ブラックペアン1988

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ブラックペアン1988 ブラックペアン1988
海堂 尊講談社 2007-09-21
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海堂尊著

凄い勢いで書き続けていらっしゃるようですね。
順番めちゃめちゃで読んでいるのですけれど、この東城大学医学部から桜宮病院に至るシリーズの過去に遡ったようです。
なのに?この作品が今まで読んだ中では一番昔を書いているのに文章が円熟しているような気がします。それはただこの作品が一番おとなしく描かれているからというだけの事かも知れず・・・
語り手となった主人公の世良君が未熟なのに合わせてはじけ過ぎなかっただけなのかも知れず・・・
でも、まぁ、文章的には一番読みやすいと言うか、エネルギーを要求されないと言うか、ハイテンションに置き去りにされずに済んだというか・・・内容的にも一番落ち着いて纏まったんではないでしょうか。それだけにあえて言えば今までのこの作家大好き読者たちには色彩が淡く感じられたかもしれませんね。でも今までで一番医者が書いたんだということが納得できました。勿論門外漢の私には今一使われる手術の用具の意味合いが理解できているとは思えないのですが、この作家の一番の持ち味「主張したい事を極彩色で劇画タッチで華々しく語る」という点は今回も諒解できました。
高階学長の若き日、速水君や田口君、桜宮病院長の名前など懐かしい人々?の若き日にも遭遇できると言う特典つきです。
娯楽と言う点では今回も及第点ですし、主張が理解しやすいと言う点でも及第点です。しかし本当に情緒が無いなぁ・・・と言うより実に見事に?感情を簡単な単語一つでクリアしてしまう辺り・・・これが現代なのかなぁ。しかし医者というのはやっぱり変人ぞろいだ。その個性を生かして存分に育っていってください・・・と祈りたくなります。ドクター・コトーにめぐり合うチャンスはまず無いし、救急車で病院に運び込まれたら、こんな先生・看護婦たちにめぐり合うのかもしれないものね。まぁ、とりあえず東城大学には田口先生が居るし、優秀な外科医も育っていく可能性はとても?高そうだし!いつも庶民は期待することしか出来ないのだから、せめてこの小説を楽しみましょう。手厚い医療行政をひたすらお願いするだけの庶民のために主張をどんどん繰り広げてくださいませ。
医療の本質は患者を生還させ、良質な術後生活を保障してくれることです。本当にお願いしますよ!と、今回もお医者さん方に頭を下げて読了と致します。
「夢見る黄金地球儀」が後一月足らずで届くと思いますし、「医学のたまご」が百人待ち「ジーン・ワルツ」が110人待ちといったところです。やっぱり読むの楽しい作家です。
 

花の下にて春死なむ

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花の下にて春死なむ (講談社文庫) 花の下にて春死なむ (講談社文庫)
北森 鴻講談社 2001-12
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北森鴻 著

「香菜里屋」シリーズの工藤さんはなかなかいいと聞いたのですが、
おまけにこのシリーズはもう4作も出版されているらしいです。
それって、この話に魅せられれば凄く楽しみができるということでっすよね。一寸幼くはあっても(失礼)今、結構「しゃばけ」シリーズにはまっているみたいに。楽しみが増えるのって大歓迎ですもの。「ガリレオ」シリーズももっと増えますかね?って感じに。
だから聞いた以上?ソレッとばかり第一作に飛びつきました。
で、今、困ったぞーと思案投げ首、優柔不断状態!
う~ん、微妙。悪くはないのですが・・・いまいちハギレが悪いと言うか、味が薄いというか・・・コクがないのです。
工藤という人の感じ、悪くないのです。作家が狙っている線もよくわかります。それがもっと上手く表現できていたらなぁ・・・惜しいなぁ・・・って感じでしょうか。水準は言っているけれど、文章も会話もちょっと舌足らず、香辛料がなにか欲しい、練って欲しい!繊細に丁寧に情感を湛えて欲しい!
工藤さんを表現する言葉に見えてくるものが、印象を刻み込むものが足りない上に、狂言回し、事件を運んでくる常連にもう一つ愛情がもてないのが一寸辛いです。
それに事件そのものが余り面白くないのよ・・・と思ったのですが。
どんどんよくなっていくのでしょうか?第二作、三作と?
工藤さんのイメージが際立ち、常連さんが作る店の味わいが深くなるのでしょうか?新たな風を運んでくる事件に魅力が増すのでしょうか?それが気になるので・・・これは降りだ!と決められないでいるのです。そうなる要素は多分にあるという気もなくはないのです。その将来性が丁半どっちらか?なんて賭けてみたい何かはあるんです。
でもなぁ・・・時間は惜しいしって、こればかりは好みの範疇、自分で読んでしか決められないのよねぇ・・・優しい人が集まる美味しい場所って魅力的だし・・・おかしな問題の推理話をするのもそそられるし・・・私も行きたいような場所設定ではあるのだけれど・・・

