片眼の猿

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片眼の猿 One‐eyed monkeys 片眼の猿 One‐eyed monkeys
道尾 秀介

新潮社 2007-02-24
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道尾秀介著

「シャドウ」でピンと来て?返却と同時に申し込んでおいたこの本が到着しました。他にもこの作家の作品はあったのですが、待ち人があるほど人気?だったのはこの作品だけだったのです。他の作品はいつでも待たずに読めるので~って思うとこれが読まないんだなぁ・・・何時でもって言うのはやっぱりいけない。
「シャドウ」で今を感じながら「なんかいい感じだぞ!」と感じた「なんか」の部分にジャストフィット?「いい感じ!」はありました。只、ほんの少し文章が単純で読みやすくって味わいが薄いって部分の評価が私流の「なんか」に填まっているのじゃないかなぁ・・・って言う危惧はあるのですが。
「シャドウ」の方が作品としてはずっと読み応えがありました、が、この作品は読みやすく楽しめました。それって暇だけを持っている私にはとても大事なことです。まぁまずテクニシャン!ですよ。
でも果たしてそれは謎解きものとして公平かどうかと考えるとどうかなぁ。私が特に単純だってだけの事かも知れず・・・?
エラリー・クイーンは認めないだろうな。だけどアクロイド殺しのアガサは黙殺するかななんてところでしょうか。
先ず、私はエスパーを想像しました!「超能力ものかぁ・・・」当然のように宮部さんの一連の小説を頭に浮かべて・・・ふむふむそういった方向ですかなんてね。
次いで秋絵さん、当然のように勿論女性ですよね?
何でこの事件をこの時点でこの探偵は追及しなかったかが今一分からないぞなんて思っていたのですよ。
ってわけで、終末になだれ込む直前で笑っちゃいました。
それと「片眼の猿」の意味が判らなくて・・・
で、結局私はこの寓話?知らなかったのですが、有名な話なんですか?終盤近くになってそれがヨーロッパの民話でと、出てきて「ああそうなのか!」と分かったわけなのですが。これってこの本の主要な柱になりうるお話なんでしょうか?この話が無くても秋絵さんは描けると思っちゃったのですが。秋絵さんに関してはむしろ鳩の見分け方の方が心に残りましたね。
このローズ・フラットのお歴々のことも視野に入れるならば、この「鳩の雌雄・・・誰も見分けようなんて思わないの」の方がインパクトがありそうだけどなぁ。
妙に修羅場も淡々として実際起きている以上にさらさらした感じでおぞましくなく、登場人物の多様さ(反面印象が定まらず薄い感じは否めないのですけれど)にちょっと楽しませていただいた感じかな。
この探偵さんも・・・マァ・・・確かに特殊分野で需要はそこそこ有りそうだし?ま、いっかぁ、楽しめた!
そんなわけで、一寸どうかな?とも思いながら「向日葵の咲かない夏」が今図書館も順番待ちになっています。
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天平冥所図会

