春にして君を離れ

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春にして君を離れ (クリスティー文庫) 春にして君を離れ (クリスティー文庫)
中村 妙子早川書房 2004-04-16
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アガサ・クリスティ著

先日NHKでアガサ・クリスティの番組をしていて、この本が話題になっていた。ポワロとミス・マープルとトミーとタッペンスなどのシリーズは多分全部読んでいるが、気にはなりながらウェストマコット作の作品は無意識に避けていた節がある。作家の自叙伝という物は読書の助けになるという人が居るが私はなるべく避けたい。伝記というものが子供のときから何故か好きではなかったからかな?舞台裏を見たくない心境と通じるのか?ところがその本が友人からすばやく!廻ってきた。正直言うとその番組のせいで読みたくなってはいたのだ。
解決の無い、死体の無い、人間性への難問?そんな印象を語っていた人から受けたからだ。そして実際は怖いミステリー小説だった。自伝的という人もいて、実際そんな印象も受けないではないが私は小説として読みたい。こんな砂漠での数日が無かったら、きっと一生自分と向き合わなかったジョーン・スカダモアの自分を見つけ出すミステリーでありサスペンス。昔の友人ブランチに出会ったことから生じた謎。過去の何かを思い出すたび、記憶に隠れていたものを広い出すたび、打ち震えるジョーンの心の世界のミステリー。
届けてくれた友人は「本当に主人公最低に厭な女よ。あんなときを経ても変わらないのよ」と言いおいて帰ったが、私はそうは思えなかった。
あれだけ自分と向き合った挙句にジョーンが変わらなかったのは、変われなかったのは・・・?
ジョーンが家に帰ったとき「許して」というつもりでいたとしても利口なジョーンは本能的にそれでも夫が必要としているのは夫が「プアー・リトル・ジョーン」といえる彼女だと言う事を察したから?
「風と共に去りぬ」のアシュレイを私は思い出していた。ロドニーはその手の恋をする男じゃないか?
彼はレスリーの事を恋していたとズーッと思い「その恋を踏みとどまる知性を家族のために雄雄しく発揮した」男のつもりで、それを心に秘めていればそれなりにロマンチックな世界に夢見て住んでいられる男なのだ。仕事もそういうこと。
実際ジョーンが留守にすれば幸せ感・開放感で浮き立つかもしれないが・・・若いときの本当の夢を本気で妻に説得できなかった男が・・・実際夢に突入していたら・・・?本当に一人になったら?
子供たちも同じこと。理屈をつけたり感情的に反発したり母に対して取る態度は大抵の子供が一度は通る道筋。それを幾つになってもそこで止まっている幼児性もあり、また自分の生活を作ることで自然に親から独立していけもするエイヴラルもトニーもバーバラも、母を有能な雑用係とすることで何不自由なく生きてきた。ほかに何を望める?
後十年たったらジョーンの自己探求のミステリーは違ったものに成るだろう。その時その時点ということがその作品の力にもなる。まさしくその年にその数日があったということが・・・よしんばそれがアガサにあった時間だったとしても・・・この小説が多分全ての女性の一つの指針にもなり恐怖にもなるということは変わらない。
自分をじっくり覗き込む時間は無い方が幸せかも・・・でも必ずこういう時間は誰にでも来る。ロドニーのその時間は多分ジョーンのより甘いそれになるのではないか?・・・と、思ったのだけど。別に男の方が女よりロマンチストだとは思っていないけれど。

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光
三浦 しをん集英社 2008-11-26
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三浦しをん著

「嘘ッ!」と読み始めて直ぐ思った。毒される前に読むのを止めようか?と迷った。
三浦さんの本を読んでこう思うことがあるとは・・・思わなかった。といっても、まだ?5作目です。
私の知らない・・・と言うより私の知っているしをんさんと対極にある別のしをんさんでした。驚くねぇ。
先日の道尾さんのこともあるから?新しい本を読むのを止められません。死ぬまでに読みたい本全部読めるでしょうか?考えるだけ野暮ってモンですか。そして時にこういう本にも出会ってしまいます。リスクです。
人にも時にも何の期待も抱けない話でした。作家にはよくこういう思いをさせられることがあります。安心していたのに・・・。こういうときに読む作家だったのに・・・。みたいな?
そして実際のところ作家の方にもあるようですね。自分の書くものに倦む時。自分の連作登場人物に縛られすぎて息が詰まる時。片側に偏った分銅はもう片側にも同じ錘をね?だからきっといつかこの作家の暗い話にあうだろうと思っていても良かったのですが・・・不意を突かれました。それも手ひどく。
主人公といって良いのかな?信之、輔、南海子、それに核になるのが美花。その親その子その人生どこにも光は射さない。信之の美花への忠誠心にさえそれは求められない。子供の執着以上の成熟はないのだから。島で育っていた時までの、あのつなみが来るまでに出来た精神形成がすべてで、人間関係も時に触発されて発展、成長することは無い。全ての人が何らかの暴力を振るいすべてが何らかの暴力の支配下にある。助けは来ないし、自助努力もない。彼らは本気で成長も成熟も脱出も望んでいない。で、暴力を含めた古い関係に依存している。こんな話イヤダ!という反応しか出てこなかった。
会社に勤め、アルバイトをし、幼稚園児の母という社会もありながら、ここに出てくる誰一人社会の一人になろうとか、心を開こうとか、他人という人間が居る事をうけいれない。自分のことしか考えずそこで終結している。人の世で生きていくことは彼らにはありえない・・・どうしてあげようも無く、受け入れようも無い。ここにはなにも無い。厭なものを覗いてしまった!

