漂砂のうたう 漂砂のうたう
木内 昇集英社 2010-09-24
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木内昇著

遊郭といえば吉原、その様々な時代を描いた小説はいくつも読んでいるけれど…またはその末にあるというか対極にあるというか場末の、または土手で何とか生き抜いていく女たちを描いた小説も多々あるけれど…根津遊郭の話は記憶にないなぁ…。 しかもそれが明治になって、明治も10年という妙に半端な?不思議な時を舞台にして、主人公が男、店の立ち番をする男というのだから…。維新の命を懸けた先駆者たちはあらかた亡くなり、生き残ったのは権力を手にしたものと何とか時代に乗り遅れまいとあがくもの、あがく気力も奪われてただただ流れていくもの。 その時間の流れの中でただただ転がっていく小石もわずかずつ岸辺を洗いかすかな痕跡を…残すのだろうか…残せるのだろうか?
何しろ主人公が、御家人崩れのこの青年という字の持つ若々しさも青臭さももうすでに失って年だけは若くても若さのかけらもとどめていないような…根もなければ意地も消え果たような男なのだから…読んでいて…いらいらが募る。
しかしこの男を翻弄するこの町をうろつく人間たちの綾なす怪しさが奇妙な夢心地に読む私を魅了する。
気が付けば主人公にいらだつあまり…私は龍造に惚れ、円朝に惹かれ、時代の荒波を漕ぎ渡ろうとする群像にめまいしていた。 そしてこの小さな悪党たちの中で…やっぱり女だね…地に足をつけて生きるものは…女ですよ。…と、頷いている。 主人公を甘やかす遣り手も、そして何より小野菊のなんかすっきりとした立ち方のいなせな涼やかさ。 何と魅力的なことか。  自由という旗印で男たちは舞い上がるけれど女は得るべく得る!
なんとなく松井今朝子さんの「吉原手引き草」のあの葛城を思い出してしまった。 やるねぇ…花魁って流石!な人たちだったのか!   「茗荷谷の猫」に次いで楽しませていただいた。