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天平冥所図会 天平冥所図会
山之口 洋

文芸春秋 2007-07
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山之口洋著

まほろ駅前を読んで大和は・・・なんて書いたせいか、続いて図書館から到着したのがこの本。まさにまほろば「奈良」の物語でした。
吉備真備、聖武天皇・光明子・その娘孝謙天皇、道鏡の時代を舞台にお役人さんと皇后に使える女儒を主人公にしたとてもおおらかな?味わいの小説でした。
神も怨霊も人も混在して住んでいた!この時代は!って感じ?
史実の中の実在の人物を想像の空間で自由自在に操った?物語。
主人公も一応知っている名前です。ほんのお役人の葛城の連さんも和気の広虫さんも、当然和気清麻呂さんも。
あの道鏡事件で宇佐に出向き、平安京造営で活躍し・・・と私が知っている清麻呂さんは強くごついイメージで(そうそう京都の蛤御門近くに住んでいた時は彼を祭ったお向かいの護王神社で年越しの甘酒を頂きましたっけ)したが、ここではおねえちゃんにこき使われる可愛い弟で・・・なんか楽しくなるような読み物でした。
山田風太郎さんの明治物で一葉さんら明治の文豪とニアミスするような楽しさに通じる感じですか。
歴史上の人物が妙に身近にリアリティさえも感じさせて、吉備真備さんが孝謙女帝を「あの娘」なんて言って案じるところなどなんとも・・・アットホーム?でいいなぁ。
神も神だから怨霊も怨霊で紙一重、死者も生者も紙一重。だから日本は和の国だったんだなんて妙にナットクしたりして。
上の方でどんなに権力争いをしていても、下で実地に事務を進める人たちがしっかり自分の分と倫理を踏みしめて仕事をきっちりしていれば世の中はちゃんと回っていくのに・・・と、今の社会保険庁ならびに政治家の皆さんの醜態を聞くに付けこの本の世界を思い出しそうです。
一体日本は何時からこんなに有能なはずのお役人が堕落したんだ?
「世界一有能な官僚社会だ。」って学校の先生は言っていたじゃないか!ホント「国は政治家が方針を決めるが居なくっても優秀な官僚が居るから大丈夫!」っておっしゃった社会の先生が居ましたっけ。
と、憤慨しておりますが。
きっとこの時代が終り、祭られることの無い怨霊が畏れられなくなった頃から官僚・役人はきっと堕落するだけだったのかもねぇ・・・?つまり葛城連戸主さんみたいなプロのお役人が居なくなって身過ぎ世過ぎだけのお役人さんになったってだけのことさ。その点今の学校の先生も聖職者なんて自負の無い只の三文役人になっただけのことさ!と、物語のおおらかさと反比例するように私の怒りのボルテージは上がったままなのでございます。
死んでも仕事の進捗が心配で幽霊になってでてきて手伝うこの坊やを煎んじて飲ます方法は無いもんでしょうか?
天神様!どうぞ天満宮になぞ納まりかえっていないで今の政治家にもバチを与えてくださりませ!
子供たちよ!お父様・お母様をちゃんと祭らないと怨霊になって祟るよ!
?紙一重で私神様の方に転げたりして?そんな可能性も万に一つ?
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居眠り磐音江戸双紙 陽炎ノ辻

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陽炎ノ辻―居眠り磐音 江戸双紙 (双葉文庫) 陽炎ノ辻―居眠り磐音 江戸双紙 (双葉文庫)
佐伯 泰英

双葉社 2002-04
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佐伯泰英著

先日薦められて山本一力さんに手を出した。最近知らなかった作者の作品に手を染め出して収拾が付かなくなっている観がある。昔のように本が早く読めない、しかも読む時間も減っているのに、読みたい本は山積していくばかり。「あの作家の本をもっと続けて読みたい」と思っているのに又新しい作家に手を出して・・・一体どうするの?
佐伯さんの磐音シリーズは何冊もあるのに気が付いていたから、手を出すには覚悟がいるぞって思って遠巻きにしていた・・・のに、山本君の磐音さんが余りに素敵なので・・・っていう本の入り方ってどうなんだろう?一力さんを続けて読む時間をひねり出すくらいなら、どうせなら磐音さんに填まってみるかという変な覚悟。五人待ちで届いたこの本は図書館員さんが苦笑して渡してくれたくらいひどい有様だった。ぼろぼろ!図書館で借りた本で今までこんなひどい本は見た事が無い。「全体に汚れあり」の図書館の付箋付きでした。それだけ読まれてきたってことでしょうね。それにしてもこのシリーズ、ざっと15冊はありましたね?
平岩さんの「御宿かわせみ」風永遠の泥沼状態でしょうか?鬼平風一気読み型でしょうか?
読み出した最初から登場人物の顔はTVドラマの配役どおりに出来上がっているというおまけ付き。
うーん、ちょっと違うぞ!と、本の最初の頃思った老分の由蔵さんもこの1冊目を読了する頃にはすっかり近藤さんの顔になってしまっておりました。一昔前だったら近藤さんが磐音役だったでしょうに・・・なんて変な郷愁?ま、でもそれは何の問題もありません!
昔の映画「血闘!高田馬場」を見て手を叩いていたおじいちゃんたちみたいに時代物の映画を見ているような気分で楽しく読ませてもらえそうです。
気分が盛り上がらないときの取って置きの一っ手にして時々様々な読書の間に挟みこむおやつみたいに楽しみましょう。
TVで見ている今津屋サンの方が太っ腹みたいだけど・・・磐音さんの剣の腕もTVの方が上手な感じだけど(1冊目では傷を負うことが多い?)、磐音さんは腕も良ければ経理も明るいと、現代に繋がるセンスも十分持ち合わせている以上何の心配もなさそうじゃないですか?うふふですね、このシリーズは。
とりあえず、これが第二巻になるのかな?と、「寒雷の坂」を予約しといたところです。
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名もなき毒

