薔薇の王朝(王妃たちの英国を旅する)

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石井美樹子著

私が始めて自分のお小遣いをためて買った本は「小公子・小公女」だった。その後「若草物語」「赤毛のアン」などと英語圏の本を読み進んだからかもしれないが・・・これらの本を読むとディッケンズとかスコットとかシェークスピアとか読みたくなるでしょう?
そんなわけでリチャード獅子親王、ジョン失地王、リチャード三世、ウィリアム征服王、ヘンリー七・八世、ヴィクトリア女王、エリザベス女王、メアリ・スチュアート、ジェーン・グレイとイギリス王室の王たちの名前をばらばらに覚えこんだ。
図書館でこの本を見つけたとき、魅惑的な題名だと心引かれた。
しかし著者の名は心当たりが無い・・・学者さんらしい・・・という点で実はちょっと躊躇した。ただ単に面白い気がしなかったからだ。
同じイギリスの女王を描いても、漱石の「倫敦塔」のようなわけにはいかないだろう・・・?でも、イギリスの王室のなかでもヘンリー8世の6人の王妃たちとその女王になった二人の娘にはとても興味を引かれるし・・・薔薇の王朝という題名は薔薇戦争から取ったもの、白薔薇のヨーク家と赤薔薇のランカスター家から取ったものだとすれば、当然話はその後のヘンリー8世にいくと思われた。
王妃を語るには最高にドラマチックなのがヘンリー8世とその娘の時代なのだから興味は引かれる。
あたり!というわけで薔薇戦争の話は本の導入部で、ランカスターの血を引くヘンリー七世の即位とヨーク家の血筋を引くエリザベスとの結婚からイギリス史でも最も?スキャンダラスな時代の話に突入していった。私の読みたいところはそこから「倫敦塔」でおなじみのジェーン・グレイ姫までとそして偉大なる時期を迎えたエリザベス王朝の光と影であり、まさにぴったり!だった。
しかしやっぱり?話が、記述が少々面白くなかったのが私的には物足りなかった。事実を平易な文章で正しく記述してくれているのだけれど、非常にドラマチックな成り行きを記述しているのに全然ドラマチックな気分が盛り上がらないのだ。それに当然といえば当然だが年表どおりに話が進まず前後が入り乱れ繰り返しが結構多い。彼女等を動かし擁護する勢力の記述を挟みこまなければならない必然のせいなのだが。
しかしこの本には素晴らしいところがあってどの妃がどこの城で育って、どこでどういう教育を受けて、どこの城に幽閉されて、どこの城又は教会で眠っているかを詳細に知ることが出来た。
今度イギリスへ行ってその地へ行くことがあったら・・・と、夢は膨らんだのだが・・・ツァーで行く場所は決まっていてなかなか難しい。
自由旅行で鉄道を乗り継ぐには言葉に難がありすぎて・・・!!!
先年ロンドン塔へ行った時には哀れな16歳の女王ジェーン・グレイが首を切られたところと思い頭を垂れてきたが、この薄幸の佳人が生まれ育ったレスターシャーのブラッドゲイト・パーク館の跡地へ行く手立ては相変わらず私には思いつかない。このロンドン塔には第二の妃アン・ブーリン(エリザベス女王の母)もここで処刑されて眠っている。
その旅行の時行ったウエストミンスター寺院にはヘンリー8世の4番目の妃アンが眠っている。離縁されてもこの妃だけはなんとなく悲劇という感じがしないのはありがたいくらいのものだ。
2番目の妃アン・ブーリンの記憶と3番目の妃ジェーン・シーモアの霊が住みついているハンプトン・コート宮殿くらいなら何とか行けるかな?
そんなわけで無駄な抵抗だと思いながら、たくさんのキャサリンやメアリやエリザベスや、マーガレットを混乱しながら区別し(なんでこう同じ名前ばかり付けるんだろうね?)彼女たちの育った邸宅や城の名を頭の中でつぶやいているところです。
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ハリー・ポッターと謎のプリンス

