横山秀夫著

最初の2編を読んだところで「ああそうか!こういうお話なんだな。」と、構成が飲み込めましたが、途端に私が思い出したのはモーリス・ルブランの「バーネット探偵社」と「八点鐘」です。ルパンには悪戯な皮肉な探偵心があります。ロマンチックな気分もね。彼の場合は勿論!自分の利益のために探偵さんをするのですからこの作品とは味が全く違います。
でもまぁ、泥棒さんが一つ、二つと自分の前にはだかってくる問題に立ち向かって、何らかの解決を見るという形態には似通うところがあるでしょう?でも、云ってみればルパンのは「哄笑」ですが、この作品の主人公真壁さんにはそれははるか対極のものです。云ってみれば、彼の場合はせいぜいが苦笑、むしろ悲しみと苦痛を一枚二枚と心から殺ぐ止むに止まれぬ行為です。最後の最後まで全ての逸話が痛みを伴います。日本的だなぁ・・・と、思います。
過去を振り返り振り返り・・・いやむしろ過去が彼を手放してくれないという異常な状況を抱えて彼は進みます。
彼と彼の内なる弟との会話で彼の全てが明きらかになっているのですが、彼が一つ一つと事件の中を進むうちに彼が抱えている彼自身の問題もよろめきながらも変化を見せていきます。
彼のうちにある葛藤と彼の周りの世界で起きる葛藤とが同時進行で綯われていきますが、最後まで彼の世界は日本的で最後まで「哄笑」にはなり得ません。だから作品としては毛色の変わった警察もの、事件解決探偵ものとして娯楽作品であるにも関わらず、そして読むうちになるほどと事件の全容に唸らせられるにも関わらず、読む私にも痛みが残ってしまいます。小説の世界には色々な状況を背負った探偵さんが居ますが、真壁さんの状況はその中でも特異で、すっきり解決した満足感は薄いです。彼自身解決はないのでしょう?でも、弟が消えた時点でもう事件に巻き込まれる必然は生み出せなくなったぞ!と、一寸がっかりもしています。
でもねぇ、30半ばで、これだけ警察にも業界?にも顔が売れてしまっていて・・・立ち直るって?一体どうやって?・・・真壁さん頭がいいからなぁ・・・度胸もあるし・・・と、私が一生懸命考え込んでいる時点で、「しかし横山さんは読ませてしまうなぁ。」です。
双子という設定が生きて、オカルトに陥る前にしっかり食い止めて、微妙に却ってリアルになるのが妙です。そして又雁谷市の規模の設定が又妙です。生活感のある町・・・刈谷市って愛知県にありますが・・・そこよりは規模が大きそう?自転車活用小回り平地感・・・静岡市?・・・いや寒さから北関東?なんて。
しかし警察って・・・横山さんの本を読むたびに何かあったら「警察に駆け込むか止めるか?」判断が難しくなるような気がするのですけれど?
ルパンは大好きですが・・・真壁さんも・・・悪くないです。