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名もなき毒 名もなき毒
宮部 みゆき

幻冬舎 2006-08
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宮部みゆき著

予約したことも忘れた頃に、「宮部さん?楽園がもう?」と思ったらこの本でした。そうそう、まだ読んでいなかったんだ。ちなみに今日の時点で「楽園」まだ270人待ちです。
私にとっては「ブレイブ・ストーリー」から約1年振りの現代ものです。結局時代物の方が好きなのかな?
一寸「ブレイブ」を思い出したのは、この作品もテーマの芯にスパイラル状に物語が蒔きついているという構造を感じたからでしょうか。
人の持つ毒、人が人に投げつける毒が文字通り毒殺事件の周りで回転しながら、人の持つ毒にスポットライトが当たっていく・・・人間が根源に持っている闇を順繰りに抉り出して行く・・・という風に読めたのですが。
丁度先週読み終わった「まほろ駅前・・・」とある意味正反対じゃないかとふっと思ってしまいました。
まほろ駅前ではどんなに毒され孤独になった魂にも触れ合う温みが何かの変化をもたらす・・・という善なる気分が感じられて嬉しかったのですが、今週は逆転しました。まっさかさまに転落!
だって主人公が繰り返しいわれることは「人がいい!」です。
彼の特性はそれに尽きます。彼なりの困難はあっても人目には幸せを具現している、他人に悪意のない、心栄えも心配りも‘いい’人。誰からも好意をもたれる人で、その人の周りにさえいわれも無い毒が忍び寄ってくる。本来来るはずの無いものが降ってくる。
これは何だ?です。
最初の毒殺犯の毒は想像力の欠落、他人を思いやれない心が振りまく毒。次の犯人は人間の欲が招く毒。そしてまるでその気は無かったはずの内気な青年が落ちてしまった世の中への恨みが招いた毒。黒井次長のいじめに会った娘が受けた毒。シックハウスとか土壌汚染とか社会が招く毒。人が生きていく中で否応無くぶつかる可能性のある毒が網羅されてねじ合わされて、その中心にどうにも説明の付かない「原田いずみ」という毒が大黒柱のように突っ立っている。
性悪説の具現化した魔物みたいに!
しかも読んでいるうちに心の隅に「あるある!いるいる!」に限りなく近い同意みたいなものが生まれ来てやりきれなくなる。イヤ!認めたくない・・・だけど底に忍び込んでくる肯い。
「いい人」「恵まれている人」「羨ましい人」「自分より何かで勝っている人」そのものが回りに全く責任も無く振りまく「毒」!果たしてそれを毒といっていいものか?ノン、絶対にそう呼んではならない。だが格差が広がっていくばかりのこの社会で、人は果たして憎悪を生み出さずに生きていけるのだろうか。
嫉妬や羨望や焦燥から毒を自分の中で醸してはならない。それは十分分かっている。
しかし「原田いずみ」毒は完全否定できずに社会に確かに存在すると肯って、これは人類発祥時から人類に課せられた業なのだろうか?なんて考えてしまったりしている。昔理科の遺伝の法則を習ったとき教えられた「劣性遺伝子」ばかり生み出す家系の事を不意に思い出した。ま、それは別問題か。
人間の遺伝子の中に時限爆弾のように組み込まれている悪意がどんなに愛情深い親の組み合わせの下でも無作為にポコッと産み落とされる。それこそが普通の人間には思いもよらぬ「原田毒」?それはもう神の悪意かも。
さて、最後のページです。救いと見えますか?毒消し役を志すということは・・・ねぇ、神にたてつく永遠の人間の無駄な抗いにも見えるのですが・・・北見氏も杉村氏も・・・一人ではねぇ・・・読んだ人皆が解毒剤に成るという道がある?・・・う~ん・・・
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まほろ駅前多田便利軒

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まほろ駅前多田便利軒 まほろ駅前多田便利軒
三浦 しをん

