月島慕情

題名INDEX : タ行 53 Comments »

浅田次郎著

これも短編集でした。7編収録。
う~ん、これは、私の伝家の宝刀「好き嫌い」物差しを振りかざしても測るのが難しい作品群です。目盛りをふりきっちゃいます。
「月下の恋人」がこの作家の大作群からこぼれ落ちた澱のしずくだとすると、これは野放しにされた、手綱を離れたやる気じゃないかっていう気がしたのですけれど。手と情感が我が物顔で走ったのねという感じを受けました。浅田さんはこの方が手馴れています。
「インセクト」というのは私と同時代の学生さんの見覚えのある姿ですが、それでもやはり生理的に気持ち悪かったです。北海道にはゴキブリはいないから・・・って言ったって・・・。彼だって見たことなくても知識はあったでしょうから、それだけ孤独が浮かび上がって来て切ないのですけれど、それでもごめんなさいです。
あと「雪鰻」は既視感があります・・・え、どこで?えぇー「蒲生邸事件」宮部みゆきさんでしょうか?
表題の「月島慕情」は田舎から売られてきた少女が美貌と利口さとを武器に吉原で見事に生き抜いてきたその点に心打たれましたが、身請けする時次郎と言う男がどんなにいなせないい男と書かれたって月島の家庭を見せちゃった時点でこの話はぽちゃるでしょ?本当に男の中の男だったら女房子にあんな憂き目は見せないでしょうからね。トチ狂った粋がり男じゃないの。それでもねぇ、あんな苦界でこんなにいい女が出来るのかしらねぇ!ミノさんはいい女、女を上げたね!女の意地のが素敵じゃないか!と思うけれど、この作品は乗れません。最後のページやるでしょ?やりすぎでしょ?お願いそんなにやらないで・・・。
それ以外の作品は「やられているぞー!」と少々忌々しいながら涙と共に読み下しました。特に「めぐりあい」と「シューシャインボーイ」には負けました。別に珍しい個性的な作品ではないのです。こんな話よくありそうだよーと、思うのですがね、上手いです。
とまぁ涙を流して、心も潤ったようだぞと思いながらも一寸忌々しいんですね。素直に感動をありがとうといえる感性がもうしみしわに覆われちゃって固くなっているんでしょうね。いやむしろ、抑制を外した作者の力技が言わせないんだと思えるのですが?
「シューシャインボーイ」子供の頃父と銀座有楽町辺りに出かけると父もよく靴を磨いてもらっていました。私も塚田さんの奥さんのように「あ、水を使うんだ。」と驚き、それから父の靴を磨く時にはまねして2・3滴の水を使っていたものです。「あら、素人はしちゃいけなかったのか・・・」と、今頃知りました。ガード下の靴磨きのイメージをすぐに心に浮かべられる世代なのです。(そういえば今もちゃんと有楽町のガード下にはいらっしゃいますよ)
そしてこれも最後のページです。「菊治さんにこんな遺言書かさないでよ・・・」と滂沱の涙の私です。
Read the rest of this entry »

月下の恋人

題名INDEX : カ行 378 Comments »

