風が強く吹いている

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三浦しをん著

三浦しおんさん初挑戦です。この作品と「まほろ駅前多田便利軒」の2作品を図書館に申し込んでこちらが先に届きました。
最近まで私は保守的?で、読書は長く読み伝えられて評価の定まったいわば名作主体に読んでいました。そして好きになった作家の作品はたったった・・・と続けて読んでしまうのが常でしたが、このところ傾向がすっかり変わりました。人生残り少なくなったから?気の向くままにつまみ読みです。誰かに「お薦めよ」と言われたり、書評で見つけたり、広告の文句に引きずられたり・・・行き当たりばったりです。でも避けるのはやはりあって、思いっきり泣かせるという恋愛ものとオカルトホラー・スポコンものでしょうか。それにこの本を読んで気が付きましたが「思いっきり青春」小説というものも避けていた感じです。
それが井上ひさしさんの「青葉繁れる」と「モッキンポット師の後始末」を読んだせいか、本当に忘れていたみたいな石坂洋次郎さんまで思い出しちゃって・・・で、この小説です。スポコンものに加えて思いっきり青春って感じですが・・・いいの?良かったんです!
本当に私の青春時代以来の素直な青春ものといった印象でしたが、スポコンという点に関してはどうでしょう?むしろ今までのスポコンものとは対極の位置でのスポーツ推奨小説といった感じでした。
それで私も物凄く好意を持ってこの本夢中で読めました。
私は走る跳ぶが駄目、6年の時のスポコン先生に劣等感背負わされたっきり運動とはおさらば。運痴だから運動には長いこと手を出さなかったんだけど、いい大人に成ってから運動は誰でも楽しめることに目覚めて「チェッ!って感じ?」でしたから、この急に否応無く走り始めた彼らに私は夢中!
走りに取り付かれている二人は別枠に置いておいて・・・といったからって彼らに反感はありませんよ。「ある種の能力を司どる運命の女神に微笑まれてしまった青年たちよ!」って感じですか?だから彼らは彼らで美しく自らの道を追求してくださいってものです。そういう彼らに心底憧れて共感をする読者には事欠かないでしょうけれど・・・むしろ残りの青年に共感する人はそれこそ山の様?のはずです。
なんと言ってもスポーツに対する、作者の拠って立つところがなんと言ってもいいのです。運動馬鹿も、運痴も、どちらも自分の場所を本の中に見つけることでしょう。そして彼らの誰かと一緒に風に吹かれるでしょう。
青春はやっぱり甘酸っぱくて、小気味良くて、将来があるんだと・・・微笑がホホに浮かびました。この風に吹かれて弾む気持ちは多分18歳の頃と一緒ですよ。夢中になってフレーフレーと沿道で叫ぶようにページの中に顔を突っ込み読みふけりました。
そう、50歳の時始めてスキーを履くことから教えてくれた大学生のインストラクターさんは私をコースの天辺まで押し上げて、練習を始める前に山頂からの雪の世界の美しさを見せてくれましたっけ。一寸頑張ればこんな世界が私のものになるんだって、最初に何よりスキーがこんなにも美しいところを駆け抜けるものだって知ってくださいって言ったなぁ。
誰でしたっけ?ニコチャン先輩?競技以外のスポーツを楽しんでいいのだって教えてくれる人の居なかった不幸の中にいた青年がいましたね。ほんとよねぇ、めぐり合いよねぇ・・・私だってあんな楽しい素敵なコーチに出会わなかったら運痴の劣等感の中でテニスやスキーなんて一生縁が無いままだったわ・・・などと、私自身40過ぎてからスポーツをそこそこ楽しめた来し方を、そんなこんなを、本を無理やり閉じて眠りに付く間改めて反芻して・・・素直な共感しきりでした。
心身を鍛えるためのスポーツで体を壊しては何にもならないわよねぇなんて嘯いているオバサンにだってスポーツを愛する心はちゃんと在ったってことね。そして強い風に吹かれたい気持ちはやはり心のどこかにちゃんとあるって事!
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影踏み

