容疑者Xの献身

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東野圭吾著

この方の本も読んだことはありませんでしたが、図書館でも本屋でもよくお名前と作品はお見かけしていましたから知ってはいました。
ただ、ぱっと見て読みたいと思わせる題が無かったということでしょう。ところが少し前になりますが行きつけの美容院で担当のお兄さんが臨時休暇で、違うアーティスト(というらしいです)のお兄さんが私の頭をしてくれたのですが、その会話がこんなでした。
「いつも何をしているんですか?」
「仕事を聞いているの?それとも時間つぶしの趣味のこと?」(この時間に来るおばさんは暇にきまってるでしょ)
「暇な時何してるんですか。」
「そうね、まぁ読書かしら。」(なんでもいいんだけどね)
「えーボクも読書なんです。」(えー!ってほどのものでもないでしょ)
「あら、あなたみたいな若い人には珍しいんじゃない?」
「いやー僕よく読んでますよ。」
「どんな本が好きなの?」で、彼の名前が出たのです。
「その作家私が読んでも面白いかなぁ・・・」
「あ、面白いと思いますよ。絶対お薦めですよ。反対にボクにお薦めの本てあります?最近読んで面白かったの?」
「そうね、三崎亜紀さんの・・・『となり街戦争』と『失われた町』なんか良かったわね。」
「へぇボクその人知りませんねぇ。どんなカンジですか?」
「どんな感じって難しいわねぇ・・・不思議な魅力?」
とまぁ、そこそこ話ははずんだんですが・・・(ちなみにこのお兄さん、二度はゴメンなさい、私の髪が・・・ァ・・・ぁ)・・・でした。
で、東野さん検索。その結果他の本は直ぐ借りられたのですが、この本だけ数十人待ちという状況だったのです。だから来たらその時が運命?ということにして予約しておいたので、今週東野さん初体験となったわけです。
それで?うーん、そうですねぇ~、悪くないですっていうか、「献身」部分というか、情部分が変わっています。
ある意味感動的でちょっとウルウルさせられたというか、今時考えうる最高の献身を考え出したなぁと思えました。が、実際こんな恋情ありえるのでしょうか?ストーカー的執着性愛着思い込み恋?淋しかった潤いの無かった石神さんの選択した生き方は確かに見ようによっては壮絶なのに、何気なく理知的になされた選択と行動力にやっぱり?泣けないはずはありません。
それに最後のがっしりした駄目押し!
究極無償の愛と真の友情(3人の大学同窓生による攻防読み応え有りでしょう)と答えねばならない誠意・・・負い目を負って生きる心の負担は美里さんが既に見せましたしね。
さて、推理の部分です。死体が発見されて指紋のついた自転車、宿の髪・・・の状況で、当然あのブルーハウスの描写が生きてきますから「ああ、この死体は彼だ!」と解かってしまいますよね。それが一寸早すぎたのでその点で興味は「富樫の死体はどこから出てきてアリバイ工作がどう刑事を嵌めるのか」になってしまったのです。だから私も「思い込みによる盲点」に落ちたわけです・・・という点でちょっと忌々しい!って言うかしてやられたわけで・・・面白かった!です。
しかしなぁ・・・「数学は難しい!」ってことだけがわかればいい?
やっぱりなぁ・・・「博士の愛した数式」でも数学を愛せる人が羨ましく思えたけれど・・・この作品でもそう思えましたね、ここもちょっと数学苦手の自分の学生時代が忌々しい!ったら。
湯川先生が出てくる作品が他にもあるらしいです。探してみますか。
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ナイチンゲールの沈黙