犯人に告ぐ

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犯人に告ぐ 上 (1) (双葉文庫 し 29-1) 犯人に告ぐ 上 (1) (双葉文庫 し 29-1)
雫井 脩介双葉社 2007-09-13
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犯人に告ぐ 下 (2) (双葉文庫 し 29-2) 犯人に告ぐ 下 (2) (双葉文庫 し 29-2)
雫井 脩介双葉社 2007-09-13
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犯人に告ぐ 犯人に告ぐ
豊川悦司ポニーキャニオン 2008-03-21
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 雫井脩介著

もう一気読み!
その勢いで旦那に「凄いよ!」と言ったら、旦那も翌日から一気読み!図書館で何百人も待っていたら、その間に映画化までされちゃったようですね?映画は見ませんでしたが、どうだったんでしょう?
あのスリリングな最近流行りの劇場型?映画劇場に上手くマッチしたのでしょうか?湾岸署みたいに?相棒劇場版みたいに?
読み終わって、これは読んで、畳み込んでナンボ!っていう類の小説。読んで呻ける醍醐味がすべてっていう類の作品って気がしましたが?読む私たちの方が劇場型にはもうなれているのかもしれませんね。警察OBのコメンテーターなんて今更目新しくも無いのですから。そういう意味ではこの捜査方はもうお馴染みかも知れません。
ですからこの物語の場合、何より主人公が感情移入しやすい理解できる冷静な常識人っていうイメージを持っているのが強みでしょうか。何をしても、どんな場所に置いても、納得できる知性も理性も実行力もあって、仕事人間だけどそれを家族に受け入れてもらえるだけのフォローも出来るタイプの人間?それだけで尊敬できちゃいますものね。
つまり主人公の巻島がとても好感が持てる人物だったってことがこの物語の口当たりをとてもよくしているということを最初に書いておきたいです。こういう主人公を生み出したことでこの作品は成功したのだといいたいくらい。実際は彼が失敗を踏まえ、その失敗の中から不死鳥のように逞しく甦ったという設定そのものが読者には嬉しかったのです。
「ワシ」の事件が後味が悪く残っていたからこそ彼の身を捨ててもの覚悟を産み、それがTVでの生々しい目に見えるような事件の進行に緊迫感を与え、読む方にそれで?それで?と先を先をと言う欲求が生まれ・・・という連鎖に繋がり・・・つまり夢中で読んでしまったのです。
横山さんの心理的緻密な警察ものとは一線を画していますが、ある種の息もつかせぬ緊張を生み出した面白さという点では決して劣らないでしょうね。
この劇場型犯罪というセンセーショナルな場面を構築し、エンターテインメントとしてより面白く出来たのは、巻島に対する大悪党曽根と小悪党植草というキャラクターを重層で配したからでしょうか。
パージされた植草、全く怪我をしなかった曽根、いずれにしてもキャリアの世界を相変わらず生き抜いていくだろう二人がいてこそ、「警察ってこういうところか・・・納得」みたいなリアルさが通って、訳知りな満足感まで読む私に生まれる。
巻島が描かれそこなったら絶対にこの小説にはリアリティが生まれなかっただろう・・・という気がします。
「私が被害者の親だったとしたら・・・」という視点を巻島を丁寧に描くことで上手く封じ込められた感がありますが、それもちゃんと巻島の遭難という出来事でもう一歩罪障希釈されて、後味も悪くならなかったのでしょう。
「ワシ事件」があいまいなまま、またその被害者の苦しみが描きこまれたことによってなお更現実の社会が表現されて実に上手い面白い小説を読んだ!と言う満足感があります。
 

