対入る人だったけれど・・・働ける男にとってはどんなに魅力だったか・・・という視点を得たように思う。 
岡部又右衛門と息子以俊にとっては彼らの才能をぎりぎりまで引き出し伸ばし生かしきってくれた主だったのだ。狩野永徳にとっても一官にとっても。そして親子という点ではこの古い日本の不器用な親のあり方がなんと胸に迫ることか。経験で裏打ちされた理解のなんと素直に心にしみこむことか。人を育てるのに背中を見せればいい時代は終ったとは言うけれど・・・それで済んだ時代のなんと懐かしく父性のゆかしかった事か!
職人技術者の言葉はまっとうで美しい。大普請はすべて圧巻だが、蛇石を上げるところは更に圧巻で、戸波清兵衛はまた素晴らしい。
そしてそのきめ細かい数字の圧倒的な存在感。巨大で凄いということの後ろにはこんなに膨大な数字が隠れていたのか・・・でした。

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警察庁から来た男

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佐々木譲著

佐々木譲さん4冊目。
「笑う警官」に次いで2冊目の「道警シリーズ」になるらしいです。
面白く読んでいますが、こういう作品は感想があってないような気がするのです。志水辰夫さんの作品なんて大好きで10冊以上読んでいてもほとんど感想記していないですもの。その点では自分ながら意外なのが横山秀夫さん。やっぱり10冊以上読んでいると思いますけれど・・・不思議なことに7・8作は感想ちゃんと書き残しているのですね。この差はどこから来るのかなぁ・・・。
警察という組織の形・・・志水さんはちょっと違うけど色々な作家の作品たちから?この頃結構な知識があります。 やっぱりねぇ・・・とは思いながらもあの「笑う警官」で素晴らしい組織力、カリスマ性を見せた佐伯さんはじめあの時の警察の方々は・・・冷や飯中。
なんと勿体無い人材の墓場!・・・と、思って杉下右京さんを思い出すことになります。(血)税金を提供している庶民のためにこういう人材もっと登用して頂戴よ!と言いたくなりますね。
それはともあれ、彼らは、津久井刑事は特に?気を使いながら警察庁からきた男に協力をして、いまひとたび、道警の埃を叩き出します。監察ってスキルが大事ですね。本当に必要な監察を効果的に上手にやって警察の浄化を常に保っていただきたい・・・と、思いつつ・・・検挙率との兼ね合いはどうなる?と、心配する私にも・・・どうしたもんでしょう?
本道にいない刑事達の活躍に胸がすく・・・と言いたいところですが、真実味を感じさせるほど!地味です。最もこの明るみに出たもののせいで道警はまた大揺れに揺れ、組織改変で適材適所が益々出来なくなる組織になるのではないかと・・・老婆心がおきます。彼らはこれ以上冷や飯を食わされたら・・・行くところはあるのでしょうか?大丈夫道警シリーズ3が出ているらしいです。佐伯さんにもですが、今回は出番が少なめだった小島さん(大活躍でもあります)にはもっとさっそうと活躍して欲しいです。大好きな北海道のために!
佐伯さんの慎重さのせいか津久井さんの遠慮のせいか・・・いや、多分彼らは男だってことだね・・・二つのチームのすり合わせがもっと上手くいっていたら・・・もっと早く片付いたのに・・・と思いますがそれじゃ話にならないしと苦笑です。 ところで刑事と暴力団幹部との見分け方・・・分かりますか?

バスジャック

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三崎亜記著

この作家の本、これで5冊目です。この作品を読むのが遅くなったのが気になっていました。そして、改めて感心しています。
この作家の5冊の本読んで、一瞬たりとも厭な気持ちにならなかったことにです。本当に不愉快な思いさせられることが一度も、どこでも、無いんです。いや、無かったです・・・と、書いておいた方がいいのかなぁ・・・。宇宙に小さな無限の塵の様に漂っているあらゆる優しさ(悲しみを含んだのや、微笑みを湛えたのや、不思議を纏ったのや)を一つ一つ丁寧に拾い上げて、それを読む人の心にコトリと小さな音をたててソフトランディングさせてくれたようです。
この七作品(長いのや本当に短いのや)の中では「二階扉をつけてください」に心を震わされる怖さがありましたけれど・・・。これを読んでいた時「会社から離脱して今度は社会に加入?する定年後の男性陣」への警鐘とも思えました。都会の勤め人は地域に無関心ですものね。でも「しあわせな光」と「雨降る夜に」はこの人の真髄を軽く垣間見せてくれたのかも・・・としあわせな気持ちで読み終えました。「動物園」は「廃墟建築士」の中の「図書館」を思い出しました。社長と彼女の関係が同じ微妙な寂しい淡いの中です。
「送りの夏」の真摯さはなんとも好ましい佇まいで・・・人と死の距離のとり方の様々な人それぞれのありようを受け入れることは、とりもなおさず生きている人の全ての距離の撮り方繋ぎあい方を受け入れているようで素直な気持ちになりました。
「2人の記憶」はまた愛の一つの真実の面白い描き方でした。受け入れるってこういうことかもなぁ・・・と。そんなわけでいままでのこの人の作品は全部愛読できるのが嬉しいです。
 

