吉原手引草

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吉原手引草 吉原手引草
松井 今朝子幻冬舎 2007-03
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松井今朝子著

久しぶりに?「読んだぁ~ぁ!面白かったぁ~ぁ!!」と、充実感がたっぷり、おつりを上げたいくらい満足感に浸っています。
「吉原」が書名に付く本は図書館にざっと300冊あるそうです。
話の種はゴマンとあるでしょうね?成り立ちから終焉まであの小さな土地で生き死にしていった人々の哀歓を思うと・・・。
江戸モノの物語には欠かせない?土地であり人々です。
新聞の書評で見て図書館に予約した時点で200人ほどの待ちがあってようやく届きました。江東区の図書館で19冊も所蔵していると言うのに・・・。現時点でまだ300人の人が予約を掛けています。その人たちに、「待つ甲斐ありますよ!」
目次を広げた時点からもう物語の世界に引き込まれます。

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「いやいやいや・・・これは藪の中か?わぉ、紐解き甲斐が有りそう・・・」と、ワクワクするではありませんか?
私が住んでいたのが今はもうない千束町、花園通りを隔てて向こう側は吉原、日本堤の方へ歩いていくと吉原大門がありました。
当時既に全くこの物語の雰囲気を忍ぶ縁もありませんでしたが、大門内の入り口近くに同級生が住んでいて、時々友人と遊びにいっては両方の親から足を踏み入れるなと叱られましたっけ。昼間のそこは唯人気の全く無いしらけた大通りが延びているだけでしたが。
あの通りがこんなにも異界だったとは・・・その後吉原を描いた本を読むたびに不思議だったものです。
この物語の中の人々は実に逞しくその世界で生きています。一人が語るたびに吉原が色を帯びてきて彩色されていくかのようです。
花魁「葛城」に何かが起こったんだ・・・それはなんだろ?・・・誰が堂関わってくるのだろう・・・この人の話は本当だろうか・・・あァ、何があったんだろう・・・と一人の話を読むたびに次が次がと急がれて・・・読み通してしまいました。
そう、最後の章にいたるまでに花魁「葛城」が少しずつ立ち上がって姿を見せてきます。彼女を取り巻いていた人々の思惑、打算、情すべてを受けて。それと共に語り手の人となりも浮かび上がって、最後には私は聞きまわっているこのいい男の聞き手を拝みたい気分にも。
そしてあの異界を見事に泳ぎ切って、首尾よく本望を遂げた花魁に喝采を送りたくなります(それにしても払った代価は高すぎる!)。
引手茶屋のお延さんに教えられて吉原には少々詳しくなりましたが(実に上手い導入ですねぇ)惣籬の花魁はいわばこの異界の上流社会でもありますね。その一番華やかな世界を垣間見ると同時にそこに居ざるを得ない男女の訳ありの事情の悲しさが浮かび上がって・・・人間社会の高度に濃縮された縮図が広げられた感じでした。
それにしても吉原に住む人々の語り口、江戸の町人の語り口・・・みんないいですねぇ・・・油を塗ったようにぺらぺらと・・・?話下手とか口下手ってのは江戸じゃありえないのかも?そういう私も早口で知られております?本当に濃密なお江戸の一端でした。
でもとりあえずはどう修業したらこんなに聞き上手に成れるんでしょ?そこが一番知りたいかも。それに葛城さんどこにどうしていやるかと?

ねこのばば

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ねこのばば (新潮文庫) ねこのばば (新潮文庫)
畠中 恵新潮社 2006-11
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baba5.jpg  畠中恵著

「しゃばけ」シリーズの三作目です。
私にとっては「しゃばけ」「おまけのこ」に続いて三作目が図書館からやってまいりました。わーい!ってくらい、楽しみになったこのシリーズ。
若旦那とお仲間の妖のお話・短編が5つ楽しめました。

