闇の底

題名INDEX : ヤ行 616 Comments »

薬丸岳著

大分前に「天使のナイフ」を読んだ後にこの本を予約したのですがよりによって今届いてしまいました。
「天切り松」にのめりこんでいましたからそのままのめりこんでいたかったのですが、取りに行かないと次に回って又今度は何時?になりますから。それにこの作家に前の作品で興味を持ったのも確かです。この作家は犯罪被害者の立場に立った作品を連続で世に送り出してきたようです。ある意味ジャストタイムで現在を切り取っていることは確かですし、戦後犯罪被害者になる確率が上がる一方で抑止力は全く働いていないというのが一般認識ですから。
この作品も実に興味深く読みました。
彼は犯罪被害者に非常に面白いと言うのは語弊がありますが独自の立場から目を注いでいます。
アメリカのドラマなどを見ていると「性犯罪者は矯正できない。」が常識のようです。性癖嗜好は矯めるのが本当に難しいことは想像できます。そういえば先日映画館で「リトル・チルドレン」という映画の予告を見たけれど、それも性犯罪者を扱っているようだったな。
アメリカでは今生犯罪者は居所を公表されて、住民たちも知っているといいますね。日本もこのまま子供たち(子供に限らないけれど)の被害が続くようなら考えてもいいシステムだと思って・・・現在の日本の恐ろしさに突き当たりました。
この作品で「子供に対する性犯罪殺人の抑止力をウタウ」殺人者は愛しい娘を持ってしまった性犯罪者で・・・彼の犯罪の動機を描くことでこの種の犯罪者たちの哀れさも恐ろしさも描いていますが、それ以上に結局彼らは矯正されないということを声高に言い募っているようでもあります。実際そうなのだろうか?家族にそういう犯罪者を持ったら、絶対そうは思いたくないだろう・・・祈る気持ちで矯正を願っているだろう。罪をあがなって再犯しないで・・・と。
統計だけでは決められないと一筋の光にもすがるだろう・・・とも思うと、この作家の描く世界の容赦の無さが胸に痛い。
だがやはりもっと痛いのは乱暴され殺されていった被害者とその家族で被害を阻止できるのだったらどんなに踏み込んでも許せると思う憤りもしっかり胸に生きています。
警官という道を選び又さらに選択を迫られた主人公の極限状態を考え出した?描ききった作家の現代社会の認識の確かさを痛々しく読みました。しかし、やっぱり表現の未熟さを思わないではいられないです。横山さんになれとは思いませんけれど、骨太な内容に緻密で微細な叙述が伴えばもっとこの作品は訴えただろうという気がして惜しいようです。言いたいことがいっぱいいっぱいで余裕が無いような?
それにしても現代の復讐譚は「モンテ・クリスト伯」の世界のように、カタルシスをもたらさないようですね?黒岩涙香さんの翻訳の「岩窟王」で始めてモンテ・クリスト伯を知った子供の頃は復讐は甘美に思えたのに。心って昔より複雑になったのでしょうか?それとも・・・?
Read the rest of this entry »

「天切り松闇がたり」 

題名INDEX : タ行 71 Comments »

浅田次郎著

1巻「闇の花道」
2巻「残侠」

先日から泥棒と刑事と言う組み合わせほど面白いものは無いなぁ・・・なんて思いながら本を読んでいたせいか、ふぃっと頭に浮かんだのがこの本です。
「泥棒と言えば天切り松がいたじゃないの!」です。まだ読んでいませんよ。そうよ!小耳に挟んだ情報からも面白そうですよ・・・!
でもね、まだそんなに沢山読んでいるわけではないのに「又、浅田サンの本を読むのか?」って一寸思っちゃうのはなんででしょう?余りに上手すぎてツボを心得すぎた彼のワールドに思うようにはめられちゃう気がして一寸抵抗感があるのですよ。溺れさせられちゃいそうな危うさ・・・その手に乗るか?って無駄な抵抗!同じ溺れるのでも藤沢さんの世界だと抵抗を感じたことが無いのはなぜかなぁ?ここは一寸思案の要あり?でも、まぁちょっとそれは置いておいて、泥棒さん読んじゃいましょう、絶対面白いに決まっているもの!
で、読み始めて1巻第1夜目で、「こりゃ音読向きだわ!」
2巻、声を出して読みきりました。めちゃめちゃ面白かった!どうにもこうにも面白かった!
図書館ではそろそろ3巻目が私を待っているはずです。え~まだ届かないのか?
友人からのメールに思わず「かっちけねぇ!」と題して、「何のことよ?」と返されて・・・現代に立ち戻る“やばさ”です。
またしてもやられちゃっている私ですが、この作品に関しては構いません。むしろ「もっともっとドツボにハマってみたい!」感じです。
この松の世界。私の記憶の底にある世界。震災前の大戦前の見たことも無い町だけど聞き知り実際私の歩いていた道筋に蠢く過去の人々の様はもうそれだけで私の心の琴線にジャーン!町内の頭とか鳶の兄さんたちの佇まいを思い出しましたね。今でも祭の時に見かけるようですが、姿は同じでも果たして中身は?
私の認識では山形有朋なんて化け物の悪人、怪物です。でも第2夜で踏鞴を踏んじゃいました。山田風太郎さんの明治物でもあいつは褒められたモンじゃないですものね。彼は維新の悪印象を全部背負って立ってる感じでしょ?それが・・・ねぇ・・・この男を描く章で「にいさん方もたかだか銭金のためにヤマを踏むてえ根性なら、これを限りにきっぱりと足をお洗いなせえよ。曲げちゃならねえてめえの道てえのは、盗ッ人にせえ大臣にせえ、たとえ千金積まれたって売り買いのできるものじゃあねえ。もっともこれが悔いのねえてめえの道だなんて言い切れるやつァ・・・盗ッ人千人、大臣千人並べたって、そうそういるもんじゃあござんせんがねー」って〆に持っていくんですよ。
そしてこの安吉親分の一家のそんな道を行った兄さん姉さんの物語ですから・・・「侠」の字が生きて立ってきます。「小政」さんの章なんてどうです?声を出して読んでいる私は涙も笑いも声に乗せてです。
山田風太郎さんの明治物にも確か小政の話が・・・彼はやっぱり長生きしたんですねぇ?
天切り松の生い立ち、これに負けない情なんてありゃあしません。
「カチューシャ」唄えるのですもの・・・べそかきカチューシャになるじゃありませんか。参ったなぁ・・・と、思いながら急いでこれを書いて3巻取りに行きたい行きたい、というところなんですが。
3巻では彼の泥棒修行が読めるのかな?楽しみ楽しみ!!!
Read the rest of this entry »