文藝春秋 2006-03
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三浦しをん著

「風が強く吹いている」に続く三浦さんです。
この本の方が大分長く待ちました。
まほろ市まほろ駅前、名前がいいですものね。題名で惹かれちゃいました。大和は国のまほろば・・・でも東京近郊なんですね?そして畳み込まれる挿話の一つ一つ、その展開はうるわし!では無いのですけれど、一つ一つの挿話の読み終えての情感がうるわし!でした。
不思議な関係の男性二人の1年間の生活の中でかもし出される1種の交情がえもいわれぬ絶妙のコンビネーションで気持ちの良い読後感が1話ずつ重みを増して、引っぱられるようにのめり込んでしまいました。
どちらも人と交わるのが下手、と言うより怖くてできなかったのに、それが事件を重ね人と介入するうちに変化していく。その過程がありえないような事件の積み重ねなのにそこに混じりこんでくる人々の孤独を癒してくれる。いや癒さないまでも他人と関係が生じてしまう。それが暖かい関係にしろ凍るような関係にしろ。便利屋に依頼する人も、依頼された便利屋も、その仕事に関連した人も。
他人といい関係を作って頼ったり頼られたりする手間をかけるには人生忙しすぎたり?いやそれよりいい関係を作るノウハウが伝わらない社会になっている?いや単にシャイで頼めない?ただ単に感情が介在するのがウザッタイ?お料金が介在して乾いた関係なら頼める!
「お願いできる?」って言うより「依頼します」の方が楽ってだけ?
ま、なんでもいいけど、言葉を交わせばそれだけで何か細いつながりは出来てしまうけれど・・・それも厭な時はどうするかなぁ・・・人はそこまで行くと生きていけないのかもなぁ・・・
だから、彼らはその手前でか細い人間味を漂わせているんだろうな。
その頼りない人間味でもかすかなぬくもりを発しているんだろうな。
そのかすかな温度に私もひきつけられたんだろうな。二人になって増幅していく分暖かくなって。
人と交わるのがイヤで?高校時代一言も口を聞かなくても、誰をも傷つけなくとも、他人から悪意を引き出してしまうこともあるとすれば、傷つかないで人は生きる術は無いのだろうなぁ・・・なんて考えてしまいました。
人と係わって生きるということは傷つけることも傷つけられることも許容すると言うことでしょうか。それならそのキズを嘗めあう人がいれば少しは生き易い?
多田さんと行天さんの関係にほのぼの感を持ってしまった私って、思いの他?人間関係に行き詰っているのかも。
まほろ駅前で、この修復された二人が便利屋家業を続けていって欲しいな・・・と思っています。悲しいかな、ご近所付き合いが希薄になったとか、親戚が遠くなったとかいわれても、こんなマンション暮らしをしているのですから、私も一つ依頼したいことがあるのです・・・。
まほろ駅前よりきっと都心のマンション街の方が依頼は山ほどあるのでしょうが、この読後感はやはりまほろ駅前でなければ出来ないんだろうなぁ・・・
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はぐれ牡丹

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はぐれ牡丹 (時代小説文庫) はぐれ牡丹 (時代小説文庫)
山本 一力