浅田次郎著

短編集です。11話収録。
「憑神」を予約しようとしてこの作品を見つけました。「憑神」より待ち人が少なかったので題名に惹かれて予約しました。私はまだ乙女ですし、月の下では何かが起こる!涼やかで紫のかかった何かが!
そしてまたしても浅田さんの多才で多彩なことに驚きました。
もっともこの年になると、物事を判断する物差しは「好きか嫌いか」という1本に収斂していくようです。って、まぁ私の場合はです。
脳が面倒くさい分析をおっくうがると言うか避けよう避けようとするんですね。だからこういう短編集になると1篇読み終わるたびにすぐさま思うのは「これはイヤだわ」か「これはいいわ」です。
厳密には「好き」「嫌い」以外に「保留」っていうどうしようもないのがあることもありますが、読み終えた後で好きな順に頭の中で並び替えます。嫌いな物は消します、記憶から。最も最近は好きなものも直ぐに消えていく傾向にあって、思案投げ首状態、危機的状況を痛感しています。本当に嫌いな物は読み終わるや否や身震いするようにして急いで振り捨てるのです。重い物を身の内に滓にしたくはないんですもの。
この作品群は割合穏やかな振り幅の中に収まっていると言えましょうか。似た景色の作品たちです。でもその幅の半分以上は好きにはなれませんでした。
時々思うのですが、作家さんも澱とか毒とか残滓みたいなものを、集中して書いた折にこぼれ落ちた何かを、捨て去れない業みたいなのがあってそれも作品に結実させてしまうんじゃないかなぁ・・・って。そんな感じがこの作品の後ろから覗いているような印象があったのですけれど。
「回転扉」「告白」「同じ棲」「忘れじの宿」「あなたに会いたい」「風蕭蕭」以下省略させてもらいます。もう振り切ってしまったので。あ、表題の月下の恋人もすてるの?はい。
「回転扉」はSさんになって独白してみるとそれなりに面白いです。
私にも別人になってみたい欲求はあって、しかも私は観察眼がからきしないときているから?これはちょっとだけずれた私にもパラレルワールドでありえます。パープルシャドウを帯びた?
挙げた(残した)短編は私の中で長編に変わりうる何かを秘めているようにも思えたのです。物語を継いでいけるような種が見られたという感じでしょうか。余韻も楽しめるような。
「天切り松」を読み終わったところなので、あの本とこの本の間、あの岸とこの岸の間を流れる河の広さにアップアップですが、凄い作家だなぁと思いながら流れ着くならアッチの岸!と、思ったことでした。このクソ暑い時期に読むのには結構?お薦めできるかもしれませんね。でも内容は暑苦しくとも心がサッパリ出来るのは天切り松の方だなとやっぱり思う私でした。
浅田さんには他にも「月島慕情」「月のしずく」という月がらみの本が他にもあるようです。さ、予約しますか。「月島」は月か?ええ、月島の高層ビル群の隙間から見る月は又それなりにいい風情ですぜ。
Read the rest of this entry »

シャドウ

題名INDEX : サ行 224 Comments »

道尾秀介著

まだたったの1冊を読んだだけで言うのは余りにも早計!
でもひょっとしたら好きになれる作家を一人見つけたかもしれない。
まだ、数作の作家を評価するのは私の任ではない。残念ながら私にはそんな目は無い。が、読みながらこの作家の持っている資質のなんらかが私に「いい感じだぞ!」と囁いていた。
最近心して新しい、知らなかった作家の作品を読むようにしている。この頃ひどい脳の老化に我ながらてこずっているので、趣味も一新、友人も一新、旦那と息子も・・・とはいかないのが・・・というか、その両方からてこずられているといったところが真相?
三崎亜記さん、三浦しをんさん、薬丸岳さん、海堂尊さんと続けていますが・・・なかなか・・・いいかも・・・これからも・・・読めるぞ!楽しみです。
さて、この作品何が成功しているってあの科白です。
「人間は、死んだらどうなるの?-いなくなるのよーいなくなって、どうなるの?-いなくなって、それだけなのー。」
子供にそんな科白を言う母親って想像出来ないでしょう?
それに彼は今5年生、小学校のだよ!って、小学校以外の5年生って医学生か?ってほどのもんだよ。なのにその少年の3年前にもうその科白!なんだから・・・
この主人公が小学校の五年生だって?ありえないでしょ。この人(子じゃないのよ)容姿はともかく内容は大人より大人でしょ?いえ、私より大人でしょ?こういうのって生まれたときから大人なんだよ!
でもね、ハタッ!と、思い出したんです。幼稚園に入る前からずーっとお隣で、一緒にお手て繋いで幼稚園へ通っていたお隣のけんちゃん、小学校の3年頃だったかなぁ、けんちゃんのおかあさんがおかしいって大笑いしていたの。「けんじったらこの頃お隣の女の子って呼ぶのよ。」そう、その頃から一緒に学校へも行かなくなったんでしたっけ。
「そうか、やっぱり彼は五年生なんだ。」
それに彼のお父さん!節目節目の科白の良いこと!
だから最後のドキドキが盛り上がるんですね。
それにしても新聞を読むたびに?「精神科の医者ほど危ないものはないなぁ!」という気持ち、ますます増長しそうですね。
患者さん、ちゃんと面倒見て欲しいなぁ・・・と。犯人は精神科へ通っていたという記事が多すぎるんですもの。精神が素直に生き難い世の中なんでしょうけどね・・・そして治すのも至難なんでしょうし・・・対峙していると朱に?なんて。
やっぱりそんな俗な心配?、やっぱりした方がいいんだ!って。
おっと、これは作者の書きたいことと関係ないか。
最も心の場合何が健康で何が病んでいるって誰にわかるんだろう。
学校で何か日常と違ったことがあるたび「はい、○チャン、カウンセリング室で1週間放課後にマインドケアしてもらってらっしゃい。」なんて、先生が当たり前に言うようになるのかも?その日は近い。
明日と今日の間にも紙一重の変化がありうるのが今の社会なのだもの。あの年であんな経験をする子供たち、この子供たちにどんな明日が来るんだろう?今しなやかに乗り越えたかに見えるこの子たちの明日の心はどんなねじれを起こすだろう?だからしっかりこの作品は「今」なのですね。「今」を映す鏡です。だけど人間社会の問題として普遍です?

