時平の桜、菅公の梅 時平の桜、菅公の梅
奥山 景布子中央公論新社 2011-02-24
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 奥山景布子著

 

この作家の2冊目の本になる。  私の興味のある時代を舞台にした小説をこれからも書いてくれそうな気がして、期待している。  意外な気がしたのは…この主題だったら、たいていの人は菅公、菅原道真の立場からの話が当たり前な気がするから…。

この時代、権力の頂点にあった藤原氏の側からの視点で描いた作品がこんなに面白く読めたのは、この少壮の政に命を懸けて志そうとする時平という人物の造形にかかっているのだろう。  道真の晩年の大宰府左遷が頭ごなしの権力から出た沙汰ではなく…そこに至った道程の遙かだったことが面白く読めた。  またその主題のひとつに漢詩と和歌の違いという論点?があったことがこの作品に深みをもたらしたのだろう。  この作品の菅公は私にはあまり親しみたい人物には生り得なかったが、紀貫之は面白い魅力的な人物になっていた。ひょっとするとなかなか煮え切らないように見える時平その人よりも。 しかしそうは言っても、年若い主上が物の怪におびえるところを機転と胆力で乗り切るところなどはなかなか読みごたえがあった。    王朝風をイメージするためか?巻の冒頭ごとに時が飛んでその行間で時の流れを感じてもらう…という意図があるのかもしれないが…それが同時に時平の人間性をあいまいなものにしているようで…時にいらいらしたが…それこそが作家の書きたかった時平という人物であり、菅公の人間性のとらえどころのなさに通じるようでもあった。時平は政の最後の責任を負っていくと言っていたが負っていくには結局菅公という人をとらえきれなかったのかもなぁ…。 心の中で大きくしてしまった幻と格闘していたのかもなぁ…という切なさが心に残った。