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海堂尊著

笑えて、楽しみました。殺人事件なのに?ホント、申し訳ありませんがこれは作者さんのせいです。私は漫画には詳しくありませんが、家の旦那は「漫画は好きだけど、劇画は嫌いだ」と言います。
その伝でいくと、「螺鈿迷宮」の巌先生は確かに劇画でしたが・・・
この作品は漫画でした。登場人物が皆絵に書けるようでしたもの・・・それも私の下手な一筆書きで。
つまり作者が登場人物をそれだけ作品の中でリアルに?目に見えるように?活写してくれている・・・ということになりましょうか?笑えてしまうのです。
巌先生も最初にチョコッと顔みせ。私は既に次作を読んでいるので先生のしゃべりの大時代風が頭に浮かんで、直ぐに劇画作成にかかったのですが「迦陵頻伽」で頷き、アツシ君(このシャベリはないでしょう?)で転向、漫画に・・・白鳥さん登場で完全に方向性を決めることが出来ました。
しかも私はどうやら何部作かになる作者の著作をさかさまから読んでしまっているらしく「螺鈿迷宮」の粗筋はもうここで披露されている・・・多分もう作者の中では出来上がってしまっていた?→凄いなぁ!です。
章題をズーっト読んでいくだけでも作者のロマン嗜好がわかりますが非常に饒舌な装飾的な文章で、章・段落の締めに来る1行に所々実に面白い叙情的な表現があってこの文を書くとき作者は楽しかったろうな・・・なんて思いながら私も楽しく読み下してしまったのです。
殺人事件の謎解きなんてこの場合もうすっかりわかっているので、謎解きが主題の探偵ものではないのですが、体裁はそうです。わかっている犯人を確証で挙げるまでの数日をいかに面白い人物たちの跋扈によって盛り上げられるかと言う事を作者は試しているのかもしれません。そしてその試みという点で確かに面白い読み物を提供できています。
音楽と絵のなんか頷きたくなる二人の女性の能力は魅力的で少女漫画に似て高エネルギーに溢れているのに、それを奏でる4人の男女のシチュエーションがそれ以上にならなくてつまらないなぁ・・・惜しいなぁ・・・とは思いましたが。(螺鈿のお兄ちゃんは頼りなかったですが、こっちの坊やの造形は一寸オバサンにはイケマス)
今回も色々な最先端の?知識が奔流のように溢れて、カタカナをせっせと目で追っていましたが、はて頭に残ったかなぁ。
法医学の現状?ホームズはどう思うかなぁ・・・私はやっぱりあの時代どまりなんだなぁ・・・とつらい再確認。でもあの紙芝居、検挙率絶対に上げるよと、大してわけもわからず太鼓判押しています。
作中「バチスタスキャンダル」の話ちりばめられていましたが、まだ読んでいないので・・・どんな死骸がでてくるのでしょう?と楽しみになりました。その第一の作品の中でも既にその後の作品の構想が人参の様にぶら下げられているのかな?作者はどんなお医者さんなんだろう?田口先生に似ていないことだけは確か!
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夜の明けるまで 深川澪通り木戸番小屋

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北原亜以子著

北原さんの小説を始めて読んだのは「深川澪通り木戸番小屋」で、続けて何作か読んだのだから、その頃はもう女性の時代小説作家としてすっかり人気作家になっていらしたのだろう。その後「天保六花撰」で勢いが止まってしまった。作家のではなく私の勢いだが。「天保」ははっきり言って私の好みではなかったので「澪通り」の続きがでてくれないかなぁ・・・と、思いながら、お捨さんも笑兵衛さんも木戸番小屋を離れたのだから続きはないと諦めてしまっていた。
NHKで「慶次郎」を見てああこんな作品も有ったのだなとは思ったのだがTVで見る彼らの世界は妙に持ってまわって捻ってまわっている?って感じがして・・・なんかこう素直にうんうんと頷ける感じがもう一つ遠い。薄ぅーくいやーな情の押し付け、厄介すぎる勘繰りが被っているような、痒いところを掻き過ぎてくれてるような?これは読むには億劫そうだなぁと思った。そんなわけで以来北原さんの作品をチェックするのを忘れていた。そしたら見つけました。澪通りの続編を。
でも、これはどういう位置付けになるのでしょう。お捨さんは相変わらず健在でころころ転がるような声で笑っておられました、木戸番小屋で。(ともあれ、作者に殺されてなくて良かった!)
ほっとしました。中島町の木戸番小屋へ行けばあの二人が微妙に癒しを含んだ方向転換の風を吹かせているのだなぁ・・・でしょうか。
この小屋の前を通り過ぎて行く女たちは皆自分の足でおぼつかないながらも、かたくななりともお江戸の町でちゃんと生きているのだけれども、この小屋を通り過ぎた後〈何かながらも〉は憑いていた物を脱ぎ捨てて、以前より軽やかな、晴れやかな足取りになっていくようで、そこがこのシリーズの読後感のいいところなのだろう。
私とそう変わらない?年頃のお捨さんがどうしたら女神のような、他人への触媒のような存在で在れるのか?いい年をしてまだ棘だらけで自分だらけの私は頭を垂れてしまうのです。木戸番小屋のこの不思議な夫婦に、だからどうぞ何時までもそのままの存在でいてくださいと願うしかありません。何時か私がそこへたどり着けるまで。
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月島慕情