螺鈿迷宮

題名INDEX : ラ行 106 Comments »

海堂尊著

なんでこの作家の本を読むことにしたんだっけ?あ~?と考えないといけないほど昔?図書館に申し込みました。チーム・バチスタの事を聞きかじったからでしたっけ。それで図書館検索したら4冊本が出ていました。「チーム・バチスタの栄光」「ナイチンゲールの沈黙」「ジェネラール・ルージュの凱旋」そしてこの「螺鈿迷宮」。この作家の名前全く知らなかったんですから、全部申し込みました。この作家が書いた順には到着しなかったようですが、ままよ、です。
この本の裏書では現在勤務医ということと「チーム・バチスタの栄光」が第4回「このミステリーがすごい!」大賞受賞、しかわかりませんでした。どうやらご存知のフィールドを駆使した作品が多いようですね?お医者さん作家って結構いらっしゃいますよね・・・えーと・・・
文科系でもないのに、なんでこんなにお医者さんが文章上手いのさ?と、思うこともしばしばですが、この作品読み始めて最初に私が思ったのもそれでした。
先日読んだ薬丸さんのプロフィールも知らないのですが、彼より文にセンスがありますよ。私の好みに過ぎないのかもしれないけれど。
でも凄い勢いで書いていらっしゃるのでしょう?出版年を見ると。
ってーことは御本業の方はいかなる事になっていらっしゃるのでしょう?心配です。
私のいいお医者さんの原点はもうとっくにお亡くなりになられましたが、お隣の内科医院の河合先生でした。熱を出すと夜中もパジャマの上に白衣を引っ掛けて出てきてくれましたし、熱が下がらない時などは夜中に往診があると「ついでだ」と覗きに来てくれました。少なくとも海堂先生にはそんな時間は無いだろうなぁ・・・(それって、既に古き良き時代劇の世界かも?)
始めに取り付いたのがこの本でよかったのかどうか?なんかねぇ、この作品は取り組んでいる命題が見えそうで妙に見えない。
自己韜晦の迷宮なんて言葉が頭に浮かびました。
面白かったんですよ。一気に読みましたもん。でもねぇ、書きたいのが終末医療のあり方なのか?それに関する厚生省と医療現場の問題なのか?安楽死と自殺幇助サイトなのか?全死体解剖の計り知れない恩恵なのか?ま、全部なんでしょうけれど・・・それに向き合う人々が何ていうかそのぉまぁステレオタイプなのね?それで底が浅くなっているかも。書きたいものに向き合う姿勢は薬丸さんに1票!
って、誰が比べなさいって言ったの?そういう問題ではありません!
敵対する両方の情報をしゃべらせるのに実に便利なアンラッキートルネードで幸運の星下の坊やは二重スパイと両方に公言している調子のよさ。それで愛されるキャラなんて余りに底が浅・・・あらもうこの科白言っちゃってたわね。一寸安易な気がしませんか?
光と闇は並んでいたり、交じり合ったり、できるでしょう?ここまで対決姿勢をとる必然が今一伝わりませんでしたし・・・
行方不明人捜査は48時間が勝負!(FBI失踪者を探せより?)
こっち部門でもちょっと緊迫感が今一・・・ってそういう本ではないのか?
ただ医療現場の色々な事を覗き見できた面白さってやっぱり面白さでしょう。
尊敬すべき巌雄先生にはもっと普通の言葉でしゃべってもらって!彼の科白、折角「いいなぁ・・・」と思いたいのに、時代のギャップにけっつまずいてしまうのです。最先端の医療事情を頭の中に構築しようと努力していたのに、ここでも「あれ、時代劇だった?」になってしまう。
それに白鳥さんとか姫宮さんとかの性格有り得ない!それとも医療現場舞台コミックを目指して人物を造形したんで、これで良し!なのかなぁ?
それでも詰めの甘くない小百合先生がどう落とし前をつけるのか?覗いてみたい気持ちも十分に残っている一読者なのです、私。
この作家先生の早業なら、予約してある残り3冊が来る前に小百合先生巻き返すかも?
Read the rest of this entry »