ブランケット・キャッツ

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ブランケット・キャッツ ブランケット・キャッツ
重松 清朝日新聞社 2008-02-07
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重松清著

お名前は本屋さんでよく見ていました。でも最近「極上掌篇小説」でこの方の短編読まなかったら、多分まだ取り付いていなかったかもしれません。
出版関係の会社に勤めている甥が「ほのぼの系が好きならお薦め。」と、言っていましたっけ。全編を通じて感じられる柔らかさがこの方の持ち味かしら?
大体私は猫より犬派です。
赤ん坊の時の猫の可愛さは確かに・・・認めるのにやぶさかではありません。以前ダンボールにもう抱きしめたくなるような猫の子が6匹、「どなたか飼ってください!」と描かれて道端に置いてありました。通る人皆思わず「可愛い!」と、抱き上げるのですが・・・。
「猫も必死だから、産まれたときは本当に最高に可愛くなるのよ。」と通りかかったオバサンが言っていました。
私は猫を飼ったことが無いのですから猫の眼差しについて言える立場ではありません、が、犬のことなら・・・犬の目は最高です!と自信を持って言えます。動物というものを家の中で飼うということに常に「?」を持っていなかったら、またこれほど旅好きで家を空けることがしょっちゅうでなかったら、絶対犬を飼っているところです。

最近は外を全く知らない猫が居るらしいですね。友人の息子さんは一人暮らしで猫を飼っていますが、飼ったときから1度も外に出したことが無いそうです。「家の中しか知らないのだから、問題ないのよ。」と、彼女は言いますが、可哀相でならないと思うのは私の先入観のせいでしょうか?
さて、この物語に出てくる猫は本当に凄い!です。どんな親友よりも、どんな戦友よりも、利口で頼りになります。心を解いてくれもしますし、生きる道を教えてもくれます。猫に出来ないことは無い?
猫好きの人なら、我が意を得たりと文句無く肯定するのでしょうか?
1話では切なく、2話では悲しく、3話では淋しく、4話では切なく、5話では頼もしく、6話では素晴らしく、7話ではいじらしく・・・物語は猫の周りで展開します。
それにしても、そもそもレンタル・キャットって本当にあるのですか?寡聞にして私はこの商売を知らないのですが・・・私も助手席に乗せるどっしりとした年老いたブランケット・キャットがいてもいいな。運転しなくなってもう7年経つけれど・・・北海道の真っ直ぐに続く道を気の合う落ち着き払った猫ちゃんとならまたドライブできるかも・・・なんて。年取った猫というと直ぐに昔の化け猫の映画を思い出すんですけどね・・・ホントは。
1話ずつ、1匹ごとに、ふうっと猫が身近に寄ってくる感じ。
ひょっとして私猫好きだったのかも・・・なんて錯覚が錯覚じゃなく思えたりして。
犬だったらもっと会話しちゃって湿っぽくなってしまうのかもしれない。犬は確実に同情してくれちゃうもの。だから私はこの物語の中では旅に出たブラウンクラシック・タビー、アメリカン・ショートヘアーの猫がなんとも好きだな。男気があるじゃないの!
猫も犬も野生の呼び声に目覚める時がやっぱりあるのだろうか?そして1度目覚めて放浪の味を知ったこのタビーは「旅―」となってもうレンタル猫では居られないんだ。そうさ、そうでじゃなくちゃ
猫とはいえないでしょ?なんて思いつつ、一寸猫に詳しくなったかしら?いえ、これは特別中の特上の夢の猫さんたちで、猫好きの人にも憧れの猫さんのはずだよ・・・。ペットが見させてくれる夢の中でも極上の夢を7匹の猫さんに見させていただきました。

はぐれ牡丹

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はぐれ牡丹 (時代小説文庫) はぐれ牡丹 (時代小説文庫)
山本 一力

