出口のない海

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横山秀夫著

父から「「回天」の映画見に行こう。」といわれた時には、そして見てもこれが横山さんの原作だとは分かりませんでした。本を読んでも!です。
それくらい今まで読んだ横山さんの本とは違っていました。
「洋画の字幕についていけなくなった。」と、ここ数年邦画に転向?してからありがたいことの一つは父がどんどん新しい作家の作品に親しむようになったということです。元々読書家ですが、「レディ・ジョーカー」を見なければ高村薫さんの本を、「博士の愛した数式」を見なければ小川洋子さんの本を読むようにはなっていなかったでしょう。「半落ち」の御蔭で私も父から回ってくる本で横山さんのファンになりかけているところです。もうなったかぁ!
横山さんの本を読み始めてからまだせいぜい1・2年です。たいした数は読んでいません。だからこの本は横山さんとは思えなかった・・・というのは早計ですね。勿論この本も先週来た父が置いていきました。
大体満州で戦争体験がある父が戦争の事を話すようになったのも、やっとここ数年のことです。それも、孫が質問したからだったのですから。そんな父ですから「男たちのヤマト」とか「回天」とか見に行くとは思わなかったのですが・・・
「確かに海軍の方が新兵いじめは少ないとあの頃聞いたが。何しろ陸軍のいじめは本当にひどかったから。」とは言葉少ない陸軍新兵体験のある父の言葉です。
「玉が後ろから飛んできて戦死した上官もいたって話もあったなぁ・・・」
一瞬なんのことか・・・
この時は「海に出れば一蓮托生、板子一枚・・・っていうじゃない?海軍は連帯感が違うのかしら?」
「それはどうかな?」なんて話していたのですが・・・
人が二人寄ればいじめって始まるものなのかと、大の男集団の浅ましさを、今の今の世間と摺り合わせてなんか切ないですが。
いじめられる方も命がかかっているなら、いじめる方にも命がかかるんだという事を心したいものです・・・って、本から逸れました。
映画を見るつもりで先に本を読んでしまった父が、映画の感想を殆ど言わなかったのが本を読み終えて今分かったような気がします。
結局人が集団になれば力関係が出来るわけで、卑劣な・極限状態になればそれもエスカレートするわけで・・・海軍も色々な名前に体を借りたいじめの横行には歯止めが無かったって事です。
あれよりひどかった陸軍って?と、ただただ怖いです。
死が決まっている人に振るう暴力って後ろめたさの裏返し?
この作品はとことん主人公の気持ちを、周りの青年たちのその当時の様を追い続けてゆきますが・・・やはり読んでも分かりはしませんし、調べることで時代に追いつく何かがあるような気もしません。
でも知らないで済ませられない気持ちも良く分かるようです。
目の前の死は「ゲド戦記」を読んで深沈と生死観に思いを凝らすようなわけにはいきません。ただただ辛いです。
「戦争はいけない」というのは永遠のお題目で人間はどんな反省の上に立っても結局は戦争を起こす事を目論む動物なのだと、思わされてしまいます。戦争のないこの日本の60年の「奇跡の空白?」としか言いようのない時空にぴったりはまり込んだ私の人生の特殊なこと!その驚き!
あんなに若くて夢のある人に負わせてはいけないものを負わせてしまった負い目を映画の脚本は置き去りにしてしまったような気がします。平和なはずの国に暮しているのに今の子供は何を負わされているんでしょう?若い人の中には死を目指す種がまるで宿っているかのようじゃありませんか。
「弟を見れば今の教育が分かる。」って、主人公が言いました。親と学校の教育を何とかしなくちゃと切に思いますが。
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ゲド戦記(続き)