角川春樹事務所 2005-06
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山本一力著

しかし図書館でも本屋でも読んだことの無い作家って何でこんなに沢山いるんだ?って思います。
「時代小説ファンなのに一力さん読んだこと無いの?」
「時代小説書く人で読んでいないのは一力さんだけっじゃありませんよー他にもいっぱい居ますよ。」
大体あんなに作品の並んでいる佐伯泰英さんさえ、NHKでしていて山本君ファンの私なのに読んだことないんです。
「えー、結構面白いわよ、一力さん、読んでごらん。」
というわけで来たのがこの作品でした。が、「あかね空」って言うのを最初に読むべきだったのかもなぁ・・・と思っています。
藤沢周平さんでさえ何回目かの候補の後の受賞ですのに「あかね空」で一発受賞と解説に書いてありましたもの。お薦めされる?ならそっちでしょ?
この作品は妙に饒舌で忙しくって雑に慌しい印象を受けました。江戸の庶民の長屋生活ですよ、当然でしょ?のはずですがそれ以上必要以上に忙しい感じを受けたのは何故でしょうね・・・と考えていたのですが、多分主人公の一乃さんの直感の走り方、他の会話を割って入るあの直感に寄る結論の無茶さによるのかなぁ・・・?と思えます。
冷静沈着鉄幹さんとおしゃま息子とのアンサンブル構成のために必要以上に一乃さんを走らせた?
だけど一乃サンの人を巻き込み引き寄せるカリスマ性がもっと際立ってこないと煩く感じるのではないかなぁ・・・?
いやぁ、結構彼女の性格はしっかり書き込まれているでしょ?父娘の交情といい?
そうだけどあの性格じゃ元気猪突猛進が取り得の魅力で今一?
だからアンサンブル+人情なんじゃないの!松次郎さんとお加寿さんの話なんかいいじゃないの。
だけどそれでも今一ナットクできない、寅吉と一乃のやりとりがうまくいきすぎだーな。
同じ長屋でも平四郎サンの居た長屋は夫婦喧嘩頻発してたけどこんなに騒がしくなかった。
そこが作家の個性の違いだぁ・・・それにしても周平さんは上手かったなぁ・・・と、そこにたどり着くようで。
だけど、一力さんの他の本持っていたら貸してね?
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母の愛(与謝野晶子の童話)

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与謝野晶子著

与謝野晶子さんに童話があることを今まで知りませんでした。
でも図書館でこの本を見つけたとき意外ではありませんでした。
だって11人もの子供を育てた偉大なる母としての彼女のイメージはしっかり頭にありましたもの。そして彼女は情の人と言う印象も。
夫への子供への愛情の濃さではどんな女性にも退けを取らないと言うか全ての女性を凌ぐと言う感じもしています。
だから母としての彼女は子供にお話をいっぱいしただろうと言うことは想像に難くありません・・・と言うわけで読み始めました。
編集の松平盟子さんの所々に入る解説によれば、まさにそのとおりで最初の童話は子供たちへのものだったようです。
収録されていたのは短いお伽噺が6篇、自伝的エッセー「私の生い立ち」童話「環の1年間」「八つの夜」「うねうね川」「行って参ります」ですが童話は全編を収録していないのです。中の何篇かずつの収録です。ですから少し喰い足りない思いなのですが編者の解説の通り確かに?余り面白くないお話も、纏まらないお話もあるのです。
でも私が一番心を引かれたのは全編を通じて感じられる言葉の美しさでした。全ての文章が子供に聞かせるために磨きぬかれ、選び抜かれたように品がよく丁寧で美しいのです。
それが特に生きていたのはお伽噺のうちの「紅葉の子供」と「私の生い立ち」の中の「西瓜燈籠」でしょうか。この二編は声に出して静かに読み心が洗われるような気分を味わいました。
なんと言う節度の感じられる文章なんでしょう!と私は感じ入ってしまいました。先日一寸必要があって本当に45年ぶりくらいに森鴎外の「高瀬舟」を読んだのですが、あの作品もそうでしたが文章の薫り高さがもう抜群に見事なのです。勿論与謝野さんの子供向けの文章と鴎外の磨き抜かれた文とでは重みに違いはありますが。
どちらも声を出して読むと私の言う意味が判ってもらえるかもしれません。与謝野さんの童話は心から優しくなれますし、「高瀬舟」では心が高揚してしかも深沈ともしてもいくようです。そしてその底に美しさが感じられると言う点で通じるところがあるようです。
時代でしょうか?
童話では「八つの夜」が今の子供たちにも十分楽しく読めるのではないでしょうか。「変身ものですよ!」と言えば読んでくれる子がいるかもしれませんね。小学校で朝の時間に1話ずつ読んであげたいような気がしています。
そういえば「行って参ります」の中に「山椒大夫」が「三舛太夫」ともじって出て来ましたよ。お二人は親交があったのですから鴎外さんは笑ったことでしょうね。
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容疑者Xの献身

