おそろし 三島屋変調百物語事始

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おそろし 三島屋変調百物語事始 おそろし 三島屋変調百物語事始
宮部 みゆき角川グループパブリッシング 2008-07-30
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宮部みゆき著

「三島屋変調百物語事始」という副題が付いています。
この本図書館に予約したのが何時のことだったかもうすっかり忘れ果てています。それくらい経ってようやく届きました。ようやくと言えば十日間家を留守にしていた間に東野圭吾作「流星の絆」が届いて取りにいけなかった間に流れちゃいました。改めて予約したら1200人待ちですって!時間が経ったのに増えてる!これってTVドラマ化のせいよね?チェッって感じ?
さてようやく来た本はその分?予想に違わず!面白く読めました。
全くもって名手ですよ!名手過ぎてすべりが良すぎると感じる何かもかすかに頭をよぎるのですけれど、面白く読ませていただける安心感も手馴れた感じ!「しっかし、上手いよなぁ・・・!」嘆声。
百物語と言う既成の枠組みを使いつつ、新しい意匠を凝らしている面白さ。百の物語が語られ何が起こるのだろう・・・と期待感を持たせます。
その何かにも新しい宮部さんならではの意匠が見られそう。それともむしろ現代の衣装をまとった百物語が時代の枠の中で語られるのか?
さぁどんななんでしょう?
心に大きな傷、暗い穴を抱えてしまったおちかさんが物語の聞き手となるのだけれど、だからこそ誰しもが語りたくなる、何かを打ち明けたくなると言う設定も無理はない。むしろ余りに何か人や事象に訳知りすぎて敏すぎる叔父さんの動きが少々出来すぎてあたりまえでない印象を受けるけれども、心ある叔父叔母夫婦に見守られつつ前へと僅かずつ進んでいくおちかさんがいじらしくて(だけど本来は恵まれ過ぎて生まれた人よねとやっかみつつも)・・・つい応援しつつ見守って、話に耳を傾ける自分に気が付いて「宮部ワールドの引力だわ・・・」と苦笑してしまう。心に大きな苦しみ、闇を抱えてしまった全ての人にこのような優しい手が差し伸べられるといいのに・・・なんて思って、そういう人がこの本にめぐり会ったらなにか感じるところが多いかもねぇと・・・。そう!怖ろしい物語だけれど、読む人によっては癒しにも助けにもなるのかも知れず・・・
宮部さんの長い物語をいつも長いと感じずに読みふけってしまう私は今回もまたどうせなら百話聞きたいと願い始めているし・・・。 是非、広げた大風呂敷にしっかり詰め込んでください!
実際途中で松太郎に殺されてしまった良助はどうなるの?なんで彼の事が出てこないの?って声が私の心の中にもずうっと聞こえていたから・・・家守の男のように・・・「まだ何かあなたとは縁がある」みたいな気持ちになって・・・。そう、話をしたい人は山のようにこの世にはいるでしょうし・・・自分の事を心ゆくまで語り続けられたら・・・それだけで救われるという状況はいつもあるものだし・・・人の心の、この世の中の「おそろし!」はあらゆる時の間に、襞に、ひっそりと、またはおどろおどろしく存在していることは確かなんだから・・・と期待しきりです。

・・・って、書いていたら友人からメールが入りました。「今、続編が読売朝刊で連載されているよ」   百話期待できるのも・・・そうしたら・・・何が起きるか?

