蔭桔梗

題名INDEX : カ行 No Comments »
蔭桔梗 (新潮文庫) 蔭桔梗 (新潮文庫)
泡坂 妻夫新潮社 1993-03
売り上げランキング : 378390Amazonで詳しく見る
by G-Tools

kagekikyou1.jpg

kagekikyou2.jpg

kagekikyou3.jpg

   泡坂妻夫著 

短編11作。 職人の世界、昭和戦前の世界という感じ。今より家庭で仕事している父や祖父や…その背中が見える世界。 職人がいて、修行中の弟子がいて、客と仕事をつなぐ商家があって…小さな世界が重奏しているなつかしさのある世界。「控え目」という言葉が支配している世界の感じ。たとえば…恋は声高なものではなくて、ひそやかで、それより優先されるもの…謙譲や義理やおもんぱかりや…さまざまなしがらみ。そういうものが混在しながら居住まいがこぎれいな…という印象の世界。 おしこめられた感情は…底のほうに怪しげに小さなさざ波を立てていながら地表には出てこないというような世界。 かすかな行き違いや思い違いであるべきではなかった人生を生きることになったり…でもそれは自然な成り行きのように埋没していく。 ひそめた声で生きていく普通の人々がしっとりと色っぽい。表題の「蔭桔梗」実際にこの作家は紋章上絵師ということで、この作品世界の情感は際立っていた。成り行きをせつなく感じながら読んで堪能した。また「簪」という1篇があって、この作品のおぼろに包まれた無垢な恋の執念に心ひかれた。「不思議な話は他にも聞いた」炎の中で人の情念だけが燃え残って小さな光芒を放ったのだろうか。不思議に心をとらえる物語世界だった。しかもこの心情そのものがもう日本からおぼろな影になって最後の光芒ももう消え果てているような悲しさも感じてしまった。懐かしいだけで終えたくない…そんな執着を感じている。

からくりからくさ

題名INDEX : カ行 No Comments »

karakurikarakusa.jpg

%e3%81%8b%e3%82%89%e3%81%8f%e3%82%8a%e3%81%8b%e3%82%89%e3%81%8f%e3%81%95.jpg

からくりからくさ (新潮文庫) からくりからくさ (新潮文庫)
梨木 香歩新潮社 2001-12
売り上げランキング : 95633Amazonで詳しく見る
by G-Tools
りかさん (新潮文庫) りかさん (新潮文庫)
梨木 香歩新潮社 2003-06
売り上げランキング : 108210Amazonで詳しく見る
by G-Tools

梨木香歩著

  今、2回目の読書にかかっています。…ってことは…つまりそう、この本買いました。梨木さん「家守綺譚」に次いで2冊目のお買い上げです。 で、すでに「りかさん」も買ってあります。 最近ではまれな現象です、上橋さんに続いてですから…私にとって。 この作品も好きでしたね。 一生色あせないで続けていける何かを見出した人って二十歳そこそこでも大人なのね? このりかさんの在る家で蓉子さんと暮らし始めた乙女たちはすでにそれぞれにしっかりした揺るぎない個性を持っているように見えます。あのころの私にはまだ自分は無かった。そう、こう生きたいという、か細い柱さえも持っていなかったし独り立ちさえしていなかった。 それなのにカルテッドを奏でるこの女性たちは…そう年齢的には乙女なのに一人前の女性の趣で…それぞれに揺らぎも恐れもあるだろうに…立っている!自分になっている。そのうらやましさに覆い尽くされてしまった。 たぶん一人一人が別々に生活していたらこうはならなかっただろうとは思う。この4人+りかさんが集中した結果の色合いが生み出す強さなんだろうけれど。そしてこう、必然的に?生み出された雰囲気が羨望のまとなのだ。 それに彼女たちがひきつけられ邁進していく仕事! その古典的な輝き! 梨木さんの世界だ。 染め、紡ぎ、織り…仕立て上がっていくなにか。

この蓉子さんの家で起こるすべてのこと、話される会話のすべてに満ちるもの、りかさんに主催される連綿としたもの。 そして古いおばあさんに充たされていた家から4人の女性と赤ちゃんが奏でるに違いないハーモニーを感じさせる新しい家への変化。 この扉を開けさえすれば、いい年をしていまだに柱のない私にもこのうら若きしっかり道を見ている女性たちに触発されるものを何かしら見つけることだろう。 もちろん、彼女たちの道には曲がり角はあるだろうけれど…それさえが彼女たちには…素晴らしいものじゃないの? 

狐笛のかなた

題名INDEX : カ行 No Comments »
狐笛のかなた (新潮文庫) 狐笛のかなた (新潮文庫)
上橋 菜穂子新潮社 2006-11
売り上げランキング : 23834Amazonで詳しく見る
by G-Tools

kotekinokanata1.jpgkotekinokanata2.jpgkotekinokanata3.jpg

上橋菜穂子著 

「獣の奏者」シリーズも「守り人・旅人」シリーズもものすごく楽しく読めて…他にもこの作者の本を読みたいと図書館で探したら、この本を見つけました。この作品は日本のそう…何時代にあたるだろうか…戦国?いや妖怪が闊歩していた室町時代?…時代は特定できないまでも日本の情緒があふれた時代ファンタジーだった。 私が読み落としただけかもしれないけれど。戦国入口の管領の争いのイメージだろうか?なんて、考えたのだけれど、本当のところそれはどうでもいいので、異能の持ち主である少女とこの世とこの世ならぬあわいに生まれて心ならずも虜になった霊狐の不思議な物語だった。野火と呼ばれたあの狐君…あの真情!あんな心を持つ男の子?女と生れて心疼かない者はいないよね。そして結界や妖術の世界。そうちょっとロマンチックであまやかで健気なファンタジー。少女のころに読んだら心躍ったろうに…なんて醒めたようなことを言ってみてはいるが…実際はこの年になっても私はこういうものに心躍る。魔法が好きじゃない子供なんているはずがない。 ファンタジーやミスティックなものを読むたびにこういう作品がいまだに好きってことは…私は大人の顔をして…おばあさんになりかかっていて…なのに成長していないってことか?…大人びた顔をしようとして…ウソだよ、私はまだこういう作品を楽しめる自分が本当は好きなんだ。 「スイスのロビンソン」を神田の古書店で見つけてニコニコ顔になる自分が。

Design by j david macor.com.Original WP Theme & Icons by N.Design Studio
Entries RSS Comments RSS ログイン