役にたたない日々

題名INDEX : ヤ行 147 Comments »
役にたたない日々 役にたたない日々
佐野 洋子朝日新聞出版 2008-05-07
売り上げランキング : 3604
おすすめ平均

Amazonで詳しく見る by G-Tools

yakunitatanaihibi.jpg

佐野洋子著

「シズコさん」を読んで、あんなにきついと思ったのに、気が付くとまた佐野さんの本を予約していました。それも「またきつそうだな?」と思われる題の本をよりにもよって?
たまには等身大で?自分を広げて晒してくださる人の日常を読ませていただくのも何か一種、人生の覚悟に繋がるのかも・・・という気がして。そしてやっぱり「案の定きつかった!」                                            目次を見ると分かるとおり、エッセイというか日記のようです。ですけれど、やっぱりこれは作者の時々の、折々の書かずに入れれないような何かの発露の様でもありました。でも何故か随想とか随筆という言葉は重い内容をもっと重たくしそうで使いたくないな、って感じがします。
エッセイを読む時って大抵は自分と引き比べて、「へー、そう思うんだ?」とか「なるほどそうだよねぇー?」とか「ほう、そういう見方も出来るか?」とかみたいな?が普通。
でも佐野さんのこの本に関する限り一切自分と引き比べることが出来ない感じがしました。
勿論していること、思っていること、考えていること、過ぎていく日々の有様、その中に何かしらの同感・共感を抱いてはいるのだけれど、「あぁ、私にもこんな日があるなぁ・・・」なんてことも思うのに、ここまで自分を晒して開き直っている人に安直に「本当ね」なんて言えやしない。余りにも壮絶すぎて余りにも後が無くて、退路を断っていて。この方は今誰にも何をも求めていないんだな。ただ生きてきて最後の時がわかって、「こんな人が一人ここに居たよ!」って言っておきたいんだな。なんて、感じられたので。
感嘆するような事を書いていても、馬鹿な事を書いていても、頷きたくなるような事を書いていても、呆れるような事を書いていても、その全部に「・・・それにしても凄いなぁ!」をくっつけざるを得ないって感じなんです。
「義務はみな果たし、したい仕事も無い」そんな風にして死を迎えられるのは、その覚悟がつくのは・・・本当の所どんなことなのか私にはまだ分からないのです。でもやっぱり凄いな!って感じは感じちゃうのです。「シズコさん」と「役にたたない日々」を読んで「役にたつ自分」を生きた一人の女性の姿を感じたところです。彼女は人生で非常に格闘した人なんですね、と。

そろそろ旅に

題名INDEX : サ行 291 Comments »
そろそろ旅に そろそろ旅に
松井 今朝子講談社 2008-03
売り上げランキング : 65998
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools

tabi1.jpg

tabi2.jpg

 松井今朝子著

松井今朝子さんの「吉原手引き草」を読んで、「仲蔵」に魅せられて、この作家は絶対好き!だと思って、その他の本も読もうと思って第3弾がこの本です。
十返舎一九(学校で習った頃はただの駄洒落まがいの名だと思ったのが意外な?というかちゃんとステキな?意味のある名前だった)の「東海道中膝栗毛」にたどり着くまでの前半生が実際の旅と自分探しの旅をあわせて「そろそろ旅へ」という題で書かれたものでした。したい事を見つけるまでのお尻の落ち着かなさがこの題そのものでした。いつも駆り立てられていたような?
教科書にあったのか先生が言ったのか「この世をば どりゃお暇と線香の 煙と共に灰さようなら」の辞世の狂歌も覚えています。
生涯、あの頃としては驚異の17回もの旅をしたと書かれていましたが、まさに心も体も旅の人だったのだなぁと、読み終わって感嘆しています。
見てきたような松井さんの筆の勢いもキッパリと微に入り細を穿つて描かれる一九の人生が妙にそぞろおかしくも悲しく哀愁を帯びて語られて、この分量!一生涯は書ききれないわねぇ・・・と、思えども、時代の景色と共にあの時代の浮世絵・読み本の興隆の流れまで丁寧で実にたっぷりと読み応えも手ごたえもあって本に頭を突っ込んでしまいました。普遍の青春の彷徨の記録になりました。
彼の生み出した弥次郎兵衛(弥二郎兵衛)と北八(喜多八)とが予七郎と太吉と重なるけれど、生涯切れなかったに違いない太吉とのかかわりは今で言うトラウマかと思えば何故か悲しい。それが吹っ切れた時に結実したのでしょうか?などと・・・
つい最近?も「やじきた道中てれすこ」という映画で弥次さん喜多さんにお目にかかっているというくらい私たちの中には普遍永遠の人物像です。多分日本人が日本人である間は決して消え去らない人々でしょう。軽くておばかでおっちょこちょいでずるくて色気づいていてお人よしで憎めないって像が出来ていますが、実際私がちゃんと読んだ部分はほんの最初、小田原ぐらいまでだったんではないかなぁ・・・と記憶を辿っていますが・・・いまはもう霧の中。
それでも読んでいなくとも彼らの像は誰の頭の中にも生きているという凄さです。その一九さんはあんなに人好きがして愛されたのに足掻き続けたんだって、なんかいいんです。だからあの作品もこんなに愛されて伝わっているんだって納得させられる一九サンの人物像でした。