闇の底

題名INDEX : ヤ行 616 Comments »

薬丸岳著

大分前に「天使のナイフ」を読んだ後にこの本を予約したのですがよりによって今届いてしまいました。
「天切り松」にのめりこんでいましたからそのままのめりこんでいたかったのですが、取りに行かないと次に回って又今度は何時?になりますから。それにこの作家に前の作品で興味を持ったのも確かです。この作家は犯罪被害者の立場に立った作品を連続で世に送り出してきたようです。ある意味ジャストタイムで現在を切り取っていることは確かですし、戦後犯罪被害者になる確率が上がる一方で抑止力は全く働いていないというのが一般認識ですから。
この作品も実に興味深く読みました。
彼は犯罪被害者に非常に面白いと言うのは語弊がありますが独自の立場から目を注いでいます。
アメリカのドラマなどを見ていると「性犯罪者は矯正できない。」が常識のようです。性癖嗜好は矯めるのが本当に難しいことは想像できます。そういえば先日映画館で「リトル・チルドレン」という映画の予告を見たけれど、それも性犯罪者を扱っているようだったな。
アメリカでは今生犯罪者は居所を公表されて、住民たちも知っているといいますね。日本もこのまま子供たち(子供に限らないけれど)の被害が続くようなら考えてもいいシステムだと思って・・・現在の日本の恐ろしさに突き当たりました。
この作品で「子供に対する性犯罪殺人の抑止力をウタウ」殺人者は愛しい娘を持ってしまった性犯罪者で・・・彼の犯罪の動機を描くことでこの種の犯罪者たちの哀れさも恐ろしさも描いていますが、それ以上に結局彼らは矯正されないということを声高に言い募っているようでもあります。実際そうなのだろうか?家族にそういう犯罪者を持ったら、絶対そうは思いたくないだろう・・・祈る気持ちで矯正を願っているだろう。罪をあがなって再犯しないで・・・と。
統計だけでは決められないと一筋の光にもすがるだろう・・・とも思うと、この作家の描く世界の容赦の無さが胸に痛い。
だがやはりもっと痛いのは乱暴され殺されていった被害者とその家族で被害を阻止できるのだったらどんなに踏み込んでも許せると思う憤りもしっかり胸に生きています。
警官という道を選び又さらに選択を迫られた主人公の極限状態を考え出した?描ききった作家の現代社会の認識の確かさを痛々しく読みました。しかし、やっぱり表現の未熟さを思わないではいられないです。横山さんになれとは思いませんけれど、骨太な内容に緻密で微細な叙述が伴えばもっとこの作品は訴えただろうという気がして惜しいようです。言いたいことがいっぱいいっぱいで余裕が無いような?
それにしても現代の復讐譚は「モンテ・クリスト伯」の世界のように、カタルシスをもたらさないようですね?黒岩涙香さんの翻訳の「岩窟王」で始めてモンテ・クリスト伯を知った子供の頃は復讐は甘美に思えたのに。心って昔より複雑になったのでしょうか?それとも・・・?
Read the rest of this entry »

「天切り松闇がたり」 

題名INDEX : タ行 71 Comments »