聞き屋与平

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宇江佐真理著

宇江佐さんが続きます。
これは主人公与平の晩年を描いて主人公の死で終るので、明るい作品とはいきません。といって主人公がしたいこと「聞き屋」という変わった商売で聞く話とそれから派生する様々なことどもは明るくないわけでもありません。       つまり人生はこんな色合いで終始するんだろうな・・・という感慨が生じました。 人の人生に関わるということは怪我無しにはできません。しかし聞いてもらうことで聞いて貰った人が助かるのは事実です。  ただ黙って聞いてくれる、そういう痛みを引き受けてくれる人が身近に居たなら・・・あなたは幸せです。聞いてもらって再生していく人が清清しく描かれています。人のつながりが幸せ感になります。
今、そういう人の居ない人が圧倒的なんでしょうね。
その意味で言えばまさしくこれは精神科の医者の原点です。カウンセラーの原点と言ったほうが身近かな?
薬を処方する前に出来ることがあるでしょう?ということです。
だからこれは時代をかりた普遍的人間の物語です。与平さんは亡くなってしまったのですが、ある意味聞くことの中にある醍醐味は奥さんに伝わったのかもしれませんね。この仕事は尽きぬ井戸のようなものです。作家の覚悟次第では物語は永遠に続いていくという気がするのですが・・・
人は聞いてくれる人を常に必要とし、また人に必要とされる事をしたいと願う人も常にいる・・・それが人間の営みのようですから。

桜花を見た

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宇江佐真理著

短編5作。ま、そんな事情で宇江佐さんが続きます。
この5作は少々長い。そう感じさせたのは2編「桜花を見た」と「別れ雲」この2作はなんていうか書きたいことがあって書いているというより書くために書き連ねた・・・という感じを受けたからかしら。主人公が迷っているのが・・・そのゆらぎを書くために費やす言葉が言葉に過ぎなくなって、そのために書いているような冗長さを感じてしまったのだ。
同じうっかりすると冗長と取られかねない長さなのに後の3作がそうはならずに読む満足感を与えてくれたのは、作家が書きたい人物を書いていたからではないだろうか?
「酔いもせず」のお栄は・・・北斎とお栄を描いた作品は何作か読んでいるが、この作者のお栄は画家としての意地と父への尊敬献身の間の揺らぎを書き込もうと奮闘しているのだという印象が迫ってきて、お栄の感情をかなりこねくり回しているにも関わらずなんだか痛々しく理解できるような気がする。お栄の人生、生きる道筋に愛情が持てる。
あとの松前藩を舞台にした作品はこの作家の作品としては重みが違う。
書きたい気持ちを感じる。特に「シクシピリカ」はいい。先日「たば風」の中の「錦衣帰郷」でこれだけの作品を書くなら徳内の一代記を書いてもらいたいと思ったくらいであるが、この作品は徳内の側からの彼の人生を描いて「錦衣・・・」を補筆している。・・・と、書いて・・・・・あれ?どっちが先の作品なんだ?と疑問に思った。作品の出来から考えると・・・「錦衣・・・」が後っぽいが。で、調べた。「たば風」05年5月。「桜花・・・」04年6月。
「シクシピリカ」を書いてから・・・やっぱり物足りなくて?意欲が湧いて?「錦衣帰郷」を描いたんだ。凄く納得!

神田堀八つ下がりー河岸の夕映え

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宇江佐真理著

初めてこの作家の作品を読んだ時には正直この作家の作品を好んで読もうとは思いもしなかった。それがたまたまサークルで取り上げられて有無を言わさず?回ってくるようになって・・・いい作品を見つけた。
今は回ってくるのを楽しみにしているくらいだ。
前に書いたが「たば風」が転機?になったと思う。その前にもこの作家は短編がよさそうだとは思ったが・・・「錦衣帰郷」で違う一面を見たように思った。こんな事をいうのもなんだが・・・この作品をしっかり書き込んだら、帰郷というその一面だけでなく徳内のすべてを描いたら、素晴らしい作品になってこの作家も男性の時代作家に肩を並べる・・・いや骨太の作家になるのではないかという気がした。次いで回ってきたのがこの作品。短編6作。「おちゃっぴぃ」と同じく長屋物。堀尽くし。登場人物のその後も入るので馴染みやすい。
先日宇江佐さんの作品の話をしていたときにある人の感想は「いかにも女が藤沢さんや山本さんの世界に女の情感を押し込んで書いているって感じが、女を感じすぎていやなの」だった。
そうか・・・と思った。「恋いちもんめ」を初めて読んだときの私の感想はそれに近いものがあったのかもしれない。だから彼女に「たば風」を読む事を薦めてみた。「違う印象を持つわよ」と。
しかしここ数冊の短編集の中には特に女性作家を感じさせない作品がある。しっかりした江戸の下町世界を堅実に構築している印象もある。確かに女性ならではの視線はあるがそれはそれでいい視線だと思う。
この6作の中では「浮かれ節」は既読。「どやの嬶」「身は姫じゃ」を楽しく読んだ。「身は・・・」のほうには落語の雰囲気もある。それが女性らしい視点で描かれているのが功を奏している。「八つ下がり」の友情もむきつけじゃ無くていい。しかしこういう話には確かにあるピリッとした何かが欲しいという気もする。そこがすこし惜しいような・・・。
 

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