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アーシュラ・K・ル・グィン著

また、ゲド戦記です。やっと3巻目が来ました。
2・1・5・外伝・4・3巻の順で図書館から回ってきました。
こんな順でこの本を読む人っていそうもありませんが・・・?いや、図書館で借りた人なら?こういうことになったはずです?
さて、この感想録一体どうしたものだろう?今更?
映画「楽しみました。」と、書きました。確かに!でも、余りに分からないところがあったので本を全部読む気になったのですが・・・なんでこの物語を映画化する気になったんでしょうね?
この物語が好きだったら、あの映画はありえないだろうし・・・という気がしてなりません。本を読んだから言うのですが。あの映画を作りたかったのなら、ゲド戦記という題を外して良心的に?するなら「ゲド戦記に想を得た」オリジナル脚本ということで「違う題名」でという方法はなかったものですかね?それなら受け入れ十分OK!ですよ。
原作と脚本は違う作品だということは承知ですが、「レバンネンの冒険」みたいな感じで括ったほうが良かったのになぁという気がします。むしろその方が換骨奪胎とも言われないでしょうし。
なぜなら、読み終わった感想はこれはゲドの戦記というより、ゲドの歩んだ路にちりばめられた冒険による成長と生死の倫理観風人生の指南書という印象が強かったからです。(ゲドから学ぶといったほうがいいかな。)
ゲドも良き師を得て不安な少年から冒険の青年期を経て大魔法使いとなり老いて一個の人間に成熟していく過程で、自分も師として、夫として、父としてアレンやテナーやテルーの成長に関わっていく物語として私は読みました。
だって、冒険そのものより会話でつづられる沢山の言葉たちの含蓄が凄いんですもの。それなのにロマンスも満喫できるんですから。
好きなとこを書き抜いて永久保存しちゃおうかと思いましたが、それより「買いだ!」と思いました。
前にも書いたかと思いますが田舎の邸宅?(クスッ)暮らしを止めてこのちんまりしたマンション暮らしを選んだ時点で(何百冊もの本を泣く泣く処分したんですよ)本は図書館と決めた私です。買うのは最小限度と決めています。
しかもこの歳!今更成長でもないでしょう?
それでもこの作者が描く世界のバランスは本当に魅力的です。
ゲドの言葉は私の残り少ない人生を温めてくれるかもしれないと思ったんですよね。だからいつでも読み直せるように。
この本は子供たちへのワクワク冒険話であると共に楽しい人生の哲学入門・倫理事始?にもなりそうですけれど、私への「人生捨てたものではないわね!」書?にも「まだまだ学ばねばならないことありそう!」書?にもなりそうですよ。読んでいると魔法のある国で楽しんだり安らいだりしながらも、「そうよね、今のこのフレーズ、心に抱いていたいわねぇ・・・」というところに立ち止まってしまって、とても穏やかな気持ちになりました。
生きていくうえでの暗い側面が底に流れながら、上空には明るい光が漂っていて、その中空で魔法が働いて様々な色合いの智恵でつづられていくのが人の一生なんだと・・・。
朝が来ないのじゃないかと思ったことはありませんでしたか?
でも来ましたよ。確かに!・・・そんなこと思い出したりして。でも、何時かは来ない朝も・・・!
ゲドの世界の「王」って「竜」って何を象徴するのでしょう・・・ユックリ考えてみるかな?と、思った時に「やっぱりこの本は買いだ!」です。何度読んでも泉がありそうです。1巻からちゃんと読み通さなくてはね。
書き抜いた幾つものフレーズここに書き抜きたいのは山々ですけれど、今回は止めて起きましょう。どれだけ長くなることか・・・!
私って地図がある物語に弱いのかな?中央部に赤や黒や褐色の人がいて東のはずれに白い人がいるのもなんとなく良くない?
それになんてったって、竜が出てくるのですよ!竜が!
?もうじきクリスマス?買うのちょっと待ってみようかな???うふぅ。
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緋色の記憶