浅田次郎著

1巻「闇の花道」
2巻「残侠」

先日から泥棒と刑事と言う組み合わせほど面白いものは無いなぁ・・・なんて思いながら本を読んでいたせいか、ふぃっと頭に浮かんだのがこの本です。
「泥棒と言えば天切り松がいたじゃないの!」です。まだ読んでいませんよ。そうよ!小耳に挟んだ情報からも面白そうですよ・・・!
でもね、まだそんなに沢山読んでいるわけではないのに「又、浅田サンの本を読むのか?」って一寸思っちゃうのはなんででしょう?余りに上手すぎてツボを心得すぎた彼のワールドに思うようにはめられちゃう気がして一寸抵抗感があるのですよ。溺れさせられちゃいそうな危うさ・・・その手に乗るか?って無駄な抵抗!同じ溺れるのでも藤沢さんの世界だと抵抗を感じたことが無いのはなぜかなぁ?ここは一寸思案の要あり?でも、まぁちょっとそれは置いておいて、泥棒さん読んじゃいましょう、絶対面白いに決まっているもの!
で、読み始めて1巻第1夜目で、「こりゃ音読向きだわ!」
2巻、声を出して読みきりました。めちゃめちゃ面白かった!どうにもこうにも面白かった!
図書館ではそろそろ3巻目が私を待っているはずです。え~まだ届かないのか?
友人からのメールに思わず「かっちけねぇ!」と題して、「何のことよ?」と返されて・・・現代に立ち戻る“やばさ”です。
またしてもやられちゃっている私ですが、この作品に関しては構いません。むしろ「もっともっとドツボにハマってみたい!」感じです。
この松の世界。私の記憶の底にある世界。震災前の大戦前の見たことも無い町だけど聞き知り実際私の歩いていた道筋に蠢く過去の人々の様はもうそれだけで私の心の琴線にジャーン!町内の頭とか鳶の兄さんたちの佇まいを思い出しましたね。今でも祭の時に見かけるようですが、姿は同じでも果たして中身は?
私の認識では山形有朋なんて化け物の悪人、怪物です。でも第2夜で踏鞴を踏んじゃいました。山田風太郎さんの明治物でもあいつは褒められたモンじゃないですものね。彼は維新の悪印象を全部背負って立ってる感じでしょ?それが・・・ねぇ・・・この男を描く章で「にいさん方もたかだか銭金のためにヤマを踏むてえ根性なら、これを限りにきっぱりと足をお洗いなせえよ。曲げちゃならねえてめえの道てえのは、盗ッ人にせえ大臣にせえ、たとえ千金積まれたって売り買いのできるものじゃあねえ。もっともこれが悔いのねえてめえの道だなんて言い切れるやつァ・・・盗ッ人千人、大臣千人並べたって、そうそういるもんじゃあござんせんがねー」って〆に持っていくんですよ。
そしてこの安吉親分の一家のそんな道を行った兄さん姉さんの物語ですから・・・「侠」の字が生きて立ってきます。「小政」さんの章なんてどうです?声を出して読んでいる私は涙も笑いも声に乗せてです。
山田風太郎さんの明治物にも確か小政の話が・・・彼はやっぱり長生きしたんですねぇ?
天切り松の生い立ち、これに負けない情なんてありゃあしません。
「カチューシャ」唄えるのですもの・・・べそかきカチューシャになるじゃありませんか。参ったなぁ・・・と、思いながら急いでこれを書いて3巻取りに行きたい行きたい、というところなんですが。
3巻では彼の泥棒修行が読めるのかな?楽しみ楽しみ!!!
Read the rest of this entry »

ひとり日和

題名INDEX : ハ行 76 Comments »