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浅田次郎著

これも短編集でした。7編収録。
う~ん、これは、私の伝家の宝刀「好き嫌い」物差しを振りかざしても測るのが難しい作品群です。目盛りをふりきっちゃいます。
「月下の恋人」がこの作家の大作群からこぼれ落ちた澱のしずくだとすると、これは野放しにされた、手綱を離れたやる気じゃないかっていう気がしたのですけれど。手と情感が我が物顔で走ったのねという感じを受けました。浅田さんはこの方が手馴れています。
「インセクト」というのは私と同時代の学生さんの見覚えのある姿ですが、それでもやはり生理的に気持ち悪かったです。北海道にはゴキブリはいないから・・・って言ったって・・・。彼だって見たことなくても知識はあったでしょうから、それだけ孤独が浮かび上がって来て切ないのですけれど、それでもごめんなさいです。
あと「雪鰻」は既視感があります・・・え、どこで?えぇー「蒲生邸事件」宮部みゆきさんでしょうか?
表題の「月島慕情」は田舎から売られてきた少女が美貌と利口さとを武器に吉原で見事に生き抜いてきたその点に心打たれましたが、身請けする時次郎と言う男がどんなにいなせないい男と書かれたって月島の家庭を見せちゃった時点でこの話はぽちゃるでしょ?本当に男の中の男だったら女房子にあんな憂き目は見せないでしょうからね。トチ狂った粋がり男じゃないの。それでもねぇ、あんな苦界でこんなにいい女が出来るのかしらねぇ!ミノさんはいい女、女を上げたね!女の意地のが素敵じゃないか!と思うけれど、この作品は乗れません。最後のページやるでしょ?やりすぎでしょ?お願いそんなにやらないで・・・。
それ以外の作品は「やられているぞー!」と少々忌々しいながら涙と共に読み下しました。特に「めぐりあい」と「シューシャインボーイ」には負けました。別に珍しい個性的な作品ではないのです。こんな話よくありそうだよーと、思うのですがね、上手いです。
とまぁ涙を流して、心も潤ったようだぞと思いながらも一寸忌々しいんですね。素直に感動をありがとうといえる感性がもうしみしわに覆われちゃって固くなっているんでしょうね。いやむしろ、抑制を外した作者の力技が言わせないんだと思えるのですが?
「シューシャインボーイ」子供の頃父と銀座有楽町辺りに出かけると父もよく靴を磨いてもらっていました。私も塚田さんの奥さんのように「あ、水を使うんだ。」と驚き、それから父の靴を磨く時にはまねして2・3滴の水を使っていたものです。「あら、素人はしちゃいけなかったのか・・・」と、今頃知りました。ガード下の靴磨きのイメージをすぐに心に浮かべられる世代なのです。(そういえば今もちゃんと有楽町のガード下にはいらっしゃいますよ)
そしてこれも最後のページです。「菊治さんにこんな遺言書かさないでよ・・・」と滂沱の涙の私です。
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月下の恋人