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東野圭吾著

この方の本も読んだことはありませんでしたが、図書館でも本屋でもよくお名前と作品はお見かけしていましたから知ってはいました。
ただ、ぱっと見て読みたいと思わせる題が無かったということでしょう。ところが少し前になりますが行きつけの美容院で担当のお兄さんが臨時休暇で、違うアーティスト(というらしいです)のお兄さんが私の頭をしてくれたのですが、その会話がこんなでした。
「いつも何をしているんですか?」
「仕事を聞いているの?それとも時間つぶしの趣味のこと?」(この時間に来るおばさんは暇にきまってるでしょ)
「暇な時何してるんですか。」
「そうね、まぁ読書かしら。」(なんでもいいんだけどね)
「えーボクも読書なんです。」(えー!ってほどのものでもないでしょ)
「あら、あなたみたいな若い人には珍しいんじゃない?」
「いやー僕よく読んでますよ。」
「どんな本が好きなの?」で、彼の名前が出たのです。
「その作家私が読んでも面白いかなぁ・・・」
「あ、面白いと思いますよ。絶対お薦めですよ。反対にボクにお薦めの本てあります?最近読んで面白かったの?」
「そうね、三崎亜紀さんの・・・『となり街戦争』と『失われた町』なんか良かったわね。」
「へぇボクその人知りませんねぇ。どんなカンジですか?」
「どんな感じって難しいわねぇ・・・不思議な魅力?」
とまぁ、そこそこ話ははずんだんですが・・・(ちなみにこのお兄さん、二度はゴメンなさい、私の髪が・・・ァ・・・ぁ)・・・でした。
で、東野さん検索。その結果他の本は直ぐ借りられたのですが、この本だけ数十人待ちという状況だったのです。だから来たらその時が運命?ということにして予約しておいたので、今週東野さん初体験となったわけです。
それで?うーん、そうですねぇ~、悪くないですっていうか、「献身」部分というか、情部分が変わっています。
ある意味感動的でちょっとウルウルさせられたというか、今時考えうる最高の献身を考え出したなぁと思えました。が、実際こんな恋情ありえるのでしょうか?ストーカー的執着性愛着思い込み恋?淋しかった潤いの無かった石神さんの選択した生き方は確かに見ようによっては壮絶なのに、何気なく理知的になされた選択と行動力にやっぱり?泣けないはずはありません。
それに最後のがっしりした駄目押し!
究極無償の愛と真の友情(3人の大学同窓生による攻防読み応え有りでしょう)と答えねばならない誠意・・・負い目を負って生きる心の負担は美里さんが既に見せましたしね。
さて、推理の部分です。死体が発見されて指紋のついた自転車、宿の髪・・・の状況で、当然あのブルーハウスの描写が生きてきますから「ああ、この死体は彼だ!」と解かってしまいますよね。それが一寸早すぎたのでその点で興味は「富樫の死体はどこから出てきてアリバイ工作がどう刑事を嵌めるのか」になってしまったのです。だから私も「思い込みによる盲点」に落ちたわけです・・・という点でちょっと忌々しい!って言うかしてやられたわけで・・・面白かった!です。
しかしなぁ・・・「数学は難しい!」ってことだけがわかればいい?
やっぱりなぁ・・・「博士の愛した数式」でも数学を愛せる人が羨ましく思えたけれど・・・この作品でもそう思えましたね、ここもちょっと数学苦手の自分の学生時代が忌々しい!ったら。
湯川先生が出てくる作品が他にもあるらしいです。探してみますか。
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ナイチンゲールの沈黙