青山七恵著

初めてじゃないでしょうか。私が芥川賞とか何とか賞とかをとった作品をこんな早く読むのは。(図書館待ちの時間分遅くなっただけです)おまけに近年争うように若年化している受賞者のニュースを聞けばなお更読むには抵抗があります。
これらの賞は青田買い、これから長く稼げる(はず?)作家を売り出すためのものだったのかしら?熟成する前に?時間や資本をかけないでとりあえず稼ぐぞ?って出版社乃至何かの方針?だからそれらを、読みもしないで眉唾眉唾と思っていましたから。はなっから熟成させるつもりも無い?作家の、使い捨ての作品読んでどうするの?みたいな。
とか何とか・・・って、つまりはそんなにも若くなってしまった、いやこんなにも若い人の作品の感性なるものについていける気もしないし、迎合するのもくたびれそう・・・ってだけなんですけど。題にも食指が動く物は無かったし・・・。
ところがこの作品は、この題に惹かれました。
言ってみれば私は生きてきたこの何十年余り、殆どひとりで一人の日和を謳歌(これって見栄?)してきたようなものです。
子育ても、あっ結婚もしましたし、勿論ご近所付き合いも、友達付き合いもそこそこあったことはありましたけれど、ぼちぼちにそれらと付き合った後の一人はなんと心地よいことかと思い暮してきましたからね(シラノの心の羽飾り!)。
私と同じような引っ込み思案?のひとり日和はどんなもんかなぁ、ちょっと覗くのもいいかな?なんて乗りでした。
この題若さを感じないんですよ。普遍的でしょ?だから妙に青臭く生臭く押し付けられないで済むんじゃないかな、若さを!って感触ありましたしね。で、結果、見事に、見事すぎるくらい若さを押し付けられないで済みました。
いえ、文章自体、使われている言葉、そんなところにはちゃんと作家の年齢が臭っていることは臭っているし、その年代の気負いが気取りがちゃんとある文章でもあったのですけれど、切り取って描いている日常が余りに淡々としている様に装っているので、うっかり若さを見落としそうになるのです。ふうーん、お気に入りの切り口と投げ出し方を見つけられたのねと、ちょっとこの繰り広げた日常に被せた薄い明度の高いグレーにうらやましさを感じてしまいました。
私の20歳の頃の世界・・・ったって、それは私だけのものですから比べようもありませんが、ここにこういう風に投げ出されたこの娘智寿さんの年頃の世界は私には理解できないだけに、今この世代の普遍的ワールドのような錯覚をもたらしました。
直裁に行ってしまうと「カワイそうに!」です。何が?余計なお世話ですよね、実際のところ。
それでも、その気持ちの中にはこんな風な「あなた、ずいぶんと生き難そうね。傷もあるかもね?あったとしても傷から流れている血がとても薄そうで、それって楽なのかしら?楽だとしても価値があるかどうかは別の問題ね。でも私の若かった時よりキレイに人付き合いも、社会との兼ね合いも何気にさらさら上手にやっているじゃん、あの頃の私なんかよりもズーット・・・」です。
そんな風に思えました。でもあの頃の私や友人よりも?すさんでいるようにも思えましたけど。
だから、むしろ私にとっては吟子さんの方が主人公でした。
シチュエーションは吟子さんのものですよ。彼女こそがあの線路と駅と家との主ですよ当然?智寿さんは通り過ぎて行く人ですよ。
この娘から見ている吟子さんに肉付けをしていけば・・・私のいい?先達になるかもしれませんね。
もっともこの若い作家がこの年の人を理解できるとは思えないのですけれど、その上で彼女たちから見える大人のさらさら感のある、したたかな生き方ってどんなものなんだろうねっていう興味ですか。
流れる事を意識しないで流れて行く、年をやり過ごしていくっていう感じって、こうむった痛手は既にそんなことの形跡はまるで無かったように消えている、そういう風に見えるって、はて、それじゃ生きてなんになるんでしょ?この明度の生活感の中に浮かび上がる母も藤田君も陽平も智寿さん本人も皆凄い感度のセンサーを持っていて昨日と違う何かを感知するとさっと方向転換をしてしまう生きもののように見えるって・・・これ何ですか?吟子さんだけはその中ではまだ生きていそう、むしろしぶとく?
この作品の中の大多数の人物は作品から出てきて歩き出す足持っているのですかねぇ?足も影もなさそうな人たちの、体臭の薄そうな人たちの、悲しみは悲しみで、喜こびは喜こびで、結局どうでもいいんでしょう?と言いたくなって、私はあなたたちとはお付き合い出来ませんし、して貰えそうもありませんしねと、横をすり抜けさせてもらいました。

深追い

題名INDEX : ハ行 113 Comments »

横山秀夫著

この本は再読です。なぜかというと先日「影踏み」を読んだのですが、それで思い出したのです。確かこの短編集にも「泥棒さんの話があったぞ」というわけです。三ツ鐘市という架空の市の市役所斜め向かいにある三ツ鐘警察署の刑事たちの物語が表題の「深追い」を含めて7編収められています。
横山さんの作品の中でも私の好きな警察官ものの一つですが・・・この中に「引き継ぎ」という作品があるのです。
言ってみれば、この作品は丁度「影踏み」のポジ?「裏返し」みたいだと思い出したのです。
あの作品では泥棒になった主人公が「盗犯」係りの警察官と渡り合うという部分がありましたが、この作品ではその「盗犯係り」のいわば泥棒刑事の側からの物語なのです。
丁度この「影踏み」と「引き継ぎ」を続けて読むと警察と泥棒のなんともいえない間柄・・・って言っちゃいけないかな?が見事に立体的にちゃんと三次元で立ち上がってくるようで面白いです。
刑事といっても、泥棒といっても、つまりは人間なんだなぁ・・・という当たり前のことが腑に落ちるといってはつまらないですが・・・いや実に面白い「ワールド」が厳然とあるようですよ。
そういえば我が家に、一度だけ私が小学校1年ぐらいの時(昭和29年頃?)に泥棒さんに入られたことがあります。侵入口はお便所の上の小さな窓でした。鍵をかけ忘れたのですが、小さな窓ですよ。やってきたおまわりさんが侵入口はここだと断定して、私はその小さな窓に向かって「嘘だぁ!」と思ったのを覚えています。大人が潜り抜けられるとは思えませんでしたもの。
母が箪笥を開けるまで全く気が付かなかったほど痕跡は無く部屋はきれいだったのですが、警察で盗まれた物を書き出した母が後で仰天していました。盗まれた物はあらかた父と母の着物でしたが、あの量をふろしき包みにしては絶対便所の窓からは出せないし、一人でいっぺんには持てないくらいの分量でしたから。いったいどうやったのでしょう、謎です。私が忘れられないのは買ってもらったばかりの舶来の真っ赤な私のレインコートも盗まれていたからです。父が「きっと泥棒さんにも可愛い女の子がいるのかもなぁ・・・その子が喜ぶかもなぁ・・・お前はまたいつか買ってもらえるのだから・・・」なんて慰めてくれたっけ。後日質屋で足がついて警察に出向いた母は書き忘れた着物が何点か出てきておまわりさんに叱り飛ばされたらしいです。
あの泥棒さんの手口も「泥棒刑事」さんだったら直ぐ当りがついたのかもしれませんね?・・・と、横山さんを読んだ後の私は思いました。
浅草のロックで年末(林家正蔵の会の帰り?)に父が掏りにあったこともあります。オーバーの下の背広の内ポケットの下(裏地)を鋭利な刃物できれいに真一文字に裂かれて財布だけすっぽりやられたのです。警察のおまわりさんがその切られたところを見て「あー、何とかだ!」と名前を言ったと父が言っていました。今なら?これもよくわかりますね?ひょっとしたらその「誰とかさんという掏り」はその刑事さんの、その盗犯係りの「手持ち」だったのかも?なんて。
そんな事を思い出しながら興味深く再読したわけです。
ちなみにこの短編集では「訳あり」と「仕返し」と「人ごと」が好きでした。そして「影踏み」を読んだ後では「引き継ぎ」も「好き」なうちに入れようかな。
Read the rest of this entry »