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浅田次郎著

短編集です。11話収録。
「憑神」を予約しようとしてこの作品を見つけました。「憑神」より待ち人が少なかったので題名に惹かれて予約しました。私はまだ乙女ですし、月の下では何かが起こる!涼やかで紫のかかった何かが!
そしてまたしても浅田さんの多才で多彩なことに驚きました。
もっともこの年になると、物事を判断する物差しは「好きか嫌いか」という1本に収斂していくようです。って、まぁ私の場合はです。
脳が面倒くさい分析をおっくうがると言うか避けよう避けようとするんですね。だからこういう短編集になると1篇読み終わるたびにすぐさま思うのは「これはイヤだわ」か「これはいいわ」です。
厳密には「好き」「嫌い」以外に「保留」っていうどうしようもないのがあることもありますが、読み終えた後で好きな順に頭の中で並び替えます。嫌いな物は消します、記憶から。最も最近は好きなものも直ぐに消えていく傾向にあって、思案投げ首状態、危機的状況を痛感しています。本当に嫌いな物は読み終わるや否や身震いするようにして急いで振り捨てるのです。重い物を身の内に滓にしたくはないんですもの。
この作品群は割合穏やかな振り幅の中に収まっていると言えましょうか。似た景色の作品たちです。でもその幅の半分以上は好きにはなれませんでした。
時々思うのですが、作家さんも澱とか毒とか残滓みたいなものを、集中して書いた折にこぼれ落ちた何かを、捨て去れない業みたいなのがあってそれも作品に結実させてしまうんじゃないかなぁ・・・って。そんな感じがこの作品の後ろから覗いているような印象があったのですけれど。
「回転扉」「告白」「同じ棲」「忘れじの宿」「あなたに会いたい」「風蕭蕭」以下省略させてもらいます。もう振り切ってしまったので。あ、表題の月下の恋人もすてるの?はい。
「回転扉」はSさんになって独白してみるとそれなりに面白いです。
私にも別人になってみたい欲求はあって、しかも私は観察眼がからきしないときているから?これはちょっとだけずれた私にもパラレルワールドでありえます。パープルシャドウを帯びた?
挙げた(残した)短編は私の中で長編に変わりうる何かを秘めているようにも思えたのです。物語を継いでいけるような種が見られたという感じでしょうか。余韻も楽しめるような。
「天切り松」を読み終わったところなので、あの本とこの本の間、あの岸とこの岸の間を流れる河の広さにアップアップですが、凄い作家だなぁと思いながら流れ着くならアッチの岸!と、思ったことでした。このクソ暑い時期に読むのには結構?お薦めできるかもしれませんね。でも内容は暑苦しくとも心がサッパリ出来るのは天切り松の方だなとやっぱり思う私でした。
浅田さんには他にも「月島慕情」「月のしずく」という月がらみの本が他にもあるようです。さ、予約しますか。「月島」は月か?ええ、月島の高層ビル群の隙間から見る月は又それなりにいい風情ですぜ。
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シャドウ

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道尾秀介著

まだたったの1冊を読んだだけで言うのは余りにも早計!
でもひょっとしたら好きになれる作家を一人見つけたかもしれない。
まだ、数作の作家を評価するのは私の任ではない。残念ながら私にはそんな目は無い。が、読みながらこの作家の持っている資質のなんらかが私に「いい感じだぞ!」と囁いていた。
最近心して新しい、知らなかった作家の作品を読むようにしている。この頃ひどい脳の老化に我ながらてこずっているので、趣味も一新、友人も一新、旦那と息子も・・・とはいかないのが・・・というか、その両方からてこずられているといったところが真相?
三崎亜記さん、三浦しをんさん、薬丸岳さん、海堂尊さんと続けていますが・・・なかなか・・・いいかも・・・これからも・・・読めるぞ!楽しみです。
さて、この作品何が成功しているってあの科白です。
「人間は、死んだらどうなるの?-いなくなるのよーいなくなって、どうなるの?-いなくなって、それだけなのー。」
子供にそんな科白を言う母親って想像出来ないでしょう?
それに彼は今5年生、小学校のだよ!って、小学校以外の5年生って医学生か?ってほどのもんだよ。なのにその少年の3年前にもうその科白!なんだから・・・
この主人公が小学校の五年生だって?ありえないでしょ。この人(子じゃないのよ)容姿はともかく内容は大人より大人でしょ?いえ、私より大人でしょ?こういうのって生まれたときから大人なんだよ!
でもね、ハタッ!と、思い出したんです。幼稚園に入る前からずーっとお隣で、一緒にお手て繋いで幼稚園へ通っていたお隣のけんちゃん、小学校の3年頃だったかなぁ、けんちゃんのおかあさんがおかしいって大笑いしていたの。「けんじったらこの頃お隣の女の子って呼ぶのよ。」そう、その頃から一緒に学校へも行かなくなったんでしたっけ。
「そうか、やっぱり彼は五年生なんだ。」
それに彼のお父さん!節目節目の科白の良いこと!
だから最後のドキドキが盛り上がるんですね。
それにしても新聞を読むたびに?「精神科の医者ほど危ないものはないなぁ!」という気持ち、ますます増長しそうですね。
患者さん、ちゃんと面倒見て欲しいなぁ・・・と。犯人は精神科へ通っていたという記事が多すぎるんですもの。精神が素直に生き難い世の中なんでしょうけどね・・・そして治すのも至難なんでしょうし・・・対峙していると朱に?なんて。
やっぱりそんな俗な心配?、やっぱりした方がいいんだ!って。
おっと、これは作者の書きたいことと関係ないか。
最も心の場合何が健康で何が病んでいるって誰にわかるんだろう。
学校で何か日常と違ったことがあるたび「はい、○チャン、カウンセリング室で1週間放課後にマインドケアしてもらってらっしゃい。」なんて、先生が当たり前に言うようになるのかも?その日は近い。
明日と今日の間にも紙一重の変化がありうるのが今の社会なのだもの。あの年であんな経験をする子供たち、この子供たちにどんな明日が来るんだろう?今しなやかに乗り越えたかに見えるこの子たちの明日の心はどんなねじれを起こすだろう?だからしっかりこの作品は「今」なのですね。「今」を映す鏡です。だけど人間社会の問題として普遍です?