カラスの親指

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カラスの親指 by rule of CROW’s thumb カラスの親指 by rule of CROW’s thumb
道尾 秀介講談社 2008-07-23
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「カラスの親指」     道尾秀介著

週の始めに図書館から届いたと連絡があり、貰ってきた。
その夜から早速読み始め、ほんの少し読んだら寝るつもりだった。ところが・・・止められなくなった。もう少しもう少し・・・と、気が付いたら明け方の4時になっていた。当然、翌日寝坊して起きたら、旦那が「昨日遅くまで起きていたみたいだね?」「うん、読み始めたら面白くて、止められなくなった。」「これ?道尾・・・?」「そう、もう何冊目かだけど、面白い作家だと思ったからまた予約したんだけど・・・ここまで化けるとは・・・今までの最高傑作だね。成長してるよ!」偉そうに言った。
言った後で気になった。新聞なんかの広告で見つけた作家で、見つけたのから適当に予約して読んだだけだもの、出版順に読んでいるか・・・?
確かめとかなくちゃ。偉そうにああ言ったけれど、ヒョットすると初作が上出来最高傑作で・・・後はジリ貧とかパワーが落ちてきているってこともありえるじゃないか?
読んだのは「シャドウ」「片目の猿」に次いで「ソロモンの犬」3冊読んで「シャドウ」が今のところベスト。さて、調べてみましょう・・・
「シャドウ」2006年9月。「片目の猿」2007年2月。「ソロモンの犬」2007年8月。それでこの作品「カラスの親指」が2008年7月。ああ、一応ちゃんと出版年順に読んでいるんだ。ジャァ、旦那に言ったことは正解なんだ・・・偉そうに言った点だけ割り引いてね。
そんなわけで2晩で読み終えた。文句無く面白かったし、実に見事に構成されてもいた。書かれた人物が皆私から見たら破天荒な人物なのに・・・愛せた。実に上手く騙されて、私も最後の彼らの詐欺の失敗に固唾を呑んだ。そして、樋口の弟の遊び心?の鷹揚さに驚かされた。えーほんとそれでまさか終るんじゃないでしょうね・・・で、最後。
いい終りだったねぇ。嬉しくなるじゃないの。テツさんの人生。彼らの人生。どんな人のだっていとしくなりそうな・・・全ての人の人生!
どんな今があっても人生どうにかなりそうじゃない?という肯定の足が地に付くことといったら!
冒頭の詐欺の出だしも実に興味をそそられる緻密ないい出だしだし。他にも忘れられない印象を脳裏に浮かべさせる情景も上手いが、一番いいのは、好きなのは、テツさんが縁側で「あちっ!」と言いながらタケさんに指の話をしているところ。縁側で掌を見つめ、指を付けたり離したりしているタケさんの背中。
あの場面は本当に秀逸、最高。私まで指を付けたり離したりしているもの・・・まだ。詐欺が「ヘロン」って、ああいう小さな景色の積み重ねがこの作品を高めているんだと思う。
で、今朝。朝刊を開いたら、この作品の「第62回日本推理作家協会賞」受賞の記事が載っていた。やっぱり!
だけど柳広司さんという知らない作家の「ジョーカー・ゲーム」という作品とダブル受賞になっていた。その柳さんのその作品読んでどっちがいいか比べてみようか?それとも先に道尾さんのほかの作品予約するか?
調べてみたら、道尾さんの新作「鬼の跫音」は80人待ち、柳さんは190人待ち!
どっちにしても・・・図書館は待たすんだよねぇ。
 

シャドウ (ミステリ・フロンティア) シャドウ (ミステリ・フロンティア)
道尾 秀介東京創元社 2006-09-30
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片眼の猿 One‐eyed monkeys 片眼の猿 One‐eyed monkeys
道尾 秀介新潮社 2007-02-24
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ソロモンの犬 ソロモンの犬
道尾 秀介文藝春秋 2007-08
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源平六花撰

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源平六花撰 源平六花撰
奥山 景布子文藝春秋 2009-01-09
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 奥山景布子著