「茶巾たまご」「花かんざし」「ねこのばば」「産土」「たまやたまや」
 
私の好きな順に並べ替えると「産土」「たまやたま」「ねこのばば」後の二つはどっちでもいいのだけれど「茶巾たまご」と「花かんざし」です。
正直なところ取り分けて感想を書き記しておかなくてもいいようなものですが、唯楽しませてもらった・・・でいいような。
相変わらずの若旦那は相変わらず病弱ですけれど、相変わらずのお仲間たちと相変わらずほのかな和みの風に吹かれているようです。
勿論それだけじゃありません。若旦那の一太郎の頭と心が活躍しますし、妖たちは行動します。
「産土」が好きなのはあの佐助・犬神の長い長い妖生?の一端が明らかになって妖は妖なりにこの世を渡っていくのは辛いんだなぁ・・・なんてほろとさせられた上に、おかしいな?と首を捻らされたからです。勿論読めば直ぐ分かりますよね・・・でも一瞬、私夢を見させられているのかな?ありえないことが起こっているぞ?ってほっぺを抓りたくなっちゃいました。このシリーズの足元を固める?大事な1篇です。第二作をまだ読んでいないわけですが、ヒョットすると仁吉の過去が書かれているのじゃないかと・・・気になりだしたところです。急いで予約確認しなくちゃ。
「茶巾たまご」が福神出現?妖の巣みたいなところに神も同居か?っていう楽しさがありながら上位にいかなかったのは、お秋殺しが後味の悪い事件だったから。「豆腐百珍」なら知っていますが「海苔百珍」ね?折角の名案もあんなふうに血塗られるとねぇ・・・?
同様なわけで、「花かんざし」も於りんちゃんのお母さん?おたかの病気が気に染まない!厭な気分だなってわけです。お雛さんここが初出なのね。こういうわけで知り合ったのか・・・と「おまけのこ」に繋がりました。(順番に読め!ですね)
「ねこのばば」が桃色雲の雲隠れ探索話や猫又救出作戦なら面白く安心して読めるのに・・・題一作の「しゃばけ」が血塗られた?話でも面白く読んだのに・・・何故か若旦那を知れば知るほど、若旦那には殺しは似合わないなっていう気持ちになってきて・・・。
「たまやたまや」はその点、この年になって?初恋にもならない淡い思いはいかにも若旦那らしいけれど?この年でこれじゃやっぱり思いやられて仁吉・佐助じゃないけれど若旦那心配で私も凝り固まりそう!でもこの薬種問屋の長崎屋の風には似つかわしい、ほのぼのさ!がやっぱりいいなぁ。

アサッテの人

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アサッテの人 アサッテの人
諏訪 哲史講談社 2007-07-21
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諏訪哲史著

さてなぁ・・・?読み終わったからといって何か書けるか?という、雰囲気を心に残す作品。
例えて言えばこちらの立場に応じて大きさやビブラートが微妙に違って返ってくるこだまのような本とでも?
読み終わってからの数日で牛のように反芻していると、毎日私の評価?が日替わり弁当のように変わる。
読み易かった。文そのものは平易だった。構成も分かり易かった・・・「僕」がどのように構成したら分かりやすいか・・・という構成のありようをちゃんと語っているのを素直に受け入れればのことだが。
これが一度引っかかってしまうと難しくなるのかも知れない・・・チェッ衒いやがって・・・風に?
用語に引っかかってしまうと・・・チェッかっこつけやがって・・・風に?
でも素直に叔父を紐解こうとする、最も身近だった僕の試みとして読めば、そこにアサッテの方向に折れ曲がっていった叔父の軌跡が浮かびあがってきて、一つの小説を読み終えることが出来る。
そうしてそうだったと思った日には、私は面白い試みの小説だったなぁ・・・と、満足して読み終わった本を眺められた。
でも使われた言葉に意識が捕らえられた日には、私はしかめっ面になり、これは小説としてというより「存在した一つの意識」への案内と解析の書として文章を再吟味に掛けねばならないと思い直す。
ヤレヤレこの短めな本はある意味面白すぎたのかもなぁ・・・なんて。
この私の読後感想では引用はあまりしたくないのだけれど、気になって頭から去らないものがどうしても有るのだ。
「律のないところでいくら逸脱しても、それは逸脱ではない。・・・
逸脱の本懐がある。(148P)」から書き起こされる「日常の抑圧を排したところにアサッテもまたありえない・・・」まで。
また、P156の「・・・自分の周囲に絶え間なく生起し続ける日常の凡庸さを、より意識して見つめる習慣をつけることであった。現実を覆う凡庸は、意識されることで鍛えられ・・・その定型の強度に対する生理的反動がアサッテを呼び込み・・・」云々で、否応なく日常の凡庸さにどっぷりハマって居心地良く過ごしている私をどきりともさせる。しかしここでアサッテがより明確になり、アサッテの方角へ引き寄せられる生のありように理解が及ぶ。
だけど、だけど、本音を言えばもうこの人生で爆発的な生の覚醒をもたらされたら・・・事だぞ・・・的意識が鎌首をもたげて・・・慌てて本を遠ざけるのである。参ったなぁ・・・。

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これってどういう働きが有るのでしょう。私は先生によく怒られます。「その駄目押しは何?自信がないから余計な駄目を押さなきゃならなくなる!」って。

赤い指

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赤い指 赤い指
東野 圭吾講談社 2006-07-25
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 東野圭吾著

「容疑者X・・・」でこの作家を初めて読んで、ガリレオさんしか知らなかったので、この本はちょっとした驚きでした。
「ガリレオシリーズ?」が面白かったので彼の作品、他の何かを読んでみようと図書館で検索して一番待ち人が多かったのがこの作品でした。だから結構待ったのです。
昨夜夜中に読み終わってから「選べないもの」の事を考えています。
先日電車に乗っていた時、友人が「家の娘はあんなことしないと思っているけれど・・・」と、不安げに囁いたのです。
私も信号待ちをしていた車のドァが開いて、伸びてきた手が灰皿をひっくり返して道に吸殻の山を作って走り去ったのを見た時「家の息子もまさかあんなことしないと思うけれど・・・」と、思いましたから、彼女の気持ちは良く分かりました。
電車の向かいでは女の子がピラーから化粧全行程進行中で、隣ではドーナツ齧りながら携帯親指猛烈作業中、しかも優先席という状態でしたから。
この物語の直巳という息子がどうしてこう育ってしまったのか、わけの分からない父親とさして変わりなく、大抵の親は子がどう育っているか知らないものなのかもしれません。子は親と別の何かによって?育って行っちゃったに過ぎない?実際学者の息子がアメリカの大学から引っ張りだこで帰ってこないといつも嘆いてみせる友人は「自慢か!」と羨ましさを友人たちに掻き立てますが・・・「実は・・・」がないとも言いきれません?