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トマス・H・クック著

「題名は大事!」って、先日書いた通りに題名で惹かれたのですけれど・・・だって、ホームズ・ファンとしては「緋色の研究」を思い出さないわけにはいきませんし、高校生の時の読書家としてはあの当時高校生定番?だったナサニエル・ホーソンの「緋文字」を思い出さずにはいられない「題」ですからね。
そして二つあわせれば(推理力を働かせて?)・・・おのずと答えは・・・
って程ご大層なものではありませんが、「犯罪(推理)もので、不倫がらみの恋物」?
大当たり!でした。
でも読み終わって後書きを読んだら原題は「チャタム校事件」でした。素直にこの方が良かったのではないかなぁ・・・と、思いました。
本文に何度も「チャタム校事件は・・・」という記述があるのですから。
(最も、この題だったら私はチョイスしていなかったかなぁ?)
私はこの「緋色の記憶」という題で既にかなり想像を逞しくしちゃっていましたからね。先入観を抱き過ぎましたもの。この思い込みは後になってみるとやっぱり邪魔だったと思います。
この作品の凄いところは「誰が誰を殺したんだ?」って事を知りたさに、目の前に人参をぶら下げられた馬みたいに?私は突進する勢いで読み終えてしまったというところです。
事件が起こって、誰かが死んで、ミス・チャニングが裁かれたらしいということは判ってはいても、私が知りたいと思うことは最後まで確定的な言葉では表現されません。
語り手の少年だった過去と、思い返している老年の今とが細かく入り乱れて、読む私は作家の思う壷?じたばた足掻きながら不安にせきたてられるように読んでいったのです。
次から次に質問が口から出掛かるようでした。
父である校長はこの事件にどんな役割を果たしたのだろうか?
その夫でもある校長の苦悩は何によって生まれたのか?
母親(妻)の夫への根深そうな不満と反抗は何に萌すものだったのだろうか?
嫌悪感を匂わせて語られる検事はいったい何を立件をしたのだろうか?
サラは・・・何か悪い予感がするけれど・・・どうなったのだろう?
リードの子供アリスに覆いかぶさる不安の要素(挿入される子供たちのからかい「歌」など)は何を語るのだろう?
そしてこの中の「不倫」二人の恋の本当の姿とは?
そして何よりこの語り手の少年の心の中のはかり知れなさ。
少年期から青年期への脱皮の多感な時期の憧憬や焦燥の複雑さ。
彼は物語の最後まで何を隠し通すつもりなのだろう?
絶対何らかの大きな役割を担っているはずのこのヘンリーは?
結婚しないわけ、愛情を遠ざけるわけ、子をなしてはいけない理由!重なる謎と過去と現在の振幅・・・それで読ませてしまう作者の綯う罠。
その罠に填まった格好の私がこの作者の次の作品を物色している姿も推理?出来るようで・・・「このミステリーは面白い」?
どこかのキャッチフレーズみたいに絡め取られたかも知れません。
それにしても姦通で3年もの刑期が化せられるなんて・・・今なら?
大抵の時代は女に過酷だったように思われるけれど、この頃・・・からは?男に過酷な時代が来るのかも・・・帳尻はどこかであわせてもらいたいものですよね?
男に緋文字をくっ付ける時代・・・笑える!いいかも?・・・って、そういう意味ではなくって!
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東京奇譚集

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村上春樹著

新聞で「カフカ賞」とかを取ったとかで、受賞式後のインタヴュー記事を読んだ。次はアカデミー賞とか?
そういえば以前にもアカデミー賞の候補?みたいな話題なかったかしら?作品の多さからみても、翻訳されている作品も多いらしいし?何より次男の書棚にいっぱい「村上春樹」の名があったし・・・?
何時だったか「面白い?」と聞いたら、ひょいと1冊「読み終わったとこだよ、読んでみたら?」
題も忘れたけど、薄い文庫本だったと思うが・・・これが面白くなくて「面白かったの?ほんとに。」
「最初に読ませる本間違えたかもなぁ・・・」
それっきりでしたが、ニュースのせいか?再挑戦。
賞に弱いからではありません・・・念の為。
題名から自分のアンテナに引っかかるものを・・・と、探した結果がこの本。
題で選んで結果・・・大正解!
私向きじゃん?(失敬!)
短編集です。以下の5作収録。
「偶然の旅人」
「ハナレイ・ベイ」
「どこであれそれが見つかりそうな場所で」
「日々移動する腎臓のかたちをした石」
「品川猿」
第一作目、読みながら途中もう「全然いいよ。」と息子の様に言ってみました、自分に。
偶然の程のよい楽しみ方のセンス!
人生の味わいが自分の上でちょっと濃くなった瞬間!
二作目のサチさん好きになりそう・・・だけどきっと好きにならせてくれないって感触。好かれたくないでしょうね。年も取らないでズーットそのまま二つの時の間で、二つの場所の間で、振り子のように行ったり来たりしながら、それでも蹲らないで立っていそうよね、この女の心。
三作目、何かを考えそうになりながら何も考えないまま読み終わったという感じなんですけれど、「時間の流れに身を任せ、時間を効用もなく磨耗させた。」この「私」さんも好きです。
私の時間も効用なく磨耗していったのですが、「していった。」のと「させた。」のにある夢幻の無限の距離が絶望的です。
四作目、は、いい物語でした。手のひらにそっと大事に置いておきたいような、優しく扱ってあげたいような、空中に浮揚している世界の物語のようでした。私もこの物語をそっくり「受容」出来そうです。その言葉を使ってもいいなら?
五作目は楽しく読みました。「見ざる・聞かざる・話さざる」の3猿に縛られた女の人の解放話として。
その繰り広げ方の面白いこと。解決の仕方の意表を突くこと。名前かぁ・・・名前ねぇ・・・。
また、気が向いて、心にひっかかる題を見つけたら、村上さんの本読むかもしれないなぁ・・・。題「名」は大事。
題名といえば、カフカ賞おとりになったのですが、村上さんは「カフカ」という名を付けた作品があるんですね?「カフカ」訴えてくるものがあるかなぁ?うーん。
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