ナイチンゲールの沈黙

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海堂尊著

笑えて、楽しみました。殺人事件なのに?ホント、申し訳ありませんがこれは作者さんのせいです。私は漫画には詳しくありませんが、家の旦那は「漫画は好きだけど、劇画は嫌いだ」と言います。
その伝でいくと、「螺鈿迷宮」の巌先生は確かに劇画でしたが・・・
この作品は漫画でした。登場人物が皆絵に書けるようでしたもの・・・それも私の下手な一筆書きで。
つまり作者が登場人物をそれだけ作品の中でリアルに?目に見えるように?活写してくれている・・・ということになりましょうか?笑えてしまうのです。
巌先生も最初にチョコッと顔みせ。私は既に次作を読んでいるので先生のしゃべりの大時代風が頭に浮かんで、直ぐに劇画作成にかかったのですが「迦陵頻伽」で頷き、アツシ君(このシャベリはないでしょう?)で転向、漫画に・・・白鳥さん登場で完全に方向性を決めることが出来ました。
しかも私はどうやら何部作かになる作者の著作をさかさまから読んでしまっているらしく「螺鈿迷宮」の粗筋はもうここで披露されている・・・多分もう作者の中では出来上がってしまっていた?→凄いなぁ!です。
章題をズーっト読んでいくだけでも作者のロマン嗜好がわかりますが非常に饒舌な装飾的な文章で、章・段落の締めに来る1行に所々実に面白い叙情的な表現があってこの文を書くとき作者は楽しかったろうな・・・なんて思いながら私も楽しく読み下してしまったのです。
殺人事件の謎解きなんてこの場合もうすっかりわかっているので、謎解きが主題の探偵ものではないのですが、体裁はそうです。わかっている犯人を確証で挙げるまでの数日をいかに面白い人物たちの跋扈によって盛り上げられるかと言う事を作者は試しているのかもしれません。そしてその試みという点で確かに面白い読み物を提供できています。
音楽と絵のなんか頷きたくなる二人の女性の能力は魅力的で少女漫画に似て高エネルギーに溢れているのに、それを奏でる4人の男女のシチュエーションがそれ以上にならなくてつまらないなぁ・・・惜しいなぁ・・・とは思いましたが。(螺鈿のお兄ちゃんは頼りなかったですが、こっちの坊やの造形は一寸オバサンにはイケマス)
今回も色々な最先端の?知識が奔流のように溢れて、カタカナをせっせと目で追っていましたが、はて頭に残ったかなぁ。
法医学の現状?ホームズはどう思うかなぁ・・・私はやっぱりあの時代どまりなんだなぁ・・・とつらい再確認。でもあの紙芝居、検挙率絶対に上げるよと、大してわけもわからず太鼓判押しています。
作中「バチスタスキャンダル」の話ちりばめられていましたが、まだ読んでいないので・・・どんな死骸がでてくるのでしょう?と楽しみになりました。その第一の作品の中でも既にその後の作品の構想が人参の様にぶら下げられているのかな?作者はどんなお医者さんなんだろう?田口先生に似ていないことだけは確か!
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夜の明けるまで 深川澪通り木戸番小屋

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北原亜以子著

北原さんの小説を始めて読んだのは「深川澪通り木戸番小屋」で、続けて何作か読んだのだから、その頃はもう女性の時代小説作家としてすっかり人気作家になっていらしたのだろう。その後「天保六花撰」で勢いが止まってしまった。作家のではなく私の勢いだが。「天保」ははっきり言って私の好みではなかったので「澪通り」の続きがでてくれないかなぁ・・・と、思いながら、お捨さんも笑兵衛さんも木戸番小屋を離れたのだから続きはないと諦めてしまっていた。
NHKで「慶次郎」を見てああこんな作品も有ったのだなとは思ったのだがTVで見る彼らの世界は妙に持ってまわって捻ってまわっている?って感じがして・・・なんかこう素直にうんうんと頷ける感じがもう一つ遠い。薄ぅーくいやーな情の押し付け、厄介すぎる勘繰りが被っているような、痒いところを掻き過ぎてくれてるような?これは読むには億劫そうだなぁと思った。そんなわけで以来北原さんの作品をチェックするのを忘れていた。そしたら見つけました。澪通りの続編を。
でも、これはどういう位置付けになるのでしょう。お捨さんは相変わらず健在でころころ転がるような声で笑っておられました、木戸番小屋で。(ともあれ、作者に殺されてなくて良かった!)
ほっとしました。中島町の木戸番小屋へ行けばあの二人が微妙に癒しを含んだ方向転換の風を吹かせているのだなぁ・・・でしょうか。
この小屋の前を通り過ぎて行く女たちは皆自分の足でおぼつかないながらも、かたくななりともお江戸の町でちゃんと生きているのだけれども、この小屋を通り過ぎた後〈何かながらも〉は憑いていた物を脱ぎ捨てて、以前より軽やかな、晴れやかな足取りになっていくようで、そこがこのシリーズの読後感のいいところなのだろう。
私とそう変わらない?年頃のお捨さんがどうしたら女神のような、他人への触媒のような存在で在れるのか?いい年をしてまだ棘だらけで自分だらけの私は頭を垂れてしまうのです。木戸番小屋のこの不思議な夫婦に、だからどうぞ何時までもそのままの存在でいてくださいと願うしかありません。何時か私がそこへたどり着けるまで。
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月島慕情