角川春樹事務所 2005-06
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山本一力著

しかし図書館でも本屋でも読んだことの無い作家って何でこんなに沢山いるんだ?って思います。
「時代小説ファンなのに一力さん読んだこと無いの?」
「時代小説書く人で読んでいないのは一力さんだけっじゃありませんよー他にもいっぱい居ますよ。」
大体あんなに作品の並んでいる佐伯泰英さんさえ、NHKでしていて山本君ファンの私なのに読んだことないんです。
「えー、結構面白いわよ、一力さん、読んでごらん。」
というわけで来たのがこの作品でした。が、「あかね空」って言うのを最初に読むべきだったのかもなぁ・・・と思っています。
藤沢周平さんでさえ何回目かの候補の後の受賞ですのに「あかね空」で一発受賞と解説に書いてありましたもの。お薦めされる?ならそっちでしょ?
この作品は妙に饒舌で忙しくって雑に慌しい印象を受けました。江戸の庶民の長屋生活ですよ、当然でしょ?のはずですがそれ以上必要以上に忙しい感じを受けたのは何故でしょうね・・・と考えていたのですが、多分主人公の一乃さんの直感の走り方、他の会話を割って入るあの直感に寄る結論の無茶さによるのかなぁ・・・?と思えます。
冷静沈着鉄幹さんとおしゃま息子とのアンサンブル構成のために必要以上に一乃さんを走らせた?
だけど一乃サンの人を巻き込み引き寄せるカリスマ性がもっと際立ってこないと煩く感じるのではないかなぁ・・・?
いやぁ、結構彼女の性格はしっかり書き込まれているでしょ?父娘の交情といい?
そうだけどあの性格じゃ元気猪突猛進が取り得の魅力で今一?
だからアンサンブル+人情なんじゃないの!松次郎さんとお加寿さんの話なんかいいじゃないの。
だけどそれでも今一ナットクできない、寅吉と一乃のやりとりがうまくいきすぎだーな。
同じ長屋でも平四郎サンの居た長屋は夫婦喧嘩頻発してたけどこんなに騒がしくなかった。
そこが作家の個性の違いだぁ・・・それにしても周平さんは上手かったなぁ・・・と、そこにたどり着くようで。
だけど、一力さんの他の本持っていたら貸してね?
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母の愛(与謝野晶子の童話)

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与謝野晶子著

与謝野晶子さんに童話があることを今まで知りませんでした。
でも図書館でこの本を見つけたとき意外ではありませんでした。
だって11人もの子供を育てた偉大なる母としての彼女のイメージはしっかり頭にありましたもの。そして彼女は情の人と言う印象も。
夫への子供への愛情の濃さではどんな女性にも退けを取らないと言うか全ての女性を凌ぐと言う感じもしています。
だから母としての彼女は子供にお話をいっぱいしただろうと言うことは想像に難くありません・・・と言うわけで読み始めました。
編集の松平盟子さんの所々に入る解説によれば、まさにそのとおりで最初の童話は子供たちへのものだったようです。
収録されていたのは短いお伽噺が6篇、自伝的エッセー「私の生い立ち」童話「環の1年間」「八つの夜」「うねうね川」「行って参ります」ですが童話は全編を収録していないのです。中の何篇かずつの収録です。ですから少し喰い足りない思いなのですが編者の解説の通り確かに?余り面白くないお話も、纏まらないお話もあるのです。
でも私が一番心を引かれたのは全編を通じて感じられる言葉の美しさでした。全ての文章が子供に聞かせるために磨きぬかれ、選び抜かれたように品がよく丁寧で美しいのです。
それが特に生きていたのはお伽噺のうちの「紅葉の子供」と「私の生い立ち」の中の「西瓜燈籠」でしょうか。この二編は声に出して静かに読み心が洗われるような気分を味わいました。
なんと言う節度の感じられる文章なんでしょう!と私は感じ入ってしまいました。先日一寸必要があって本当に45年ぶりくらいに森鴎外の「高瀬舟」を読んだのですが、あの作品もそうでしたが文章の薫り高さがもう抜群に見事なのです。勿論与謝野さんの子供向けの文章と鴎外の磨き抜かれた文とでは重みに違いはありますが。
どちらも声を出して読むと私の言う意味が判ってもらえるかもしれません。与謝野さんの童話は心から優しくなれますし、「高瀬舟」では心が高揚してしかも深沈ともしてもいくようです。そしてその底に美しさが感じられると言う点で通じるところがあるようです。
時代でしょうか?
童話では「八つの夜」が今の子供たちにも十分楽しく読めるのではないでしょうか。「変身ものですよ!」と言えば読んでくれる子がいるかもしれませんね。小学校で朝の時間に1話ずつ読んであげたいような気がしています。
そういえば「行って参ります」の中に「山椒大夫」が「三舛太夫」ともじって出て来ましたよ。お二人は親交があったのですから鴎外さんは笑ったことでしょうね。
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ひとり日和

