牛込御門余時

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牛込御門余時 (集英社文庫 た 38-2) 牛込御門余時 (集英社文庫 た 38-2)
竹田 真砂子集英社 2008-08
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竹田真砂子著

牛込御門に何かしかのつながりのある家、人、の物語を8作集めた短編集です。面白い趣向だと思いましたね。さりげなくどこかで牛込御門が出てきます。私の住んでいた牛込薬王寺町付近の町名がころころと転がり出てきて・・・つくづく市谷近辺は羨ましい!こまかい町名がちゃんと残っているのですものね。浅草からはとうに懐かしい町名が消えました。最近益々古い名前が無くなっていきます。そこが谷だったのか台地だったのか・・・どんな歴史があったのか・・・地名から過去を知るのはどんどん難しくなっていきます。いいんでしょうかねぇ?どこもかしこも「何とか丘」。 そういえば地名に関して印象的な話を聞いたことがあります。札幌でこの頃地名の本家還り?またその反対?が。読み方が変わっていくのです。「月寒」はツキサップと習いましたが今はツキサムらしいですし、秩父別はチチブベツと習いましたが今はチップベツというらしいです?で、札幌の知り合いのオバサンが言っていました。「やっと先祖が苦労して日本名にしたものを・・・」と。「なるほどそういう立場もあるか!」でしょう?それは寄り道。
「千姫と乳酪」の舞台、千姫御殿・またの名吉田御殿とは歴史物の本が好きな人たちにはよく知られている御殿だと思いますが、その御殿が牛込御門近くだったとは知りませんでした。  この話と最後の8話「本多様の大銀杏」でこの物語は牛込辺りに住んでいたと思しき父親の昔語りを懐かしく娘が思い出していたんだ・・・とこの本の趣が腑に落ちたのです。だからか「本多様の大銀杏」は現代の父をしのぶ話のところが心にしみました。
この作品群の中では「奥方行状記」が面白く読めました。久乃の才も沢之丞の芸も夫婦の機微も、心の行き惑いに華やかな衣装をうち掛けたような趣がありました。他の作品もそれぞれに面白い話題を書いているのですがなにか心に訴えてくるものが寂しい感じがあります。
妻のあり方としてこの「奥方行状記」と「本多様の大銀杏」は丁度対極にあるようです。今のサラリーマンの妻の状況と同じですね。
妻というものが随分変化しているこのご時世にあってもまだ通じる余地はあるようです。自分を表現できないまでも、「一人を生きる術」を持たないと、生きて行くのは大変なのは今も昔もでしょうか。
「9枚の皿」とか「献上牡丹」「繁盛の法則」の読後感はいやですね。「やせ男」は丁度このところおなじみの江戸の狂歌師、「そろそろ旅に」「戯作者銘々伝」の中に出てきた人々の話でもあり江戸の人々の明るさを興味深く読みました。
とにかく地名に楽しませていただいた作品集でした。

戯作者銘々伝

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戯作者銘々伝 (ちくま文庫) 戯作者銘々伝 (ちくま文庫)
井上 ひさし筑摩書房 1999-05
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井上ひさし著

この夏、民藝の朗読で井上さんの「父と暮せば」を聞きましたが、先日また井上さんの「新釈・遠野物語」と「おゆき」を聞きました。
全部傾向の全く違う、それでいて心を打ったり笑わせたり人を翻弄する凄い作品です。
一度講演会でご本人のお話を聞きましたが(お約束?遅刻なさいました)言いたい事をとても見事に尽くした公演で感歎しました。
凄い方だなぁ・・・と、「モッキンポット師」を読んだ時には既に思っていましたが、本当に才能にオーラがかかりまくっています!
ここのところ芸人さん関係(安鶴さん)を読んでこの方面にはまりかけていますから・・・「そろそろ旅へ」もそんな系でしょ?(ってちょっと違う)だから図書館でこの作品を見つけた時は今読むには絶好!と思ったんです。
で、予想通り!面白かった!興味深かった!
「そろそろ旅へ」で読んだばかりの山東京伝さんや式亭三馬さんの違う方面からのアプローチがそれこそツボにはまったみたいにバッチリ面白く興味深く読ませていただきました。
戯作者の皆さんならず、一芸で名を残された人々の凄さって、人生って(安鶴さんの作品を思い出して)、本当に!この平凡極まりない野次馬根性だけの私の目には興味の底なし沼のようでした。
才能はそれを授かった人に、普通の暮らしをきっと許さないんだって思いましたね。当人が望むと望まないに関わらず。才能は運命なんですね。あの逆の逆を行った変人中の変人「唐来参和」!     彼の生き様の哀れに趣のあること「おもしろきもの」の世界です。最も彼の妻になってしまったお信さんには笑い事ではない人生だったのでしょうが。このお信さんには妙な魅力がありましたね。振り回されていても心の底に彼を受け入れている、翻弄される自分の人生を受け入れている不思議なからっとした何かが。諦念というか、それも一つの情だったのでしょうか。
橋から飛び込むときの彼はきっとなす術のなかった自分の人生にあきれ果てていたでしょうか?それでも世に残った作品に満足はあったでしょうか?関係なかったんでしょうね。作品は私みたいな普通の人の、才能を授けられなかった人のためのものでしょうから。
彼らは才能と言う運命に翻弄されて働かされたのでしょうね。
井上さん自身の人生もきっと後で、(ヒョットするともう?)誰かに書かれるのでしょう。非常な才にこき使われた人として。だって、本当に多芸で多能で多作で・・・忙しさ極まりないお方のようですもの。そしてこの作中の人物の系譜に繋がる人なんでしょうね?と、勝手に思わせていただいています。
 