仲蔵狂乱

題名INDEX : ナ行 235 Comments »
仲蔵狂乱 (講談社文庫) 仲蔵狂乱 (講談社文庫)
松井 今朝子講談社 2001-02
売り上げランキング : 106199
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools

nakazou1.jpg

松井今朝子著

松井今朝子さんの二作目。
益々この作家の世界に引きずり込まれていきそうだ。まるで知ったが最後抜け出せない年増の深情けの世界の様。
濃厚で濃密で脂粉、肢体、体臭などに絡め取られそうな深みがある。
最後のページの仲蔵が舞い狂う空から桜の花びらが舞い落ちて渦を巻く様が目に見えるよう、その花の渦の中をまた仲蔵が舞い昇っていくかのような様が目の前に繰り広げられるような・・・圧巻だった。
色彩のみならず匂いまで5感を総動員して読んでしまった、いや5感を呼び起こされてしまったという感じだろうか?
一昨年から父のお供で歌舞伎座に度々行ったことが幸いして、演目も既に失われたか、昨今演じられなくなったものもあるようだが、見た事のあるものもあるのが嬉しい。特に「定九郎」はまさに一昨年梅玉の定九郎を見たとき父が仲蔵の工夫の話をしてくれていた。今は定番?になったその扮装の話を聞いた時も、浮世絵展で仲蔵の役者絵を見た時も・・・あの頃はまだこの作品のある事を知らなくて、「ふう~ん」って、感じだったのに・・・一気に知識に色が付いた。
その仲蔵の一代記である。
歌舞伎の世界を背景に極彩色にならないわけが無い。
しかも孤児の境遇からのその酷な生い立ちから役者として座頭を務めるようになるという華々しい異例の出世までの、並々ならぬ苦労の一生がその極彩色にときに効果的な白黒の気配をも対照させて絵巻物の様にさーぁーっと一気に繰り広げられたような勢いの良さも、彼の狂乱の舞を際立たせて、こちらの心も波立たせる。
力強い筆致だなぁ・・・男性の様だ・・・と思えるくらいで、心を振り回されるような力技を感じるのだが、時に繊細な描写は針の先の鋭さも宿していて心の中の痛点をピシリと突いても来る。
芸人の世界のなんともぬめっとした一門意識・人間関係の底知れぬ不気味さ怖さ。現在の役者さんの談話にも「どこそこの兄さん」とか「なんとか屋のおじさん」とか言うせりふがよく聞かれるが・・・あの言葉の底には・・・なんていう楽屋雀並の好奇心まで・・・あぁあ、掻き立てられちゃって・・・。あんなにしごかれた養母の思い出が段々暖かくいいものに仲蔵の心の中で変わっていく様にほっとさせられ、この人の人間的な甘さとも優しさとも偉さとも思えて嬉しい場面だった。
田沼時代の奢侈の世相の前後と足並みを合わせるかのような歌舞伎の幾つもの座の栄枯盛衰も合わせて面白い。時代が立ちあがってくるなぁ。
 

Design by j david macor.com.Original WP Theme & Icons by N.Design Studio
Entries RSS Comments RSS ログイン