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青山七恵著

初めてじゃないでしょうか。私が芥川賞とか何とか賞とかをとった作品をこんな早く読むのは。(図書館待ちの時間分遅くなっただけです)おまけに近年争うように若年化している受賞者のニュースを聞けばなお更読むには抵抗があります。
これらの賞は青田買い、これから長く稼げる(はず?)作家を売り出すためのものだったのかしら?熟成する前に?時間や資本をかけないでとりあえず稼ぐぞ?って出版社乃至何かの方針?だからそれらを、読みもしないで眉唾眉唾と思っていましたから。はなっから熟成させるつもりも無い?作家の、使い捨ての作品読んでどうするの?みたいな。
とか何とか・・・って、つまりはそんなにも若くなってしまった、いやこんなにも若い人の作品の感性なるものについていける気もしないし、迎合するのもくたびれそう・・・ってだけなんですけど。題にも食指が動く物は無かったし・・・。
ところがこの作品は、この題に惹かれました。
言ってみれば私は生きてきたこの何十年余り、殆どひとりで一人の日和を謳歌(これって見栄?)してきたようなものです。
子育ても、あっ結婚もしましたし、勿論ご近所付き合いも、友達付き合いもそこそこあったことはありましたけれど、ぼちぼちにそれらと付き合った後の一人はなんと心地よいことかと思い暮してきましたからね(シラノの心の羽飾り!)。
私と同じような引っ込み思案?のひとり日和はどんなもんかなぁ、ちょっと覗くのもいいかな?なんて乗りでした。
この題若さを感じないんですよ。普遍的でしょ?だから妙に青臭く生臭く押し付けられないで済むんじゃないかな、若さを!って感触ありましたしね。で、結果、見事に、見事すぎるくらい若さを押し付けられないで済みました。
いえ、文章自体、使われている言葉、そんなところにはちゃんと作家の年齢が臭っていることは臭っているし、その年代の気負いが気取りがちゃんとある文章でもあったのですけれど、切り取って描いている日常が余りに淡々としている様に装っているので、うっかり若さを見落としそうになるのです。ふうーん、お気に入りの切り口と投げ出し方を見つけられたのねと、ちょっとこの繰り広げた日常に被せた薄い明度の高いグレーにうらやましさを感じてしまいました。
私の20歳の頃の世界・・・ったって、それは私だけのものですから比べようもありませんが、ここにこういう風に投げ出されたこの娘智寿さんの年頃の世界は私には理解できないだけに、今この世代の普遍的ワールドのような錯覚をもたらしました。
直裁に行ってしまうと「カワイそうに!」です。何が?余計なお世話ですよね、実際のところ。
それでも、その気持ちの中にはこんな風な「あなた、ずいぶんと生き難そうね。傷もあるかもね?あったとしても傷から流れている血がとても薄そうで、それって楽なのかしら?楽だとしても価値があるかどうかは別の問題ね。でも私の若かった時よりキレイに人付き合いも、社会との兼ね合いも何気にさらさら上手にやっているじゃん、あの頃の私なんかよりもズーット・・・」です。
そんな風に思えました。でもあの頃の私や友人よりも?すさんでいるようにも思えましたけど。
だから、むしろ私にとっては吟子さんの方が主人公でした。
シチュエーションは吟子さんのものですよ。彼女こそがあの線路と駅と家との主ですよ当然?智寿さんは通り過ぎて行く人ですよ。
この娘から見ている吟子さんに肉付けをしていけば・・・私のいい?先達になるかもしれませんね。
もっともこの若い作家がこの年の人を理解できるとは思えないのですけれど、その上で彼女たちから見える大人のさらさら感のある、したたかな生き方ってどんなものなんだろうねっていう興味ですか。
流れる事を意識しないで流れて行く、年をやり過ごしていくっていう感じって、こうむった痛手は既にそんなことの形跡はまるで無かったように消えている、そういう風に見えるって、はて、それじゃ生きてなんになるんでしょ?この明度の生活感の中に浮かび上がる母も藤田君も陽平も智寿さん本人も皆凄い感度のセンサーを持っていて昨日と違う何かを感知するとさっと方向転換をしてしまう生きもののように見えるって・・・これ何ですか?吟子さんだけはその中ではまだ生きていそう、むしろしぶとく?
この作品の中の大多数の人物は作品から出てきて歩き出す足持っているのですかねぇ?足も影もなさそうな人たちの、体臭の薄そうな人たちの、悲しみは悲しみで、喜こびは喜こびで、結局どうでもいいんでしょう?と言いたくなって、私はあなたたちとはお付き合い出来ませんし、して貰えそうもありませんしねと、横をすり抜けさせてもらいました。