風が強く吹いている

題名INDEX : カ行 253 Comments »

三浦しをん著

三浦しおんさん初挑戦です。この作品と「まほろ駅前多田便利軒」の2作品を図書館に申し込んでこちらが先に届きました。
最近まで私は保守的?で、読書は長く読み伝えられて評価の定まったいわば名作主体に読んでいました。そして好きになった作家の作品はたったった・・・と続けて読んでしまうのが常でしたが、このところ傾向がすっかり変わりました。人生残り少なくなったから?気の向くままにつまみ読みです。誰かに「お薦めよ」と言われたり、書評で見つけたり、広告の文句に引きずられたり・・・行き当たりばったりです。でも避けるのはやはりあって、思いっきり泣かせるという恋愛ものとオカルトホラー・スポコンものでしょうか。それにこの本を読んで気が付きましたが「思いっきり青春」小説というものも避けていた感じです。
それが井上ひさしさんの「青葉繁れる」と「モッキンポット師の後始末」を読んだせいか、本当に忘れていたみたいな石坂洋次郎さんまで思い出しちゃって・・・で、この小説です。スポコンものに加えて思いっきり青春って感じですが・・・いいの?良かったんです!
本当に私の青春時代以来の素直な青春ものといった印象でしたが、スポコンという点に関してはどうでしょう?むしろ今までのスポコンものとは対極の位置でのスポーツ推奨小説といった感じでした。
それで私も物凄く好意を持ってこの本夢中で読めました。
私は走る跳ぶが駄目、6年の時のスポコン先生に劣等感背負わされたっきり運動とはおさらば。運痴だから運動には長いこと手を出さなかったんだけど、いい大人に成ってから運動は誰でも楽しめることに目覚めて「チェッ!って感じ?」でしたから、この急に否応無く走り始めた彼らに私は夢中!
走りに取り付かれている二人は別枠に置いておいて・・・といったからって彼らに反感はありませんよ。「ある種の能力を司どる運命の女神に微笑まれてしまった青年たちよ!」って感じですか?だから彼らは彼らで美しく自らの道を追求してくださいってものです。そういう彼らに心底憧れて共感をする読者には事欠かないでしょうけれど・・・むしろ残りの青年に共感する人はそれこそ山の様?のはずです。
なんと言ってもスポーツに対する、作者の拠って立つところがなんと言ってもいいのです。運動馬鹿も、運痴も、どちらも自分の場所を本の中に見つけることでしょう。そして彼らの誰かと一緒に風に吹かれるでしょう。
青春はやっぱり甘酸っぱくて、小気味良くて、将来があるんだと・・・微笑がホホに浮かびました。この風に吹かれて弾む気持ちは多分18歳の頃と一緒ですよ。夢中になってフレーフレーと沿道で叫ぶようにページの中に顔を突っ込み読みふけりました。
そう、50歳の時始めてスキーを履くことから教えてくれた大学生のインストラクターさんは私をコースの天辺まで押し上げて、練習を始める前に山頂からの雪の世界の美しさを見せてくれましたっけ。一寸頑張ればこんな世界が私のものになるんだって、最初に何よりスキーがこんなにも美しいところを駆け抜けるものだって知ってくださいって言ったなぁ。
誰でしたっけ?ニコチャン先輩?競技以外のスポーツを楽しんでいいのだって教えてくれる人の居なかった不幸の中にいた青年がいましたね。ほんとよねぇ、めぐり合いよねぇ・・・私だってあんな楽しい素敵なコーチに出会わなかったら運痴の劣等感の中でテニスやスキーなんて一生縁が無いままだったわ・・・などと、私自身40過ぎてからスポーツをそこそこ楽しめた来し方を、そんなこんなを、本を無理やり閉じて眠りに付く間改めて反芻して・・・素直な共感しきりでした。
心身を鍛えるためのスポーツで体を壊しては何にもならないわよねぇなんて嘯いているオバサンにだってスポーツを愛する心はちゃんと在ったってことね。そして強い風に吹かれたい気持ちはやはり心のどこかにちゃんとあるって事!
Read the rest of this entry »