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 J・K・ローリング著

こっちへ越してきてから図書館に最初に予約したのが確かこの本でしたから、待つこと1年と数ヶ月!ようやく届きました。
それで貰ってくるや否や読み始めたのですが、「おや?」なんです。
どうも抜けているようだぞ・・・?何かぴたっと来ない?
それで流石にうかつな私も気が付きました。
引っ越してくる前に前の区の図書館に「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」を予約したままにしてきた事を!
ま、とにかく読み終えました。今から「不死鳥」を予約しても、その後で「謎の・・・」を予約しなおしたら、ヒョットすると又?1年ぐらい待たされちゃうかもしれないし?
読み終えて「不死鳥」を予約したら2日で到着。
逆転しましたけれど、とにかく読めて不審は解決!
家に子供はいないし、場所だけ取るから買えないし・・・図書館頼りはこれが辛い。え?ペーパーバックが出たのですか?文庫本サイズ?それって厚みは?本屋へ行ってみよう。
この手の物語に私は弱い!ジレンマ大。
とにかく映画の到着前に読めましたから、まずは祝着。
楽しく夢中で読めました。
本当に物語を紡ぐローリングさんの才能に感謝!
ハリーの性格も段々際立ってきていますし、その成長も友情も実に順調で過不足無く、敵はますます強大で申し分なく、楽しかった!
ヴォルデモード卿の輪郭がはっきりしてくるのと反比例で物語が終息に向かっているのが残念なことだと思いながら読みましたが、ハリー以上にダンブルドァに傾倒している私はこんなにがっかりしたことはありません。シリウスの死去の際は本当にハリーを痛ましく思いましたが、シリウスはもう一つ愛情を覚えるほど書き込まれてはいませんでしたけれど、ダンブルドアはね。物語の魅力を半減させるほどに残念です。
成長したとは言え、この3人でどうやって次の最終巻!保たせるのかと今からもう心配です。
当然ダンブルドァの抜けた穴は総力結集しかないでしょう?
・・・とまぁ、こんな具合にアイバンホーやロビン・フッドやピーター・パンや紅はこべやもっと言えば猿飛佐助や霧隠才蔵を読んでいた頃と変わらない自分の「不」成長を喜んでいます。
ダンブルドアの大きな穴を埋める大活躍をDAが見せてくれるのでしょう!
中身がこんなに変わらないままで60になって、還暦しちゃったらどうしよう?それが最大のジレンマ?な私です。おやおやジレンマだらけですね。「指輪物語」は私の中では別格!宝物とはいえハリーのシリーズもなかなか大きな比重です。
教室で彼らと一緒に魔法を学んでいる?私ですものね。
だからね、夜暗い家に帰ってきたら、「ルーモス」と言えばスイッチを押すだけで明るくなるけれど、「レバロ」なんて家事で使うには最適なのに菜ばしの杖が今一?習得できないのが残念。
最近では「プロテゴ」って言うのを身につけたいと思っているのですが・・・年のせいか少々堪え性のなくなった友人がいるのですよ。彼女の愚痴から耳を守りたいのですが・・・ハイハイ、究極のプロテゴはアドレス変更?デモネ、彼女はおかしな毒舌家でもあるので・・・
ハリーの次の本を「あー、待ち遠しい!」って思いっきり思っているのに、又出版されると図書館に予約して延々1年以上待ち続けられるところが私の成長点?かも。でもこの調子でいったら7巻は3冊?
このシリーズはわくわく読めた!ヤッホー!でいいでしょう?
デモネ、私がハーマイオニーだったとしても?やっぱり(本の中の)ロンを選んだだろうって事だけはますます確実になりかけていますよ。ハリーの癇癪は環境と境遇と運命と宿命と(おんなじジャン!)・・ホント、大変だわ、ヒーローは可哀相ね!
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闇の傀儡師

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藤沢周平著

昨日新聞を読んでいたら何かの雑誌の「2大人気作家、藤沢周平と司馬遼太郎の比較」という記事の広告が出ていた。
「こんなのが出ているよ。」と朝食を食べている夫に言ったら、「全然違うものを比べる必要があるか?何のために比べるんだ?比べる意味ないじゃないか!」とおっしゃいました。
ごもっとも!と、私も答えました。
確かにネ。「2大人気作家に違いは無かろう!」とは思いますが、この二人の作品は「まさに右と左、甲乙つけるというものではござらぬ。」という感じですか。
でもそれじゃぁ評論家さんのお仕事は随分限られてしまいますよ。
無理を通してもテーマを見つけるという姿勢こそが?面白い評論や論文を作り上げるこつ・・・卒論のテーマみたいに?そう、苦労しましたねぇ・・・大昔!
その雑誌はどの作品で何を比較しているのか知りませんが、意味や意義は後から付いてくる!
というようなわけでその後ぼんやり考えていたのですが、それで思い出したのが司馬遼太郎様の「梟の城」と藤沢周平様の「闇の傀儡師」です。なんてったって冒険物が一番好きな私、正直に言うと司馬さんに夢中になったのは一番初めに「梟の城」を読んだからですよ!「尻啖え孫市」とか読み進んで「国盗り物語」など戦国時代を舞台にした作品でもう面白くて面白くて・・・となったのでした。維新物も好きでした。でも明治が舞台の作品になって、作中人物が余りにも等身大?に近くなってきてなんとなく匂いまで現在と近くなってきてからは余り面白くなくなってきて、史談・地理・民俗・国家・・・なんて論ずるようになると私の興味は褪せてきたというのが正直なところです。
でも司馬さんの作品の膨大さを考えると・・・やっぱり比較なんて出来るもんじゃないなぁと・・・思っちゃいますね。
私は評論家でも分析家でもなくただただ面白いものが読みたいだけの読書趣味さんですもの、自分の好きな本だけありがたく読ませて頂くだけです。
藤沢周平さんはその点面白くなくなってきたなぁ・・・と、思うことはとうとう無いまま・・・私にとっては最初から最後まで面白く読ませる作家のままでした。全作品を読み終わったわけではありませんが、今まで読んだ作品全てが好きです。そして藤沢さんの「闇の傀儡師」を始めて読んだ時、ふと「梟の城」を思い出したんだという事をこの新聞の広告を見たときに思い出したのです。
「ああ、藤沢さんにもこんな伝奇小説があるのか!」でした。
そのとき時代小説を書く人はやっぱりこんな風な冒険活劇、筋立ての波乱万丈な作品を書いてみようと思うんだ!と思ったのです。
若いときに読んだ分ストイックにニヒルに見える、しかし激しい気性情念を持つ「梟の城」の葛籠重蔵の重さは物凄く魅力的でしたし、物語を主人公の向かう方角に引っ張っていく迫力も無常も、あくの強すぎるくらいの登場人物たちの性も申し分なく魅力でした。
が、今は「闇の傀儡師」の主人公鶴見源次郎の抑制の利いた静かな資質が好もしく思えます(23歳ですと!)し、作中しっかり書き込まれていく緻密な生活感がちょっとした清涼剤にも読み応えにもなって読後感が安らぐ感じがして好きです。登場人物全般に癖もユルイ?ようなところも含めてです。
もっともこの手の作品ならもうちょっと暴走してくれても良かったかなぁ・・・
それは私の年のせいだけではなく時代の色のせいもあるような気はしますけれど。
藤沢さんの作品に登場する浪人さんたちの生活の苦労がご本人?たちには申し訳ないながら楽しく読めるので青江又八郎さんも神名平四郎さんもこの鶴見源次郎さんも愛しちゃうんです。
この作品の田沼意次の造形にも興味が惹かれます。田沼意次って書く人、作品により色々な表情を持つ人物にできる、実在の人物としては最高の江戸時代キャラクターですよね。使いようで180度様々な性格・評価を付与できる特異な魅力的人物ですね。
私の子供の頃は賄賂で有名な政治家でその後の松平定信時代の方が「寛政の改革」として評価されていたんじゃなかったでしょうか。物語で登場させるには、松平定信は怜悧・清潔の度合いぐらいしかいじれそうもありませんけれど。
池波さんの「剣客商売」の田沼さんはまぁちょっと出来すぎ?ですが。
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モッキンポット師の後始末