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横山秀夫著

最初の2編を読んだところで「ああそうか!こういうお話なんだな。」と、構成が飲み込めましたが、途端に私が思い出したのはモーリス・ルブランの「バーネット探偵社」と「八点鐘」です。ルパンには悪戯な皮肉な探偵心があります。ロマンチックな気分もね。彼の場合は勿論!自分の利益のために探偵さんをするのですからこの作品とは味が全く違います。
でもまぁ、泥棒さんが一つ、二つと自分の前にはだかってくる問題に立ち向かって、何らかの解決を見るという形態には似通うところがあるでしょう?でも、云ってみればルパンのは「哄笑」ですが、この作品の主人公真壁さんにはそれははるか対極のものです。云ってみれば、彼の場合はせいぜいが苦笑、むしろ悲しみと苦痛を一枚二枚と心から殺ぐ止むに止まれぬ行為です。最後の最後まで全ての逸話が痛みを伴います。日本的だなぁ・・・と、思います。
過去を振り返り振り返り・・・いやむしろ過去が彼を手放してくれないという異常な状況を抱えて彼は進みます。
彼と彼の内なる弟との会話で彼の全てが明きらかになっているのですが、彼が一つ一つと事件の中を進むうちに彼が抱えている彼自身の問題もよろめきながらも変化を見せていきます。
彼のうちにある葛藤と彼の周りの世界で起きる葛藤とが同時進行で綯われていきますが、最後まで彼の世界は日本的で最後まで「哄笑」にはなり得ません。だから作品としては毛色の変わった警察もの、事件解決探偵ものとして娯楽作品であるにも関わらず、そして読むうちになるほどと事件の全容に唸らせられるにも関わらず、読む私にも痛みが残ってしまいます。小説の世界には色々な状況を背負った探偵さんが居ますが、真壁さんの状況はその中でも特異で、すっきり解決した満足感は薄いです。彼自身解決はないのでしょう?でも、弟が消えた時点でもう事件に巻き込まれる必然は生み出せなくなったぞ!と、一寸がっかりもしています。
でもねぇ、30半ばで、これだけ警察にも業界?にも顔が売れてしまっていて・・・立ち直るって?一体どうやって?・・・真壁さん頭がいいからなぁ・・・度胸もあるし・・・と、私が一生懸命考え込んでいる時点で、「しかし横山さんは読ませてしまうなぁ。」です。
双子という設定が生きて、オカルトに陥る前にしっかり食い止めて、微妙に却ってリアルになるのが妙です。そして又雁谷市の規模の設定が又妙です。生活感のある町・・・刈谷市って愛知県にありますが・・・そこよりは規模が大きそう?自転車活用小回り平地感・・・静岡市?・・・いや寒さから北関東?なんて。
しかし警察って・・・横山さんの本を読むたびに何かあったら「警察に駆け込むか止めるか?」判断が難しくなるような気がするのですけれど?
ルパンは大好きですが・・・真壁さんも・・・悪くないです。
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失われた町

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三崎亜記著

となり町戦争」を読み終えて、この人の作品何か他にないかしら?と図書館で調べて申し込んで待つこと久し・・・なんと連休直前に届くのだもの・・・この連休は夫の里帰り兼趣味旅行で8日間も車の中。電車の移動なら本を読む暇もあろうってものだけど、なぜか車の中では読めないなぁ・・・これが車旅行の最難点。当然待たされたってことは待ち人わが後ろにも居たりーということで図書館は延長は効かない。フットバシ読みでしたが、どっちにしてもこの本はフットバシ読みになりました。面白くて!オモシロクテ!おもしろくて!!もう一度予約してもう一度読み直します。だから?とりあえずの感想です?
「面白くて!」と、まずは書きましたが、それは「興味深くて」に置き換えなければなりません。決して痛快娯楽劇風の面白くてではないからです。
この作者は「となり町戦争」で私に与えたインパクトを「二匹目の泥鰌」を期待した私に丸々と太った噛み応えのより充実した泥鰌にして投げて寄越した!って感じです。
今度は町が町ぐるみ消えてしまうんですよ!30年に一度の現象ですって?
理不尽は理不尽なりに・・・というか、意表を突く設定にも関わらず、普遍の人間の逞しさを希望を書きつくしてくれているという感じです。しかもその過程はなんと言ったらいいのでしょう?
実に「面白く」読ませるのです。
「となりまち戦争」を思わせる乾いた文体、利用される役所言語?硬質な記述の中にてんこ盛りに盛られたウェットな情感。これこそがこの作品の基本にある魅力だと思いましたが、物語としても筋立ての面白さが根幹にしっかりとありました。
私はべた褒めしているつもりなのですが、そうなっているでしょうか?5月の始めにして今年の私の最高の一冊になりました。
「理不尽な消滅」に抗って登場する全ての人物像が好ましく、作者が根幹に持つ優しさが反映しているのだと思わされました。消滅管理局という組織にも、全く違う存在のように思われる時々挟み込まれる居留地にもなぜか現在の私たちの社会を強く感じさせられました。
でも、読んでいる間中私の心に去来したのは私が失ってきた多くの者たちでした。亡くなった母も、舅も、友人も、諍いして失った者も、執着していた過っての様々な物どもも・・・、次々に痛みとして上って来ましたが、管理局で戦う人々やその周辺で傷みながら抗う人々に感情移入して読み進むうち不思議なくらい穏やかな気分になっていきました。私も抗ってもいいのですが、受け入れてもいいのです、泣く時は潔くきっぱりと泣いたっていいのです。
「恐れすぎてもならず、侮ってもならない」姿勢って人生で一番大切な戒めなんじゃないでしょうか。何事に対す時にも、もっともそれが出来れば人生の達人ですけれど、頭にこの言葉を置いておくだけでもきっといいよと思います。
この本何より章ごとの題が内容の文章の硬さに反比例するように古風に潤って美しいのが嬉しかったですね。章題だけ声に出して読んでみて御覧なさいって言いたいくらい。
風待ちの丘、澪引き(みおびき)の海、鈍(にび)の月映え、終の響き(ついのおとない)、艫取りの呼び音、隔絶の光跡(しるべ)、壷中の希望(こちゅうののぞみ)
硬軟、静動、乾湿、情理この作家はバランスもいいのです。
それにしても書きたいことがあったとしてどうすればこんなシチュエーション思いつくのでしょう?隣町同士の戦争にしても、30年毎の町ぐるみの消失現象にしても?理不尽な宿命と希望を載せる舞台の作り方が凄い!
ただ急いで読んだためか時間経過の前後がちょっと混乱してしまった。丁寧に読みたいところです。
「となり町戦争」は映画化されましたが、見損ないましたというか見たくなかったのかも知れませんが。どう映像化したのかとちょっと不思議です。この作品も映像化難しそうですが、映画化されるんでしょうかね?三崎さんには他に「バスジャック」という作品があるようです。図書館に申し込んでおきましょう。
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