親の自慢の種になる息子と直巳の間の線はどこにあるのでしょう?親も子を選べないように、子も親を選べません。刑事の加賀が父母を選べなかったように、また松宮が親を選べなかったように?
痴呆になる親とならない親とはどこで線が引けるのでしょう?
親とて自分の死に至る病を選べないように、子も親の死を選べませんものね。先日95歳の母親を抱えている友人が「不思議なものよね、本も読まず、芸術も愛さず、意地悪が悪くて、怠け者で、恥ずかしい親だったのに、ボケる気配全く無いのよ。私たちの反面教師だったのよ。何でだろう?」と、ため息をつきました。でも、全てのそういう人がボケないとは言えませんしね。何ででしょう?どこの何がどう分けるのでしょう?
子の出来を自慢する親と反対に子を恥じる親との間に引ける線ってあるのでしょうか?どこがどう違ったのでしょう?
物語の中の息子を思いやって究極の?選択をして痴呆を装う母親は、似たような父親を浅田次郎さんの「椿山課長・・・」でもお目にかかりましたが・・・こんなことって2作もの小説で読むと「事実は小説より・・・」なんて世間では意外に転がっているのだったりして・・・と、暗澹としたりして。
謎解きの面白さはありませんでしたから、どうやら深沈と親子関係に思考がのめりこんだみたいで、読後感は終末の救いの情景を他所に後味の悪いものでした。
人生って一本の線の向うに落ちるかこちらに落ちるか・・・その理由のわからない不条理なものだと・・・夜中だったので落ち込みました。
朝が明るかったので直ぐ立ち直るのが私の取り柄で・・・助かった!

表紙の指はさほど気にしなかったのに、中表紙の細い赤い指にはギョットさせられました。何処かで誰かがあんな指を伸ばして・・・それはヒョットすると・・・?

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月のころはさらなり

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月のころはさらなり 月のころはさらなり
井口 ひろみ新潮社 2008-01
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井口ひろみ著

こんな大事な本の感想を書けるなんてもうそれはそれは嬉しさでいっぱいです。私の親友のお嬢さんが書かれた本なんですよ。
「新潮エンターテインメント大賞受賞作」です。
友人から受賞の知らせが届いてから私まで舞い上がっていました。
こんな身近で?こんな快挙!ってありえませんもの、普通。
しかも授賞式の翌日にサイン入りの本を直接いただけましたし。
発売日の本屋さんの山積みの写真まで撮って!
帰ってきてから着物を着て(心ばかりの作家デヴュー作への敬意!)背筋を正して読ませていただきました。
題を聞いた時から古典に造形の深い友人のさすがにお嬢さんだなと思いました。
田舎の月の夜道の描写がとてもいいです。
私は東京生まれで真っ暗な夜空の夜(って言い方はおかしいんでしょうね?)なんて縁がありませんでした。結婚して夫の生家で、まさしくこの本にあるように、庭を突っ切ってお風呂屋や、やはり庭の隅にある便所(あれはトイレなんていうものではありません)で、悟の様に庵の始めての夜と同じ体験をしています。
その家ももう建て変わり、あの真っ暗な庭、萱の茂みのざわざわ騒ぐ横手を通り過ぎる恐怖、人気のない風呂屋の孤独な胸のざわめき等ももうすっかり忘れていました。
冬の月のない夜など、便所に行くのがいやでいやでぎりぎりまで我慢しすっかり重症の便秘になって帰ったことなど(笑)・・・今の子供たちには分からないことかもしれないなぁ・・・と、妙に郷愁に囚われていました。
が、夜が夜であったということはとても大事なことだったのかもしれません。夜には闇があり、月の白さがあり、夜と友達になるということ、つきと親しくなること、闇の息使いを聞くこと、などの中には人を人足らしめる情緒を発育させる何ものかがあるということを感じていました。
民話的なテイストを持ったミステリアスなファンタジーで物語の世界が完全に構築されているので、この世界の住人が不思議なのに違和感がなく素直にいいのです。この主人公3人のかもし出す空気感が柔らかさに満ちていること・・・。そしてその後ろに隠れている母の辛い世界への心遣いに伺われる主人公の心の成熟・・・。この庵での数日間がこの後に帰らなければならない世界への励ましになると信じられる明るさ・強さ・・・。
都会の子供たちがこの情緒を汲んでこの本を楽しんでくれるといいな・・・と思いながら読んでいました。都会の子供たちにこそと。
 

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