浅田次郎著

短編集です。11話収録。
「憑神」を予約しようとしてこの作品を見つけました。「憑神」より待ち人が少なかったので題名に惹かれて予約しました。私はまだ乙女ですし、月の下では何かが起こる!涼やかで紫のかかった何かが!
そしてまたしても浅田さんの多才で多彩なことに驚きました。
もっともこの年になると、物事を判断する物差しは「好きか嫌いか」という1本に収斂していくようです。って、まぁ私の場合はです。
脳が面倒くさい分析をおっくうがると言うか避けよう避けようとするんですね。だからこういう短編集になると1篇読み終わるたびにすぐさま思うのは「これはイヤだわ」か「これはいいわ」です。
厳密には「好き」「嫌い」以外に「保留」っていうどうしようもないのがあることもありますが、読み終えた後で好きな順に頭の中で並び替えます。嫌いな物は消します、記憶から。最も最近は好きなものも直ぐに消えていく傾向にあって、思案投げ首状態、危機的状況を痛感しています。本当に嫌いな物は読み終わるや否や身震いするようにして急いで振り捨てるのです。重い物を身の内に滓にしたくはないんですもの。
この作品群は割合穏やかな振り幅の中に収まっていると言えましょうか。似た景色の作品たちです。でもその幅の半分以上は好きにはなれませんでした。
時々思うのですが、作家さんも澱とか毒とか残滓みたいなものを、集中して書いた折にこぼれ落ちた何かを、捨て去れない業みたいなのがあってそれも作品に結実させてしまうんじゃないかなぁ・・・って。そんな感じがこの作品の後ろから覗いているような印象があったのですけれど。
「回転扉」「告白」「同じ棲」「忘れじの宿」「あなたに会いたい」「風蕭蕭」以下省略させてもらいます。もう振り切ってしまったので。あ、表題の月下の恋人もすてるの?はい。
「回転扉」はSさんになって独白してみるとそれなりに面白いです。
私にも別人になってみたい欲求はあって、しかも私は観察眼がからきしないときているから?これはちょっとだけずれた私にもパラレルワールドでありえます。パープルシャドウを帯びた?
挙げた(残した)短編は私の中で長編に変わりうる何かを秘めているようにも思えたのです。物語を継いでいけるような種が見られたという感じでしょうか。余韻も楽しめるような。
「天切り松」を読み終わったところなので、あの本とこの本の間、あの岸とこの岸の間を流れる河の広さにアップアップですが、凄い作家だなぁと思いながら流れ着くならアッチの岸!と、思ったことでした。このクソ暑い時期に読むのには結構?お薦めできるかもしれませんね。でも内容は暑苦しくとも心がサッパリ出来るのは天切り松の方だなとやっぱり思う私でした。
浅田さんには他にも「月島慕情」「月のしずく」という月がらみの本が他にもあるようです。さ、予約しますか。「月島」は月か?ええ、月島の高層ビル群の隙間から見る月は又それなりにいい風情ですぜ。