ひとり日和

題名INDEX : ハ行 76 Comments »

青山七恵著

初めてじゃないでしょうか。私が芥川賞とか何とか賞とかをとった作品をこんな早く読むのは。(図書館待ちの時間分遅くなっただけです)おまけに近年争うように若年化している受賞者のニュースを聞けばなお更読むには抵抗があります。
これらの賞は青田買い、これから長く稼げる(はず?)作家を売り出すためのものだったのかしら?熟成する前に?時間や資本をかけないでとりあえず稼ぐぞ?って出版社乃至何かの方針?だからそれらを、読みもしないで眉唾眉唾と思っていましたから。はなっから熟成させるつもりも無い?作家の、使い捨ての作品読んでどうするの?みたいな。
とか何とか・・・って、つまりはそんなにも若くなってしまった、いやこんなにも若い人の作品の感性なるものについていける気もしないし、迎合するのもくたびれそう・・・ってだけなんですけど。題にも食指が動く物は無かったし・・・。
ところがこの作品は、この題に惹かれました。
言ってみれば私は生きてきたこの何十年余り、殆どひとりで一人の日和を謳歌(これって見栄?)してきたようなものです。
子育ても、あっ結婚もしましたし、勿論ご近所付き合いも、友達付き合いもそこそこあったことはありましたけれど、ぼちぼちにそれらと付き合った後の一人はなんと心地よいことかと思い暮してきましたからね(シラノの心の羽飾り!)。
私と同じような引っ込み思案?のひとり日和はどんなもんかなぁ、ちょっと覗くのもいいかな?なんて乗りでした。
この題若さを感じないんですよ。普遍的でしょ?だから妙に青臭く生臭く押し付けられないで済むんじゃないかな、若さを!って感触ありましたしね。で、結果、見事に、見事すぎるくらい若さを押し付けられないで済みました。
いえ、文章自体、使われている言葉、そんなところにはちゃんと作家の年齢が臭っていることは臭っているし、その年代の気負いが気取りがちゃんとある文章でもあったのですけれど、切り取って描いている日常が余りに淡々としている様に装っているので、うっかり若さを見落としそうになるのです。ふうーん、お気に入りの切り口と投げ出し方を見つけられたのねと、ちょっとこの繰り広げた日常に被せた薄い明度の高いグレーにうらやましさを感じてしまいました。
私の20歳の頃の世界・・・ったって、それは私だけのものですから比べようもありませんが、ここにこういう風に投げ出されたこの娘智寿さんの年頃の世界は私には理解できないだけに、今この世代の普遍的ワールドのような錯覚をもたらしました。
直裁に行ってしまうと「カワイそうに!」です。何が?余計なお世話ですよね、実際のところ。
それでも、その気持ちの中にはこんな風な「あなた、ずいぶんと生き難そうね。傷もあるかもね?あったとしても傷から流れている血がとても薄そうで、それって楽なのかしら?楽だとしても価値があるかどうかは別の問題ね。でも私の若かった時よりキレイに人付き合いも、社会との兼ね合いも何気にさらさら上手にやっているじゃん、あの頃の私なんかよりもズーット・・・」です。
そんな風に思えました。でもあの頃の私や友人よりも?すさんでいるようにも思えましたけど。
だから、むしろ私にとっては吟子さんの方が主人公でした。
シチュエーションは吟子さんのものですよ。彼女こそがあの線路と駅と家との主ですよ当然?智寿さんは通り過ぎて行く人ですよ。
この娘から見ている吟子さんに肉付けをしていけば・・・私のいい?先達になるかもしれませんね。
もっともこの若い作家がこの年の人を理解できるとは思えないのですけれど、その上で彼女たちから見える大人のさらさら感のある、したたかな生き方ってどんなものなんだろうねっていう興味ですか。
流れる事を意識しないで流れて行く、年をやり過ごしていくっていう感じって、こうむった痛手は既にそんなことの形跡はまるで無かったように消えている、そういう風に見えるって、はて、それじゃ生きてなんになるんでしょ?この明度の生活感の中に浮かび上がる母も藤田君も陽平も智寿さん本人も皆凄い感度のセンサーを持っていて昨日と違う何かを感知するとさっと方向転換をしてしまう生きもののように見えるって・・・これ何ですか?吟子さんだけはその中ではまだ生きていそう、むしろしぶとく?
この作品の中の大多数の人物は作品から出てきて歩き出す足持っているのですかねぇ?足も影もなさそうな人たちの、体臭の薄そうな人たちの、悲しみは悲しみで、喜こびは喜こびで、結局どうでもいいんでしょう?と言いたくなって、私はあなたたちとはお付き合い出来ませんし、して貰えそうもありませんしねと、横をすり抜けさせてもらいました。