螺鈿迷宮

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海堂尊著

なんでこの作家の本を読むことにしたんだっけ?あ~?と考えないといけないほど昔?図書館に申し込みました。チーム・バチスタの事を聞きかじったからでしたっけ。それで図書館検索したら4冊本が出ていました。「チーム・バチスタの栄光」「ナイチンゲールの沈黙」「ジェネラール・ルージュの凱旋」そしてこの「螺鈿迷宮」。この作家の名前全く知らなかったんですから、全部申し込みました。この作家が書いた順には到着しなかったようですが、ままよ、です。
この本の裏書では現在勤務医ということと「チーム・バチスタの栄光」が第4回「このミステリーがすごい!」大賞受賞、しかわかりませんでした。どうやらご存知のフィールドを駆使した作品が多いようですね?お医者さん作家って結構いらっしゃいますよね・・・えーと・・・
文科系でもないのに、なんでこんなにお医者さんが文章上手いのさ?と、思うこともしばしばですが、この作品読み始めて最初に私が思ったのもそれでした。
先日読んだ薬丸さんのプロフィールも知らないのですが、彼より文にセンスがありますよ。私の好みに過ぎないのかもしれないけれど。
でも凄い勢いで書いていらっしゃるのでしょう?出版年を見ると。
ってーことは御本業の方はいかなる事になっていらっしゃるのでしょう?心配です。
私のいいお医者さんの原点はもうとっくにお亡くなりになられましたが、お隣の内科医院の河合先生でした。熱を出すと夜中もパジャマの上に白衣を引っ掛けて出てきてくれましたし、熱が下がらない時などは夜中に往診があると「ついでだ」と覗きに来てくれました。少なくとも海堂先生にはそんな時間は無いだろうなぁ・・・(それって、既に古き良き時代劇の世界かも?)
始めに取り付いたのがこの本でよかったのかどうか?なんかねぇ、この作品は取り組んでいる命題が見えそうで妙に見えない。
自己韜晦の迷宮なんて言葉が頭に浮かびました。
面白かったんですよ。一気に読みましたもん。でもねぇ、書きたいのが終末医療のあり方なのか?それに関する厚生省と医療現場の問題なのか?安楽死と自殺幇助サイトなのか?全死体解剖の計り知れない恩恵なのか?ま、全部なんでしょうけれど・・・それに向き合う人々が何ていうかそのぉまぁステレオタイプなのね?それで底が浅くなっているかも。書きたいものに向き合う姿勢は薬丸さんに1票!
って、誰が比べなさいって言ったの?そういう問題ではありません!
敵対する両方の情報をしゃべらせるのに実に便利なアンラッキートルネードで幸運の星下の坊やは二重スパイと両方に公言している調子のよさ。それで愛されるキャラなんて余りに底が浅・・・あらもうこの科白言っちゃってたわね。一寸安易な気がしませんか?
光と闇は並んでいたり、交じり合ったり、できるでしょう?ここまで対決姿勢をとる必然が今一伝わりませんでしたし・・・
行方不明人捜査は48時間が勝負!(FBI失踪者を探せより?)
こっち部門でもちょっと緊迫感が今一・・・ってそういう本ではないのか?
ただ医療現場の色々な事を覗き見できた面白さってやっぱり面白さでしょう。
尊敬すべき巌雄先生にはもっと普通の言葉でしゃべってもらって!彼の科白、折角「いいなぁ・・・」と思いたいのに、時代のギャップにけっつまずいてしまうのです。最先端の医療事情を頭の中に構築しようと努力していたのに、ここでも「あれ、時代劇だった?」になってしまう。
それに白鳥さんとか姫宮さんとかの性格有り得ない!それとも医療現場舞台コミックを目指して人物を造形したんで、これで良し!なのかなぁ?
それでも詰めの甘くない小百合先生がどう落とし前をつけるのか?覗いてみたい気持ちも十分に残っている一読者なのです、私。
この作家先生の早業なら、予約してある残り3冊が来る前に小百合先生巻き返すかも?
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闇の底

