横山秀夫著

「ローズ・マダー」で傷めた心を回復させるのに選んだのがこれです。
段階的回復術?です。急にロマンチックなものを持ってきても精神的違和感が増すだけ?って言うこじつけです。
これだって特別優しい物語ではありません。ご存知のように横山さんですから。
前に「心理合戦物」と私が名付けた作家のものですからね。これもその一つです。
ステーィヴン・キングの心理物とは違って、ここでは確実に正常な心の合戦が繰り広げられます。
それにこの作品の主人公はちゃんと彼女の世界を堅実に築き上げ、成長してゆきます。これは凄く嬉しいことです。主人公に共感してしかも応援して読めるのですから。
この作家に信頼が置けるのは、又は優れていると思えるのは、向上する、受け入れる、展望ある明るさがあることにです、底の方にですが。地平線上に柔らかい朝日が差し染める頃あいにも似た?

主人公の平野瑞穂さんに最初にお目に掛かったのは「陰の季節」という短編集の中の「黒い線」ででした。その時私は彼女の上役でもある七尾友子さんの方を女を認めたがらない石頭の刑事たちと出世競走の心理合戦を渡り合える女性キャラクターとして「長編の主人公になれる有望な器ではないか?」と、思ったのです。
瑞穂さんの方は似顔絵書きという特殊技能がありますから、面白いアイデアの短編小説にはなるけれど・・・という感じだったのです。「黒い線」での瑞穂さんは警察機構に押しつぶされてしまった感があって、むしろそれをばねに七尾さんが男相手に渡り合っていくというシナリオを想像したのでした。
しかし「顔」で瑞穂さんは立ち上がりました!
だから、私はキングの「ローズ・マダー」の後にもう一度これを読み始めたのです。
だって、瑞穂さんは健気に立ちあがったのですよ。
ちゃんと自分が「成りたい者」「それを夢見ていた自分」を取り戻すべく、着実な足取りで、すっかり退けられてしまったところから・・・まだ、乱れがちな足取りではあっても。
傷ついても、押しつぶされても、それでも自分の行きたい道を歩く姿を、作家はきちんと丁寧に描き上げてゆきます。
「顔」の瑞穂さんは五つの短編集の中で語り継がれる物語で一歩づつ、足取りを確かなものにしていくのです。
「目標を持っている人ほど素晴らしく、強い人は居ないんだなぁ・・・!」と、私は羨ましくも思え、実際に今そういう道を辿っている多くの若者にエールを送りたいような気分になれました。
警察ってそれにしてもなんと話の種の尽きないところなのでしょうね?最近怠慢?を突っ込まれている、不祥事多発警察には女性の活躍場所が山のように?ありそうですよ。区役所の分室なんかに行くと凄く暇そうにあくびをかみ殺しているおじさんとパッタリ目が合っちゃうことがありますが・・・有効利用?して無人の交番に置いてくれないかなぁ・・・なんて思うこともありますが・・・話が逸れましたね。
地(自分の置かれた立場)に足が付いていて、正面切っていて、意志を持っていて、若い人の小気味良さがあって。まだ?私も間に合うかな?なんて思えたりして?いやぁ、慰められました!
瑞穂さん念願の場所に戻れたのですから、今後も見守っていきたいんだけれどなぁ・・・
あっ、ちょっと訓練して、こんな私みたいな暇なおばちゃんを無人交番に漏れなく一人か二人配置するのってどうでしょう、ボランティアで?