廃墟に乞う 廃墟に乞う
佐々木 譲文藝春秋 2009-07-15
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佐々木譲著
主人公は休職中の刑事仙道孝司。 これがまた見事な繊細な感性と思考力と技量を持った見事な!刑事。  休職中の彼を頼って持ち込まれる事件が6件続きます。
私がこの作品で一番心に残ったのは北海道そのものでした。 現在の北海道の地方が寒々と荒涼と現れてくるその描写でした。 地図を眺めながら読むことができます。 よく出かけたニセコあたりの山並みを懐かしんだり、栗山町・栗沢町・岩見沢…エー、どの街が吸収合併?なんて考えたり、浜頓別~江差へかけての海岸線を思い浮かべたり、十勝平野の広がりを思い起こしたり、静内~日高へかけての牧場地帯の美しさを心に描いたり…。
外国人ときしみを生じている街、消え去った廃墟の残る炭鉱町、寂れかけた漁業の村…ですからトーンは大体の作品に通じて暗く陰鬱です。
そして、この刑事ゆえに問題を抱えこんで傷ついてしまった刑事を通して、様々な殺人事件というか殺人そのものが人間にどんな傷を負わせるか、なぜか具体的に身につまされるように感じさせられました。 描かれたのはこの大地とそこでの人々の狭い世界とそれ故に否応なく起こる軋轢とその結果による殺人。そしてそれに向き合わなければならない警察の人間たちです。
殺人などという凄惨で悲劇的で悪辣でおぞましいものと否応なく向き合わされる職業って…絶対必要でありながらも人間的ではいられないものなのではないかなぁ…少なくともどこかで精神を病まなければやっていられないものなのじゃないかと思って痛ましく読んでいました。 その意味ではとても読みごたえがありました。 非常な世界に生きながらそれでも人間と向き合って再生していく主人公の人間性でしょうか。
佐々木さんの警察小説は好きだ!と、思って読んできました。
「笑う警官」の佐伯さんも良かったですし…3代にわたる警察一家も魅力的でしたし川久保巡査も好きです。でもこの作品で描かれた仙道さんの繊細な知性と痛みを知る人柄が最高に魅力的でした。 明日?復職したら…その時はどんな刑事として現れるのでしょうね。 この休職中の在り様が素敵だっただけに気になります。