深追い

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横山秀夫著

この本は再読です。なぜかというと先日「影踏み」を読んだのですが、それで思い出したのです。確かこの短編集にも「泥棒さんの話があったぞ」というわけです。三ツ鐘市という架空の市の市役所斜め向かいにある三ツ鐘警察署の刑事たちの物語が表題の「深追い」を含めて7編収められています。
横山さんの作品の中でも私の好きな警察官ものの一つですが・・・この中に「引き継ぎ」という作品があるのです。
言ってみれば、この作品は丁度「影踏み」のポジ?「裏返し」みたいだと思い出したのです。
あの作品では泥棒になった主人公が「盗犯」係りの警察官と渡り合うという部分がありましたが、この作品ではその「盗犯係り」のいわば泥棒刑事の側からの物語なのです。
丁度この「影踏み」と「引き継ぎ」を続けて読むと警察と泥棒のなんともいえない間柄・・・って言っちゃいけないかな?が見事に立体的にちゃんと三次元で立ち上がってくるようで面白いです。
刑事といっても、泥棒といっても、つまりは人間なんだなぁ・・・という当たり前のことが腑に落ちるといってはつまらないですが・・・いや実に面白い「ワールド」が厳然とあるようですよ。
そういえば我が家に、一度だけ私が小学校1年ぐらいの時(昭和29年頃?)に泥棒さんに入られたことがあります。侵入口はお便所の上の小さな窓でした。鍵をかけ忘れたのですが、小さな窓ですよ。やってきたおまわりさんが侵入口はここだと断定して、私はその小さな窓に向かって「嘘だぁ!」と思ったのを覚えています。大人が潜り抜けられるとは思えませんでしたもの。
母が箪笥を開けるまで全く気が付かなかったほど痕跡は無く部屋はきれいだったのですが、警察で盗まれた物を書き出した母が後で仰天していました。盗まれた物はあらかた父と母の着物でしたが、あの量をふろしき包みにしては絶対便所の窓からは出せないし、一人でいっぺんには持てないくらいの分量でしたから。いったいどうやったのでしょう、謎です。私が忘れられないのは買ってもらったばかりの舶来の真っ赤な私のレインコートも盗まれていたからです。父が「きっと泥棒さんにも可愛い女の子がいるのかもなぁ・・・その子が喜ぶかもなぁ・・・お前はまたいつか買ってもらえるのだから・・・」なんて慰めてくれたっけ。後日質屋で足がついて警察に出向いた母は書き忘れた着物が何点か出てきておまわりさんに叱り飛ばされたらしいです。
あの泥棒さんの手口も「泥棒刑事」さんだったら直ぐ当りがついたのかもしれませんね?・・・と、横山さんを読んだ後の私は思いました。
浅草のロックで年末(林家正蔵の会の帰り?)に父が掏りにあったこともあります。オーバーの下の背広の内ポケットの下(裏地)を鋭利な刃物できれいに真一文字に裂かれて財布だけすっぽりやられたのです。警察のおまわりさんがその切られたところを見て「あー、何とかだ!」と名前を言ったと父が言っていました。今なら?これもよくわかりますね?ひょっとしたらその「誰とかさんという掏り」はその刑事さんの、その盗犯係りの「手持ち」だったのかも?なんて。
そんな事を思い出しながら興味深く再読したわけです。
ちなみにこの短編集では「訳あり」と「仕返し」と「人ごと」が好きでした。そして「影踏み」を読んだ後では「引き継ぎ」も「好き」なうちに入れようかな。
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薔薇の王朝(王妃たちの英国を旅する)