深追い

題名INDEX : ハ行 113 Comments »

横山秀夫著

この本は再読です。なぜかというと先日「影踏み」を読んだのですが、それで思い出したのです。確かこの短編集にも「泥棒さんの話があったぞ」というわけです。三ツ鐘市という架空の市の市役所斜め向かいにある三ツ鐘警察署の刑事たちの物語が表題の「深追い」を含めて7編収められています。
横山さんの作品の中でも私の好きな警察官ものの一つですが・・・この中に「引き継ぎ」という作品があるのです。
言ってみれば、この作品は丁度「影踏み」のポジ?「裏返し」みたいだと思い出したのです。
あの作品では泥棒になった主人公が「盗犯」係りの警察官と渡り合うという部分がありましたが、この作品ではその「盗犯係り」のいわば泥棒刑事の側からの物語なのです。
丁度この「影踏み」と「引き継ぎ」を続けて読むと警察と泥棒のなんともいえない間柄・・・って言っちゃいけないかな?が見事に立体的にちゃんと三次元で立ち上がってくるようで面白いです。
刑事といっても、泥棒といっても、つまりは人間なんだなぁ・・・という当たり前のことが腑に落ちるといってはつまらないですが・・・いや実に面白い「ワールド」が厳然とあるようですよ。
そういえば我が家に、一度だけ私が小学校1年ぐらいの時(昭和29年頃?)に泥棒さんに入られたことがあります。侵入口はお便所の上の小さな窓でした。鍵をかけ忘れたのですが、小さな窓ですよ。やってきたおまわりさんが侵入口はここだと断定して、私はその小さな窓に向かって「嘘だぁ!」と思ったのを覚えています。大人が潜り抜けられるとは思えませんでしたもの。
母が箪笥を開けるまで全く気が付かなかったほど痕跡は無く部屋はきれいだったのですが、警察で盗まれた物を書き出した母が後で仰天していました。盗まれた物はあらかた父と母の着物でしたが、あの量をふろしき包みにしては絶対便所の窓からは出せないし、一人でいっぺんには持てないくらいの分量でしたから。いったいどうやったのでしょう、謎です。私が忘れられないのは買ってもらったばかりの舶来の真っ赤な私のレインコートも盗まれていたからです。父が「きっと泥棒さんにも可愛い女の子がいるのかもなぁ・・・その子が喜ぶかもなぁ・・・お前はまたいつか買ってもらえるのだから・・・」なんて慰めてくれたっけ。後日質屋で足がついて警察に出向いた母は書き忘れた着物が何点か出てきておまわりさんに叱り飛ばされたらしいです。
あの泥棒さんの手口も「泥棒刑事」さんだったら直ぐ当りがついたのかもしれませんね?・・・と、横山さんを読んだ後の私は思いました。
浅草のロックで年末(林家正蔵の会の帰り?)に父が掏りにあったこともあります。オーバーの下の背広の内ポケットの下(裏地)を鋭利な刃物できれいに真一文字に裂かれて財布だけすっぽりやられたのです。警察のおまわりさんがその切られたところを見て「あー、何とかだ!」と名前を言ったと父が言っていました。今なら?これもよくわかりますね?ひょっとしたらその「誰とかさんという掏り」はその刑事さんの、その盗犯係りの「手持ち」だったのかも?なんて。
そんな事を思い出しながら興味深く再読したわけです。
ちなみにこの短編集では「訳あり」と「仕返し」と「人ごと」が好きでした。そして「影踏み」を読んだ後では「引き継ぎ」も「好き」なうちに入れようかな。
Read the rest of this entry »

Design by j david macor.com.Original WP Theme & Icons by N.Design Studio
Entries RSS Comments RSS ログイン