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浅田次郎著

これも短編集でした。7編収録。
う~ん、これは、私の伝家の宝刀「好き嫌い」物差しを振りかざしても測るのが難しい作品群です。目盛りをふりきっちゃいます。
「月下の恋人」がこの作家の大作群からこぼれ落ちた澱のしずくだとすると、これは野放しにされた、手綱を離れたやる気じゃないかっていう気がしたのですけれど。手と情感が我が物顔で走ったのねという感じを受けました。浅田さんはこの方が手馴れています。
「インセクト」というのは私と同時代の学生さんの見覚えのある姿ですが、それでもやはり生理的に気持ち悪かったです。北海道にはゴキブリはいないから・・・って言ったって・・・。彼だって見たことなくても知識はあったでしょうから、それだけ孤独が浮かび上がって来て切ないのですけれど、それでもごめんなさいです。
あと「雪鰻」は既視感があります・・・え、どこで?えぇー「蒲生邸事件」宮部みゆきさんでしょうか?
表題の「月島慕情」は田舎から売られてきた少女が美貌と利口さとを武器に吉原で見事に生き抜いてきたその点に心打たれましたが、身請けする時次郎と言う男がどんなにいなせないい男と書かれたって月島の家庭を見せちゃった時点でこの話はぽちゃるでしょ?本当に男の中の男だったら女房子にあんな憂き目は見せないでしょうからね。トチ狂った粋がり男じゃないの。それでもねぇ、あんな苦界でこんなにいい女が出来るのかしらねぇ!ミノさんはいい女、女を上げたね!女の意地のが素敵じゃないか!と思うけれど、この作品は乗れません。最後のページやるでしょ?やりすぎでしょ?お願いそんなにやらないで・・・。
それ以外の作品は「やられているぞー!」と少々忌々しいながら涙と共に読み下しました。特に「めぐりあい」と「シューシャインボーイ」には負けました。別に珍しい個性的な作品ではないのです。こんな話よくありそうだよーと、思うのですがね、上手いです。
とまぁ涙を流して、心も潤ったようだぞと思いながらも一寸忌々しいんですね。素直に感動をありがとうといえる感性がもうしみしわに覆われちゃって固くなっているんでしょうね。いやむしろ、抑制を外した作者の力技が言わせないんだと思えるのですが?
「シューシャインボーイ」子供の頃父と銀座有楽町辺りに出かけると父もよく靴を磨いてもらっていました。私も塚田さんの奥さんのように「あ、水を使うんだ。」と驚き、それから父の靴を磨く時にはまねして2・3滴の水を使っていたものです。「あら、素人はしちゃいけなかったのか・・・」と、今頃知りました。ガード下の靴磨きのイメージをすぐに心に浮かべられる世代なのです。(そういえば今もちゃんと有楽町のガード下にはいらっしゃいますよ)
そしてこれも最後のページです。「菊治さんにこんな遺言書かさないでよ・・・」と滂沱の涙の私です。
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月下の恋人

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浅田次郎著

短編集です。11話収録。
「憑神」を予約しようとしてこの作品を見つけました。「憑神」より待ち人が少なかったので題名に惹かれて予約しました。私はまだ乙女ですし、月の下では何かが起こる!涼やかで紫のかかった何かが!
そしてまたしても浅田さんの多才で多彩なことに驚きました。
もっともこの年になると、物事を判断する物差しは「好きか嫌いか」という1本に収斂していくようです。って、まぁ私の場合はです。
脳が面倒くさい分析をおっくうがると言うか避けよう避けようとするんですね。だからこういう短編集になると1篇読み終わるたびにすぐさま思うのは「これはイヤだわ」か「これはいいわ」です。
厳密には「好き」「嫌い」以外に「保留」っていうどうしようもないのがあることもありますが、読み終えた後で好きな順に頭の中で並び替えます。嫌いな物は消します、記憶から。最も最近は好きなものも直ぐに消えていく傾向にあって、思案投げ首状態、危機的状況を痛感しています。本当に嫌いな物は読み終わるや否や身震いするようにして急いで振り捨てるのです。重い物を身の内に滓にしたくはないんですもの。
この作品群は割合穏やかな振り幅の中に収まっていると言えましょうか。似た景色の作品たちです。でもその幅の半分以上は好きにはなれませんでした。
時々思うのですが、作家さんも澱とか毒とか残滓みたいなものを、集中して書いた折にこぼれ落ちた何かを、捨て去れない業みたいなのがあってそれも作品に結実させてしまうんじゃないかなぁ・・・って。そんな感じがこの作品の後ろから覗いているような印象があったのですけれど。
「回転扉」「告白」「同じ棲」「忘れじの宿」「あなたに会いたい」「風蕭蕭」以下省略させてもらいます。もう振り切ってしまったので。あ、表題の月下の恋人もすてるの?はい。
「回転扉」はSさんになって独白してみるとそれなりに面白いです。
私にも別人になってみたい欲求はあって、しかも私は観察眼がからきしないときているから?これはちょっとだけずれた私にもパラレルワールドでありえます。パープルシャドウを帯びた?
挙げた(残した)短編は私の中で長編に変わりうる何かを秘めているようにも思えたのです。物語を継いでいけるような種が見られたという感じでしょうか。余韻も楽しめるような。
「天切り松」を読み終わったところなので、あの本とこの本の間、あの岸とこの岸の間を流れる河の広さにアップアップですが、凄い作家だなぁと思いながら流れ着くならアッチの岸!と、思ったことでした。このクソ暑い時期に読むのには結構?お薦めできるかもしれませんね。でも内容は暑苦しくとも心がサッパリ出来るのは天切り松の方だなとやっぱり思う私でした。
浅田さんには他にも「月島慕情」「月のしずく」という月がらみの本が他にもあるようです。さ、予約しますか。「月島」は月か?ええ、月島の高層ビル群の隙間から見る月は又それなりにいい風情ですぜ。
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