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石井美樹子著

私が始めて自分のお小遣いをためて買った本は「小公子・小公女」だった。その後「若草物語」「赤毛のアン」などと英語圏の本を読み進んだからかもしれないが・・・これらの本を読むとディッケンズとかスコットとかシェークスピアとか読みたくなるでしょう?
そんなわけでリチャード獅子親王、ジョン失地王、リチャード三世、ウィリアム征服王、ヘンリー七・八世、ヴィクトリア女王、エリザベス女王、メアリ・スチュアート、ジェーン・グレイとイギリス王室の王たちの名前をばらばらに覚えこんだ。
図書館でこの本を見つけたとき、魅惑的な題名だと心引かれた。
しかし著者の名は心当たりが無い・・・学者さんらしい・・・という点で実はちょっと躊躇した。ただ単に面白い気がしなかったからだ。
同じイギリスの女王を描いても、漱石の「倫敦塔」のようなわけにはいかないだろう・・・?でも、イギリスの王室のなかでもヘンリー8世の6人の王妃たちとその女王になった二人の娘にはとても興味を引かれるし・・・薔薇の王朝という題名は薔薇戦争から取ったもの、白薔薇のヨーク家と赤薔薇のランカスター家から取ったものだとすれば、当然話はその後のヘンリー8世にいくと思われた。
王妃を語るには最高にドラマチックなのがヘンリー8世とその娘の時代なのだから興味は引かれる。
あたり!というわけで薔薇戦争の話は本の導入部で、ランカスターの血を引くヘンリー七世の即位とヨーク家の血筋を引くエリザベスとの結婚からイギリス史でも最も?スキャンダラスな時代の話に突入していった。私の読みたいところはそこから「倫敦塔」でおなじみのジェーン・グレイ姫までとそして偉大なる時期を迎えたエリザベス王朝の光と影であり、まさにぴったり!だった。
しかしやっぱり?話が、記述が少々面白くなかったのが私的には物足りなかった。事実を平易な文章で正しく記述してくれているのだけれど、非常にドラマチックな成り行きを記述しているのに全然ドラマチックな気分が盛り上がらないのだ。それに当然といえば当然だが年表どおりに話が進まず前後が入り乱れ繰り返しが結構多い。彼女等を動かし擁護する勢力の記述を挟みこまなければならない必然のせいなのだが。
しかしこの本には素晴らしいところがあってどの妃がどこの城で育って、どこでどういう教育を受けて、どこの城に幽閉されて、どこの城又は教会で眠っているかを詳細に知ることが出来た。
今度イギリスへ行ってその地へ行くことがあったら・・・と、夢は膨らんだのだが・・・ツァーで行く場所は決まっていてなかなか難しい。
自由旅行で鉄道を乗り継ぐには言葉に難がありすぎて・・・!!!
先年ロンドン塔へ行った時には哀れな16歳の女王ジェーン・グレイが首を切られたところと思い頭を垂れてきたが、この薄幸の佳人が生まれ育ったレスターシャーのブラッドゲイト・パーク館の跡地へ行く手立ては相変わらず私には思いつかない。このロンドン塔には第二の妃アン・ブーリン(エリザベス女王の母)もここで処刑されて眠っている。
その旅行の時行ったウエストミンスター寺院にはヘンリー8世の4番目の妃アンが眠っている。離縁されてもこの妃だけはなんとなく悲劇という感じがしないのはありがたいくらいのものだ。
2番目の妃アン・ブーリンの記憶と3番目の妃ジェーン・シーモアの霊が住みついているハンプトン・コート宮殿くらいなら何とか行けるかな?
そんなわけで無駄な抵抗だと思いながら、たくさんのキャサリンやメアリやエリザベスや、マーガレットを混乱しながら区別し(なんでこう同じ名前ばかり付けるんだろうね?)彼女たちの育った邸宅や城の名を頭の中でつぶやいているところです。
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ハリー・ポッターと謎のプリンス