ビター・ブラッド

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ビター・ブラッド ビター・ブラッド
雫井 脩介幻冬舎 2007-08
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雫井脩介著

この作家の二作目です。「犯人に告ぐ」が面白く読めましたから、直ぐこの作品を予約しました。私って警察・探偵ものに本当に目がないなぁ・・・と、自分にあきれながらです。で、結果、端的に言えば主人公が(夏輝刑事君は人が良くて好感度は抜群ですが)刑事としてはちょっと魅力が薄かった気がしてその分「迫力が無かったなぁ」ですか。でも、面白く読んだんですよ。ちょっとコミカルな部分の強調が話の陰惨さを薄めて家族の葛藤をも好感度アップして・・・その分問題?も甘くなっちゃった感はあるのですけれど、その分軽やかな味?になったかな。って、ちょっと褒めすぎかな?進行が甘すぎたところが作品の甘すぎになったかな。
ジェントル・シニアとジュニアってなんだかな・・・ですが、刑事って大変なのね。実際の刑事さんも離婚の多い職業なのかな?家の旦那が勤めていた会社の営業さんも離婚の多い職種だったようですが?
アメリカの映画で良く見るじゃないですか、結婚記念日に仕事していた旦那に家族を顧みないと離婚を突きつける妻。そういえば家族を大事にしたいからと大臣辞めた人も?ホワイトハウスの補佐官の離婚劇可哀想だったな・・・なんて、余計なこと考えたりして。
新米刑事の成長譚としても読めるし、警察群像劇としても読める。
うん、その部分でも欲張った分あいまいになって・・・って感も。
とりあえず刑事に付いたあだ名が笑えて、笑った分当然シリアス感が減少していって、五係、六係の因縁?刑事の腐敗、情報屋の使い方、面白くなる要素はあるのに(相星さんとの関係は出来すぎ!)、サスペンス的には?惜しい!・・・って、感も。
劇場系の後は劇画系?って、作品制作年代は調べていないから反対かな?
「・・・って感も、・・・って感も?」って、読みながらちょこちょこ思っていましたが、この作家「クローズド・ノート」の作家なんですね?って、それって映画化された?恋愛系?見ていませんが・・・それって警察系じゃないのでしょう?ふうむ、事件もの専門じゃないのかな?警察物が他にあるか探してもう一作とりあえず読んで見ましょうか。

あこがれのため息

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あこがれのため息

あこがれのため息
有吉 玉青幻冬舎 1998-09
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有吉玉青著

エッセイ、また随分と正反対のエッセイを読んでしまったなぁ・・・と言う思いがあります。佐野洋子さんの本を読んでしまった後では、いかにこの手のエッセイが「毒にも薬にもならないか」がわかってしまった感じがします。
でも本当はそんなことは無いのです。この多分まじめで丁寧に観察なさるエッセイストはとても現実的に人生に示唆を与えてくれる本を書いていらっしゃるのです。ただ、安全なところで、豊かなところで書いていらっしゃるので、たったちょっと前に読んだ本との余りに対照的な世界にめまいがしそうなほどです。佐野さんに圧倒された後ですから。
私より10歳年上の佐野さん、戦前の困難な生活を記憶に刻みつけ、困窮の中で亡くした家族の記憶にうなされて生きて、一人で生活を立ててきた人と、私より15歳若く恵まれた環境と豊かさの中で伸び伸びと教育を受けて育った人の目線の方角も在り様も比べることなどできよう筈も無くて、ただ佐野さんの世界から帰ってこれた安堵感を読みながら感じてしまいました。
「お嬢さんでよかったわねぇー」なんていったら、いけないでしょうね。でも、戦後の平和の延長が実に「ありがたい!」ってことが思われるのはこんなエッセイを読んだ時でなくて何時でしょう?なんて気になってしまいました。
あこがれることが出来るものに取り巻かれてつくため息のなんと甘美なこと!衣食足りての礼節部分の好き嫌い良し悪しって贅沢の一種ですかしら。多分、ぽっと読んだ以上に今そう感じられるのは「役にたたない日々」を読んだ後だからですね。その意味では私にとって読むタイミングに恵まれない本でした。
ほんとだったら素晴らしいデザートのようなお楽しみの本になるはずじゃなかったかな?と言う気もするのですけれど。


 

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