先ごろ朗読のサークルのベテランさんたちが「耳なし芳一」を練習しているのを聞いたから・・・田辺聖子さんの「文車日記」を読んで「知盛」に同感だから・・・ってわけでもないのですけれど、ふと手に取りました。永遠の源平盛衰記です。
この作品はそういう「平家物語」とかの古典や歌舞伎、舞踏など古典芸能などから題材を採った、というよりむしろその中を自在に泳ぎまわった結果・・・と思われるような短編6編。源平に縁がある、または出来てしまった女性たちをなんとも美しい文と言葉で描き出しています。
古典の豊富な知識と古典藝術の造形の深さとにひれ伏してしまいました。知識だけで書いているのではないのです。知識だけだったらここまで心を揺さぶられずに終ったでしょうから。この源平が盛衰した時代の空気とその時代に生きざるを得なかった女人たちに対する憧憬と憐憫が作家の頭の底に根付いているのだろうな・・・と感じます。
伝わった様々の伝承、文学、謡曲、歌舞伎に至るまで、下敷きにしている材料は様々な形で私たちも目にし耳にしてきたものなのですが・・・奥山さんの紡いだ色合いが物語を新たなものにしたようです。
上手いなぁ・・・とも思って読み終わって調べれば・・・なんと処女作!
もっとも「オール讀物新人賞」を取った作品を含むとか。どの作品が賞を取ったんだろう?私的には「常盤樹」だけどな。これが一番まとまりのある小説になっていたように思うのですが。「平家蟹・・」の姉妹とか「啼く声に」の島娘にはオリジナリティが多かったし・・・という気もする・・・なんて思っているのですが。
好きな順に並べると「常盤樹」「啼く声に」。 ついでちょっと題材の用い方が安直な気がしないでもないけれど「二人静」。 「平家蟹異聞」は少し怖いけれどその中に悲しい魅力があって。「後れ子」は生き抜いて自分にたどり着いて大原御幸を迎えるに至る時を美しく描いているけれどももう少し練ってからでも・・・という気も。「冥きより」は熊谷の有名な?妻相模の心に迫るというものだけれどやはり題材はつらい。
そうこう思いながら古典をそのまま書き下し文にしたかのような、麗しい香気に包まれて、この作品を読んでいい時間を過ごせたと思った。
 

橋をめぐる

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橋をめぐる―いつかのきみへ、いつかのぼくへ 橋をめぐる―いつかのきみへ、いつかのぼくへ
橋本 紡文藝春秋 2008-11
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 橋本紡著

私の今の行動範囲の中にばっちりはまる六つの橋の名を題にした短編集を見つけました。隅田川にかかる橋2つ、小名木川、大横川など深川の堀に架かる橋4つ、そこに住む人々の・・・読み終わってみると温かなお話が6つ、味わえました。登場する人々の年齢も様々なら置かれている状況もばらばら・・・だけど受ける成熟感には透明感もあっていい感じだなぁ・・・と思って、この作家は・・・と裏を見れば・・・41・2?お若いんだ。
この作家の初めての作品です。
かなり書きなれて、手馴れた感じも受けるのに、清潔感があって、快い味わいがあります。どの人もおろそかにされない丁寧さが感じられ、どの人の未来にも明るみが射していて、和やかさがあります。そこが非常に心引かれるところですが、それは必ずしも下町だから、深川だからと言うわけではないのです。多分ここが舞台だとこういう心を書きやすいのだろうな・・・と思いますけれど、どこにだってどの人にだって普遍にある素直な心根が質素に描かれているのです。
最後の橋を渡って行くおじいちゃんは孫や息子の世界がそんなに取り付きがたいものではない事を知るでしょうし・・・息子は逃げ出した場所に帰る歓びを見出すでしょうし・・・孫はその両方を身体で知ることでしょう・・・そういうもんだ!なんて頷いているところです。
橋のリベットが手に残す感触が思い出を呼び返すキーになるように、心の中に思い出をよみがえらすキーは幾つも幾つも生きてきた年月の長さの中に埋もれているんだろうな。何かが琴線に触れて、何かが甦る!それってステキね?
永代橋、清洲橋、まつぼっくり橋、亥之堀橋、大富橋、八幡橋この近辺を歩くと彼らに会えちゃう・・・って思っちゃうね・・・なんか・・・

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