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薬丸岳著

大分前に「天使のナイフ」を読んだ後にこの本を予約したのですがよりによって今届いてしまいました。
「天切り松」にのめりこんでいましたからそのままのめりこんでいたかったのですが、取りに行かないと次に回って又今度は何時?になりますから。それにこの作家に前の作品で興味を持ったのも確かです。この作家は犯罪被害者の立場に立った作品を連続で世に送り出してきたようです。ある意味ジャストタイムで現在を切り取っていることは確かですし、戦後犯罪被害者になる確率が上がる一方で抑止力は全く働いていないというのが一般認識ですから。
この作品も実に興味深く読みました。
彼は犯罪被害者に非常に面白いと言うのは語弊がありますが独自の立場から目を注いでいます。
アメリカのドラマなどを見ていると「性犯罪者は矯正できない。」が常識のようです。性癖嗜好は矯めるのが本当に難しいことは想像できます。そういえば先日映画館で「リトル・チルドレン」という映画の予告を見たけれど、それも性犯罪者を扱っているようだったな。
アメリカでは今生犯罪者は居所を公表されて、住民たちも知っているといいますね。日本もこのまま子供たち(子供に限らないけれど)の被害が続くようなら考えてもいいシステムだと思って・・・現在の日本の恐ろしさに突き当たりました。
この作品で「子供に対する性犯罪殺人の抑止力をウタウ」殺人者は愛しい娘を持ってしまった性犯罪者で・・・彼の犯罪の動機を描くことでこの種の犯罪者たちの哀れさも恐ろしさも描いていますが、それ以上に結局彼らは矯正されないということを声高に言い募っているようでもあります。実際そうなのだろうか?家族にそういう犯罪者を持ったら、絶対そうは思いたくないだろう・・・祈る気持ちで矯正を願っているだろう。罪をあがなって再犯しないで・・・と。
統計だけでは決められないと一筋の光にもすがるだろう・・・とも思うと、この作家の描く世界の容赦の無さが胸に痛い。
だがやはりもっと痛いのは乱暴され殺されていった被害者とその家族で被害を阻止できるのだったらどんなに踏み込んでも許せると思う憤りもしっかり胸に生きています。
警官という道を選び又さらに選択を迫られた主人公の極限状態を考え出した?描ききった作家の現代社会の認識の確かさを痛々しく読みました。しかし、やっぱり表現の未熟さを思わないではいられないです。横山さんになれとは思いませんけれど、骨太な内容に緻密で微細な叙述が伴えばもっとこの作品は訴えただろうという気がして惜しいようです。言いたいことがいっぱいいっぱいで余裕が無いような?
それにしても現代の復讐譚は「モンテ・クリスト伯」の世界のように、カタルシスをもたらさないようですね?黒岩涙香さんの翻訳の「岩窟王」で始めてモンテ・クリスト伯を知った子供の頃は復讐は甘美に思えたのに。心って昔より複雑になったのでしょうか?それとも・・・?
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「天切り松闇がたり」 

