見知らぬ海へ

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見知らぬ海へ (講談社文庫) 見知らぬ海へ (講談社文庫)
隆 慶一郎講談社 1994-09
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隆慶一郎著

そんなわけで(「一夢庵風流記」参照)この本も続いて旦那から。
この本の場合は彼の城廻の方の関連がより深いようです。それに静岡の海や城はなじみのある懐かしいものですから。
武田といえば山梨・・・なんか海とは縁があるような気がしませんが、その武田家も恋焦がれた海・湊を持っていた時期があります。武田の海軍、意外と知られていないかもしれませんね。その武田の海軍の本拠地が清水港。そこで育ち武田家滅亡の後、向井水軍を率い北条水軍と駿河湾での決戦を経て大きく成長していく水軍の将を見事に描いた作品です。
慶次郎に惚れたように、やっぱり読む人を惚れさせずにはいない見事な男を描いています。多分男が惚れる男がテーマなのでしょうけれど、それはやっぱり男も女も人が惚れる人ということでしょう。
こんな男今の時代にいやしないわ・・・とため息も出ようものですが、でも時代が要求する人物というのはいるようで、時代にはその時代を見事に生きる人が必ずいるものです。あの時代だからこそ坂本龍馬は輝き高杉晋作は光る。そしてこの向井正綱もこの時代だからこそ輝いた・・・ということはあるのでしょうね。それでも、隆さんが拾い上げなければ本の好事家の間だけでひっそり知られただけの存在で終ったでしょうに。
歴史小説を書く人の真の喜びは自分が歴史の闇から引っ張り出した人がちゃんと明るみの中をひとり立ちして歩き出すことなのかもしれないな・・・なんて思いながら読んでいました。
この先駿河の海を見ると、ここで自らを磨き上げ素晴らしく強い水軍となって戦い抜いて死んでいった男たちの亡霊を見られるのではないか?という気がしてきます。
しかもこの向井正綱という魚釣りの大好きなのどかな気質の人があの時代にではなく生まれていたらニコニコと素直に釣り糸を垂れて一生を送ったに違いないと思われるだけに、ある意味時代を得て生まれた人って幸せなのかも・・・とも思われるのですが。反対に名を残すことの裏にある人生の凄みは決して幸せなものではないのかもとも思わされるのです。無名で死んでいく幸せというものをもまた合わせて感じられた作品でした。
それにしても戦国時代にはどれだけの漢が排出したのでしょうね?今後もどんな人物に光が当たることか・・・と、思うと、もう隆さんの新しい作品にお会いできないのが本当に残念です。全部の作品を読もうと思いますけれど・・・少ないのです。
 

一夢庵風流記

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一夢庵風流記 (新潮文庫) 一夢庵風流記 (新潮文庫)
隆 慶一郎新潮社 1991-09
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隆慶一郎著

大昔、子供が少年ジャンプだか少年マガジンだか読んでいた頃は結構一緒になって漫画見ていました。その中に「影武者徳川家康」だか「花の慶次」だか?見た覚えがあります。そのとき隆慶一郎の名も覚えたのでしたっけ。隆さんのことは父が、なかなか面白い作品を書く人で「吉原御免状」など読むといいと言っていましたが・・・いまだに読んでおりません。が、いつだったか旦那が「捨て童子・松平忠輝」を買ったときにそれは読んでいます。
あの本は面白く読んだのに何故続けて隆さんの本を読まなかったのか不思議です。今回この本も旦那から回ってきて、読んで本当にそう思いました。実に面白い!と。
ただ、読んでいる間にどうしても慶次郎が漫画の・・・つまりケンシロウの顔になってしまうことが厄介でしたね。「お前は既に毒されている」と呻きながら読了。
歴史の襞の中にある意味落ちてしまった、けれども魅力的な人物を探すアンテナに長けていたのでしょうか?加賀の前田家には多分殆ど資料の残っていない人物なのかもしれませんが・・・そういえば・・・と、記憶を辿って、先年NHK大河ドラマでした「利家とまつ」の中で三浦友和さんが演じた利久の養子が慶次郎でした。確か及川光博さんが演じた?
漫画の慶次郎と大分開きがありますが・・・そんなわけで、もなにも?大抵の人にはイメージの及ばない人物です。有名な武将は人それぞれにイメージがありますね。家康だったら誰が演じるとぴったり!みたいな?
でも慶次郎は誰が演じてもヘーこういう感じの人なんだ・・・みたいに受け入れやすいでしょ?それだけ埋もれていた人物が実に大きく大らかに血肉をぎっしり詰め込んで華々しく登場してきた感があります。
多分二度と薄れることは無いだろうと思われるくらい見事に印象的に!
古文書の海を探索するのはきっと物凄く面白いことなのでしょう?どんな宝が眠っているか・・・全然違うかもしれませんが塩野七生さんのローマ物も殆ど現地の古文書が種だと聞いたことがあります。
忠輝もそういえばそうでしたっけ・・・と思って、これがこの作家の素晴らしい魅力なんだと思います。全く史実に無い人物を勝手に造形したのではなく、ちゃんと資料の海を踏査して背骨を磨きあげてから時代の色の人物を肉付けして、想像力をありったけ動員しているからなお更読むと血沸き肉躍るのでしょうか。
こんな人物いたら私も惚れるんだろうな・・・だけどそれはきつい人生を選び取ることになるのだろうな・・・だけど本人は全く・・・そう、人の心を攫た上にさらりと自分の生き方だけを見つめて生きちゃうんだろうな・・・なんてね。骨にも捨て丸にも金悟洞にもなれるわけ無いんだから!本でお目にかかっただけで本当に良かった!と、胸をなでおろしています。で、ここに至っても、ケンシロウ風イメージが消えないので今のNHKの直江兼継続の線の細さが心配なんですよ。
「生きるまでいきたらば、死ぬるでもあらうかとおもふ」・・・かっこいいなぁ!

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