影踏み

題名INDEX : カ行 270 Comments »

横山秀夫著

最初の2編を読んだところで「ああそうか!こういうお話なんだな。」と、構成が飲み込めましたが、途端に私が思い出したのはモーリス・ルブランの「バーネット探偵社」と「八点鐘」です。ルパンには悪戯な皮肉な探偵心があります。ロマンチックな気分もね。彼の場合は勿論!自分の利益のために探偵さんをするのですからこの作品とは味が全く違います。
でもまぁ、泥棒さんが一つ、二つと自分の前にはだかってくる問題に立ち向かって、何らかの解決を見るという形態には似通うところがあるでしょう?でも、云ってみればルパンのは「哄笑」ですが、この作品の主人公真壁さんにはそれははるか対極のものです。云ってみれば、彼の場合はせいぜいが苦笑、むしろ悲しみと苦痛を一枚二枚と心から殺ぐ止むに止まれぬ行為です。最後の最後まで全ての逸話が痛みを伴います。日本的だなぁ・・・と、思います。
過去を振り返り振り返り・・・いやむしろ過去が彼を手放してくれないという異常な状況を抱えて彼は進みます。
彼と彼の内なる弟との会話で彼の全てが明きらかになっているのですが、彼が一つ一つと事件の中を進むうちに彼が抱えている彼自身の問題もよろめきながらも変化を見せていきます。
彼のうちにある葛藤と彼の周りの世界で起きる葛藤とが同時進行で綯われていきますが、最後まで彼の世界は日本的で最後まで「哄笑」にはなり得ません。だから作品としては毛色の変わった警察もの、事件解決探偵ものとして娯楽作品であるにも関わらず、そして読むうちになるほどと事件の全容に唸らせられるにも関わらず、読む私にも痛みが残ってしまいます。小説の世界には色々な状況を背負った探偵さんが居ますが、真壁さんの状況はその中でも特異で、すっきり解決した満足感は薄いです。彼自身解決はないのでしょう?でも、弟が消えた時点でもう事件に巻き込まれる必然は生み出せなくなったぞ!と、一寸がっかりもしています。
でもねぇ、30半ばで、これだけ警察にも業界?にも顔が売れてしまっていて・・・立ち直るって?一体どうやって?・・・真壁さん頭がいいからなぁ・・・度胸もあるし・・・と、私が一生懸命考え込んでいる時点で、「しかし横山さんは読ませてしまうなぁ。」です。
双子という設定が生きて、オカルトに陥る前にしっかり食い止めて、微妙に却ってリアルになるのが妙です。そして又雁谷市の規模の設定が又妙です。生活感のある町・・・刈谷市って愛知県にありますが・・・そこよりは規模が大きそう?自転車活用小回り平地感・・・静岡市?・・・いや寒さから北関東?なんて。
しかし警察って・・・横山さんの本を読むたびに何かあったら「警察に駆け込むか止めるか?」判断が難しくなるような気がするのですけれど?
ルパンは大好きですが・・・真壁さんも・・・悪くないです。
Read the rest of this entry »

Design by j david macor.com.Original WP Theme & Icons by N.Design Studio
Entries RSS Comments RSS ログイン