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浅田次郎著

1巻「闇の花道」
2巻「残侠」

先日から泥棒と刑事と言う組み合わせほど面白いものは無いなぁ・・・なんて思いながら本を読んでいたせいか、ふぃっと頭に浮かんだのがこの本です。
「泥棒と言えば天切り松がいたじゃないの!」です。まだ読んでいませんよ。そうよ!小耳に挟んだ情報からも面白そうですよ・・・!
でもね、まだそんなに沢山読んでいるわけではないのに「又、浅田サンの本を読むのか?」って一寸思っちゃうのはなんででしょう?余りに上手すぎてツボを心得すぎた彼のワールドに思うようにはめられちゃう気がして一寸抵抗感があるのですよ。溺れさせられちゃいそうな危うさ・・・その手に乗るか?って無駄な抵抗!同じ溺れるのでも藤沢さんの世界だと抵抗を感じたことが無いのはなぜかなぁ?ここは一寸思案の要あり?でも、まぁちょっとそれは置いておいて、泥棒さん読んじゃいましょう、絶対面白いに決まっているもの!
で、読み始めて1巻第1夜目で、「こりゃ音読向きだわ!」
2巻、声を出して読みきりました。めちゃめちゃ面白かった!どうにもこうにも面白かった!
図書館ではそろそろ3巻目が私を待っているはずです。え~まだ届かないのか?
友人からのメールに思わず「かっちけねぇ!」と題して、「何のことよ?」と返されて・・・現代に立ち戻る“やばさ”です。
またしてもやられちゃっている私ですが、この作品に関しては構いません。むしろ「もっともっとドツボにハマってみたい!」感じです。
この松の世界。私の記憶の底にある世界。震災前の大戦前の見たことも無い町だけど聞き知り実際私の歩いていた道筋に蠢く過去の人々の様はもうそれだけで私の心の琴線にジャーン!町内の頭とか鳶の兄さんたちの佇まいを思い出しましたね。今でも祭の時に見かけるようですが、姿は同じでも果たして中身は?
私の認識では山形有朋なんて化け物の悪人、怪物です。でも第2夜で踏鞴を踏んじゃいました。山田風太郎さんの明治物でもあいつは褒められたモンじゃないですものね。彼は維新の悪印象を全部背負って立ってる感じでしょ?それが・・・ねぇ・・・この男を描く章で「にいさん方もたかだか銭金のためにヤマを踏むてえ根性なら、これを限りにきっぱりと足をお洗いなせえよ。曲げちゃならねえてめえの道てえのは、盗ッ人にせえ大臣にせえ、たとえ千金積まれたって売り買いのできるものじゃあねえ。もっともこれが悔いのねえてめえの道だなんて言い切れるやつァ・・・盗ッ人千人、大臣千人並べたって、そうそういるもんじゃあござんせんがねー」って〆に持っていくんですよ。
そしてこの安吉親分の一家のそんな道を行った兄さん姉さんの物語ですから・・・「侠」の字が生きて立ってきます。「小政」さんの章なんてどうです?声を出して読んでいる私は涙も笑いも声に乗せてです。
山田風太郎さんの明治物にも確か小政の話が・・・彼はやっぱり長生きしたんですねぇ?
天切り松の生い立ち、これに負けない情なんてありゃあしません。
「カチューシャ」唄えるのですもの・・・べそかきカチューシャになるじゃありませんか。参ったなぁ・・・と、思いながら急いでこれを書いて3巻取りに行きたい行きたい、というところなんですが。
3巻では彼の泥棒修行が読めるのかな?楽しみ楽しみ!!!
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ひとり日和