さよなら、愛しい人

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さよなら、愛しい人 さよなら、愛しい人
村上春樹早川書房 2009-04-15
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レイモンド・チャンドラー著  村上春樹訳

先日NHKハイビジョンでチャンドラーをしていましたね。それにこの間村上春樹訳で「ロング・グッドバイ」を読んだところでしたし・・・面白かったし。その後また新しい訳があればチャンドラー読むのもいいかな・・・と、思っていましたし。で、調べたてみたら、村上さんの訳でこの本が出ていたことが分かったので読み直しました。
こういう時ってやっぱりちゃんと考えているんですかね?NHK。古い映画の「さらば愛しき女よ」も放映していましたし。ロバート・ミッチャムがマーロウに適しているかは?ですが・・・いや、良かったかも!シャーロット・ランプリングはいい感じでしたね・・・と、思って見ました。実際のところ今は誰がやっても、この人がマーロウ?ヘッって感じになるのでしょうが。しかし厄介な人だなぁ・・・と嘆息です。幾つか道があったら絶対細い方、険しい方、曲がりくねった方、人が来ない方を選ぶ男です。でも救われることには、ちゃんと同じ道に迷い込む男なり、まぁ女なりがちゃんとそれでも居ることです。ムース・マロイとヴェルマの恋はある意味「美女と野獣」美女の方は大分腐っていたことが分かりましたけれど・・・あの時代あの世界で生き抜いていくとしたら・・・と思えばまぁねぇ・・・って感じでしょうか?この物語りの魅力の一つはマロイの8年越しの愛なんですが・・・野獣の愛は切ないです。ベルがベルでいてくれる可能性って低いですもの・・・って女性の私が言っていいものか?ベルになってあげたいものですよ、本当は!野獣もこの場合王子様になることはないし・・・人間の執着は悲しい。といって執着できなくては人間といえない。マーロウだったらそういいますよね?
そういうわけで?外国のこういう乾いていそうな風土での捩れたウェットの世界・・・楽しまなくちゃ!そして私も一風変わったロマンスに浸るのです。
それにしても、映画以上に映画を感じさせる本です。気が付いてみたらミッチャムさんを蹴飛ばしてちゃんと私のマーロウがデーン!と出来ている気がするんです。存在感が抜群なんですね。
 

笑う招き猫

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笑う招き猫 (集英社文庫) 笑う招き猫 (集英社文庫)
山本 幸久集英社 2006-01-20
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山本幸久著

「カイシャデイズ」「ある日、アヒルバス」「凸凹デイズ」に次ぐ4作目。これを返したら、またこの人の作品を探してこようと思っています。
やめられません、ここまで読んで1作もはずれが無いのですから。
いい本とか、役にたつ本とか、強烈な何かを得た本とか、まぁ色々な本がありますけれど、こんな心のありようの「ほどの良い」本って・・・最近では希有!
好きな作家はどんどん増えつつありますし・・・ホントを言えば昔から好きな本をまた読み返したい・・・っていうのもあるんですけれど。父じゃないけれど、「一日一日日が短くなって、できることがどんどん減っている。読みたい本が山済みなのにTVなんか見ていられるか?新聞も隅から隅まで目を通さなくともこの年になれば、ニュースを知らないでも生きていける」全くごもっとも!88歳と61歳が同じこと思ってどうするの?と、思うけれど、本当です。
最近の趣味が「日本語の本」と限定されているので・・・辛いところです。翻訳物を読みたい時は二倍の速さで本を読み飛ばさなくてはなりません。・・・って、こっちの勝手な事情なんですけれどね。
そんな私が二倍の速さで・・・なんて大上段に振りかぶらなくても、この作家の本は速く読めてしまいます。面白さが止まらない。しかも登場人物皆好きになってしまう。彼らの先が知りたくてもどかしい指でページをめくってめくって・・・読み終えて・・・ああこの後彼らは・・・また彼らに会いたい!と思うのです。「アカコとヒトミ」絶対会えるような気がしています。   すれ違えるように思うの、  バスに乗ると居るの、 広告の隅に凸凹社ってロゴが入っているの・・・そんな近しさが好きです。ガンバッテいるので好きです。しかも末広がりとかしり上がりとか・・・いいイメージがてんこ盛り。
 

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