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 J・K・ローリング著

こっちへ越してきてから図書館に最初に予約したのが確かこの本でしたから、待つこと1年と数ヶ月!ようやく届きました。
それで貰ってくるや否や読み始めたのですが、「おや?」なんです。
どうも抜けているようだぞ・・・?何かぴたっと来ない?
それで流石にうかつな私も気が付きました。
引っ越してくる前に前の区の図書館に「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」を予約したままにしてきた事を!
ま、とにかく読み終えました。今から「不死鳥」を予約しても、その後で「謎の・・・」を予約しなおしたら、ヒョットすると又?1年ぐらい待たされちゃうかもしれないし?
読み終えて「不死鳥」を予約したら2日で到着。
逆転しましたけれど、とにかく読めて不審は解決!
家に子供はいないし、場所だけ取るから買えないし・・・図書館頼りはこれが辛い。え?ペーパーバックが出たのですか?文庫本サイズ?それって厚みは?本屋へ行ってみよう。
この手の物語に私は弱い!ジレンマ大。
とにかく映画の到着前に読めましたから、まずは祝着。
楽しく夢中で読めました。
本当に物語を紡ぐローリングさんの才能に感謝!
ハリーの性格も段々際立ってきていますし、その成長も友情も実に順調で過不足無く、敵はますます強大で申し分なく、楽しかった!
ヴォルデモード卿の輪郭がはっきりしてくるのと反比例で物語が終息に向かっているのが残念なことだと思いながら読みましたが、ハリー以上にダンブルドァに傾倒している私はこんなにがっかりしたことはありません。シリウスの死去の際は本当にハリーを痛ましく思いましたが、シリウスはもう一つ愛情を覚えるほど書き込まれてはいませんでしたけれど、ダンブルドアはね。物語の魅力を半減させるほどに残念です。
成長したとは言え、この3人でどうやって次の最終巻!保たせるのかと今からもう心配です。
当然ダンブルドァの抜けた穴は総力結集しかないでしょう?
・・・とまぁ、こんな具合にアイバンホーやロビン・フッドやピーター・パンや紅はこべやもっと言えば猿飛佐助や霧隠才蔵を読んでいた頃と変わらない自分の「不」成長を喜んでいます。
ダンブルドアの大きな穴を埋める大活躍をDAが見せてくれるのでしょう!
中身がこんなに変わらないままで60になって、還暦しちゃったらどうしよう?それが最大のジレンマ?な私です。おやおやジレンマだらけですね。「指輪物語」は私の中では別格!宝物とはいえハリーのシリーズもなかなか大きな比重です。
教室で彼らと一緒に魔法を学んでいる?私ですものね。
だからね、夜暗い家に帰ってきたら、「ルーモス」と言えばスイッチを押すだけで明るくなるけれど、「レバロ」なんて家事で使うには最適なのに菜ばしの杖が今一?習得できないのが残念。
最近では「プロテゴ」って言うのを身につけたいと思っているのですが・・・年のせいか少々堪え性のなくなった友人がいるのですよ。彼女の愚痴から耳を守りたいのですが・・・ハイハイ、究極のプロテゴはアドレス変更?デモネ、彼女はおかしな毒舌家でもあるので・・・
ハリーの次の本を「あー、待ち遠しい!」って思いっきり思っているのに、又出版されると図書館に予約して延々1年以上待ち続けられるところが私の成長点?かも。でもこの調子でいったら7巻は3冊?
このシリーズはわくわく読めた!ヤッホー!でいいでしょう?
デモネ、私がハーマイオニーだったとしても?やっぱり(本の中の)ロンを選んだだろうって事だけはますます確実になりかけていますよ。ハリーの癇癪は環境と境遇と運命と宿命と(おんなじジャン!)・・ホント、大変だわ、ヒーローは可哀相ね!
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