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井上ひさし著

読むぞ!と思って間もなく他の館にあったのが移送されるだけの待ち時間で読むことが出来た。
楽しみにしていただけのことはあった!
「青葉繁れる」よりも一回り面白くて楽しくて爆笑しながら読む場面は多かったのだけれど、実際は「面白うて、やがて悲しき・・・」という感じだった。
モッキンポット師が後始末に現れる物語が5話入っている。
「モッキンポット師の後始末」「聖パウロ学生寮の没落」「聖ピーター銀行の破産」「逢初1号館の奇跡」「モッキンポット師の三度笠」
私はS大学文学部仏文科教授で関西弁を流暢に操る西洋乞食のような風貌風采のフランス人神父のモッキンポット師が不信心者の信徒学生の素行の後始末にいかに忙殺され心を砕き何とかしてやろうと奮闘する物語として読んだが、勿論この学生の青春試行錯誤の冒険?物としても読めるだろう。
というかそっちが本質?
だけど丁度「青葉繁れる」のチョロ松の行く末とピッタシ重なるモッキンポット師の苦闘は宗教的な寛容心が底にたゆたっているのがとてもよく分かるだけに悲哀も偉大も・・・したがって滑稽もチョロ松の比ではない。
こんな日本人の不届きな学生のために、こんなにも物心両面でご面倒をかけて申し訳ありません・・・って、私が謝りたくなってしまう。
もっともこみ上げてくる笑をこらえながらかもしれないが?
モッキンポット師は真に師であって、その風采のよって来る所以はこの学生たちに全てを底なしに吸い取られているからに他ならず、最後に「弁償させていただきますわ。けどすこしまかりまへんか?」という科白を読むと、クスっとしながら私など神のありがたみを師は体現しているとありがたーい気持ちにもなるのだ。
それなのにこの学生小松君を筆頭にこの3人組の恐るべし!
よくもまぁ、ここまで師の寛容を試せるものだと私に憤慨させるほどの代物なのだ。
「「ドタマかちまくよ。」と神父は優しくいった。」に続く師の言葉!
「神父の掌は冷たくて、手を離したあともしばらくの間ごつごつとした感触が残った。」・・・に続く収めの文章!
神父のうしろを僕らは主人のあとを慕う犬のごとくつき従った・・・。」もう本当に申し訳なくて穴に入りたいのはこっち・・・って気になる!
それなのにその上「自分の物差しを絶対と思い込み、それでもって他人の行いを推し計ろうとするのは傲慢なことでっせ。」といわせるにいたっては!
彼らのせいで帰国謹慎になった神父を前に彼らが悔い改めた・・・とはとても思えないけれど、だからこそ師の偉大が身にしみた!物語の粋も!
粋も甘いも、訳知りの、社会性も俗性も備えた神父の底知れぬ懐の深さ!というわけで、全くこの3人組が脱線していく見事さは師の造形の見事さにますます磨きぬかれて?とにかく面白うて・・・となったのでした。
それにしても5編の見事な盛り上がりとその見事な〆!
最高に上質な?素晴らしい作品だと私は本を撫でています。いいなぁ!実にいい!
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