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海堂尊著

笑えて、楽しみました。殺人事件なのに?ホント、申し訳ありませんがこれは作者さんのせいです。私は漫画には詳しくありませんが、家の旦那は「漫画は好きだけど、劇画は嫌いだ」と言います。
その伝でいくと、「螺鈿迷宮」の巌先生は確かに劇画でしたが・・・
この作品は漫画でした。登場人物が皆絵に書けるようでしたもの・・・それも私の下手な一筆書きで。
つまり作者が登場人物をそれだけ作品の中でリアルに?目に見えるように?活写してくれている・・・ということになりましょうか?笑えてしまうのです。
巌先生も最初にチョコッと顔みせ。私は既に次作を読んでいるので先生のしゃべりの大時代風が頭に浮かんで、直ぐに劇画作成にかかったのですが「迦陵頻伽」で頷き、アツシ君(このシャベリはないでしょう?)で転向、漫画に・・・白鳥さん登場で完全に方向性を決めることが出来ました。
しかも私はどうやら何部作かになる作者の著作をさかさまから読んでしまっているらしく「螺鈿迷宮」の粗筋はもうここで披露されている・・・多分もう作者の中では出来上がってしまっていた?→凄いなぁ!です。
章題をズーっト読んでいくだけでも作者のロマン嗜好がわかりますが非常に饒舌な装飾的な文章で、章・段落の締めに来る1行に所々実に面白い叙情的な表現があってこの文を書くとき作者は楽しかったろうな・・・なんて思いながら私も楽しく読み下してしまったのです。
殺人事件の謎解きなんてこの場合もうすっかりわかっているので、謎解きが主題の探偵ものではないのですが、体裁はそうです。わかっている犯人を確証で挙げるまでの数日をいかに面白い人物たちの跋扈によって盛り上げられるかと言う事を作者は試しているのかもしれません。そしてその試みという点で確かに面白い読み物を提供できています。
音楽と絵のなんか頷きたくなる二人の女性の能力は魅力的で少女漫画に似て高エネルギーに溢れているのに、それを奏でる4人の男女のシチュエーションがそれ以上にならなくてつまらないなぁ・・・惜しいなぁ・・・とは思いましたが。(螺鈿のお兄ちゃんは頼りなかったですが、こっちの坊やの造形は一寸オバサンにはイケマス)
今回も色々な最先端の?知識が奔流のように溢れて、カタカナをせっせと目で追っていましたが、はて頭に残ったかなぁ。
法医学の現状?ホームズはどう思うかなぁ・・・私はやっぱりあの時代どまりなんだなぁ・・・とつらい再確認。でもあの紙芝居、検挙率絶対に上げるよと、大してわけもわからず太鼓判押しています。
作中「バチスタスキャンダル」の話ちりばめられていましたが、まだ読んでいないので・・・どんな死骸がでてくるのでしょう?と楽しみになりました。その第一の作品の中でも既にその後の作品の構想が人参の様にぶら下げられているのかな?作者はどんなお医者さんなんだろう?田口先生に似ていないことだけは確か!
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夜の明けるまで 深川澪通り木戸番小屋

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北原亜以子著

北原さんの小説を始めて読んだのは「深川澪通り木戸番小屋」で、続けて何作か読んだのだから、その頃はもう女性の時代小説作家としてすっかり人気作家になっていらしたのだろう。その後「天保六花撰」で勢いが止まってしまった。作家のではなく私の勢いだが。「天保」ははっきり言って私の好みではなかったので「澪通り」の続きがでてくれないかなぁ・・・と、思いながら、お捨さんも笑兵衛さんも木戸番小屋を離れたのだから続きはないと諦めてしまっていた。
NHKで「慶次郎」を見てああこんな作品も有ったのだなとは思ったのだがTVで見る彼らの世界は妙に持ってまわって捻ってまわっている?って感じがして・・・なんかこう素直にうんうんと頷ける感じがもう一つ遠い。薄ぅーくいやーな情の押し付け、厄介すぎる勘繰りが被っているような、痒いところを掻き過ぎてくれてるような?これは読むには億劫そうだなぁと思った。そんなわけで以来北原さんの作品をチェックするのを忘れていた。そしたら見つけました。澪通りの続編を。
でも、これはどういう位置付けになるのでしょう。お捨さんは相変わらず健在でころころ転がるような声で笑っておられました、木戸番小屋で。(ともあれ、作者に殺されてなくて良かった!)
ほっとしました。中島町の木戸番小屋へ行けばあの二人が微妙に癒しを含んだ方向転換の風を吹かせているのだなぁ・・・でしょうか。
この小屋の前を通り過ぎて行く女たちは皆自分の足でおぼつかないながらも、かたくななりともお江戸の町でちゃんと生きているのだけれども、この小屋を通り過ぎた後〈何かながらも〉は憑いていた物を脱ぎ捨てて、以前より軽やかな、晴れやかな足取りになっていくようで、そこがこのシリーズの読後感のいいところなのだろう。
私とそう変わらない?年頃のお捨さんがどうしたら女神のような、他人への触媒のような存在で在れるのか?いい年をしてまだ棘だらけで自分だらけの私は頭を垂れてしまうのです。木戸番小屋のこの不思議な夫婦に、だからどうぞ何時までもそのままの存在でいてくださいと願うしかありません。何時か私がそこへたどり着けるまで。
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