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青山七恵著

初めてじゃないでしょうか。私が芥川賞とか何とか賞とかをとった作品をこんな早く読むのは。(図書館待ちの時間分遅くなっただけです)おまけに近年争うように若年化している受賞者のニュースを聞けばなお更読むには抵抗があります。
これらの賞は青田買い、これから長く稼げる(はず?)作家を売り出すためのものだったのかしら?熟成する前に?時間や資本をかけないでとりあえず稼ぐぞ?って出版社乃至何かの方針?だからそれらを、読みもしないで眉唾眉唾と思っていましたから。はなっから熟成させるつもりも無い?作家の、使い捨ての作品読んでどうするの?みたいな。
とか何とか・・・って、つまりはそんなにも若くなってしまった、いやこんなにも若い人の作品の感性なるものについていける気もしないし、迎合するのもくたびれそう・・・ってだけなんですけど。題にも食指が動く物は無かったし・・・。
ところがこの作品は、この題に惹かれました。
言ってみれば私は生きてきたこの何十年余り、殆どひとりで一人の日和を謳歌(これって見栄?)してきたようなものです。
子育ても、あっ結婚もしましたし、勿論ご近所付き合いも、友達付き合いもそこそこあったことはありましたけれど、ぼちぼちにそれらと付き合った後の一人はなんと心地よいことかと思い暮してきましたからね(シラノの心の羽飾り!)。
私と同じような引っ込み思案?のひとり日和はどんなもんかなぁ、ちょっと覗くのもいいかな?なんて乗りでした。
この題若さを感じないんですよ。普遍的でしょ?だから妙に青臭く生臭く押し付けられないで済むんじゃないかな、若さを!って感触ありましたしね。で、結果、見事に、見事すぎるくらい若さを押し付けられないで済みました。
いえ、文章自体、使われている言葉、そんなところにはちゃんと作家の年齢が臭っていることは臭っているし、その年代の気負いが気取りがちゃんとある文章でもあったのですけれど、切り取って描いている日常が余りに淡々としている様に装っているので、うっかり若さを見落としそうになるのです。ふうーん、お気に入りの切り口と投げ出し方を見つけられたのねと、ちょっとこの繰り広げた日常に被せた薄い明度の高いグレーにうらやましさを感じてしまいました。
私の20歳の頃の世界・・・ったって、それは私だけのものですから比べようもありませんが、ここにこういう風に投げ出されたこの娘智寿さんの年頃の世界は私には理解できないだけに、今この世代の普遍的ワールドのような錯覚をもたらしました。
直裁に行ってしまうと「カワイそうに!」です。何が?余計なお世話ですよね、実際のところ。
それでも、その気持ちの中にはこんな風な「あなた、ずいぶんと生き難そうね。傷もあるかもね?あったとしても傷から流れている血がとても薄そうで、それって楽なのかしら?楽だとしても価値があるかどうかは別の問題ね。でも私の若かった時よりキレイに人付き合いも、社会との兼ね合いも何気にさらさら上手にやっているじゃん、あの頃の私なんかよりもズーット・・・」です。
そんな風に思えました。でもあの頃の私や友人よりも?すさんでいるようにも思えましたけど。
だから、むしろ私にとっては吟子さんの方が主人公でした。
シチュエーションは吟子さんのものですよ。彼女こそがあの線路と駅と家との主ですよ当然?智寿さんは通り過ぎて行く人ですよ。
この娘から見ている吟子さんに肉付けをしていけば・・・私のいい?先達になるかもしれませんね。
もっともこの若い作家がこの年の人を理解できるとは思えないのですけれど、その上で彼女たちから見える大人のさらさら感のある、したたかな生き方ってどんなものなんだろうねっていう興味ですか。
流れる事を意識しないで流れて行く、年をやり過ごしていくっていう感じって、こうむった痛手は既にそんなことの形跡はまるで無かったように消えている、そういう風に見えるって、はて、それじゃ生きてなんになるんでしょ?この明度の生活感の中に浮かび上がる母も藤田君も陽平も智寿さん本人も皆凄い感度のセンサーを持っていて昨日と違う何かを感知するとさっと方向転換をしてしまう生きもののように見えるって・・・これ何ですか?吟子さんだけはその中ではまだ生きていそう、むしろしぶとく?
この作品の中の大多数の人物は作品から出てきて歩き出す足持っているのですかねぇ?足も影もなさそうな人たちの、体臭の薄そうな人たちの、悲しみは悲しみで、喜こびは喜こびで、結局どうでもいいんでしょう?と言いたくなって、私はあなたたちとはお付き合い出来ませんし、して貰えそうもありませんしねと、横をすり抜けさせてもらいました。

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