横山秀夫著

この本に惹かれたのは勿論!「ルパン」のせいです。
私はルパンの為にパリへ行ったくらい(と言いたいくらい)ルパンが好きです。
「ルパン3世ではなくモーリス・ルブラン様のルパン様!です。」と念を押させていただきます。
でも勿論この作品はルパン様とは関係ありません。
でも、この作家が何でルパンの名を掲げたか読んでみたかったのです。
ま、それに関しては拍子抜けでした。
「ルパン」という名の喫茶店で話し合われた試験用紙かっぱらい作戦(泥棒)っていうことだけでしたもの。
ルパンもどきに盗みを行った高校生たちの消息とでも、喫茶「ルパン」の消息とでも。
でもこの作品、面白く読みました・・・う~ん・・・と言ってもいいのでしょうか。
凄い作家だなぁと読み終わった後私は思いました。
後記を読んでこれがこの作家の処女作だと知ってなお更です。
最も書かれてから15年後の改稿刊行だそうですが。

この作品を今日取り上げて書こうと思ったのは、この作品も「3億円強奪事件」を絡めているからです。
先日「初恋」を見た時「3億円」物かぁ!と思った途端、この作品を思い出したのです。
この作品にめぐり合ってから横山さんの作品を何冊か読んでいますが、そのたびに非常に怖い気がしています。
この人の頭の中、ん?心の中かなぁ・・・ってどうなっているんだろう?
「警察」物が主な短編集を4冊ほど読みましたが「心理合戦」物と括りたい感じです。
「こんなに赤裸になるくらい心の中を読み抜いていたらあなたの心も本当だったら持たないんじゃないかしら?」って聞いてあげたいくらいです。
こんなに「見えたり、推し量れたり、読みきってしまったり」ができるとしたら心の中ががさがさに乾いてしまい、作家自身が「朽木さんのように笑えず、楠見さんのように冷たい血が流れていて、それ以上に村瀬さんのように恐ろしい勘を持っているという」像のようになってしまうんじゃないかと思えるのですけれど・・・・
それでも皆その名に「さん」を付けたように私はこの刑事たちが好きです。物語の最後に来る何かが好きだからだと思います。
この初期の作品もそうです。
高校の「不良」のその時とその後の15年が物語の中で浮かび上がってきて、そのいずれもの人生はとても辛く惨めだったりするのですが、最後の最後のところでこの元高校生たちにも、それを苛烈に追求した刑事たちにも柔らかい感情がさわーっと懸かってくるような読後感があってため息が吐けるのです。
この作品の中で犯罪を犯す人、犯罪に押しやられる人、その罪の前に立ち尽くす人、犯罪から逃げる人、犯罪の余韻に浸る人、様々な15年間の恐ろしいことといったら・・・そして時効の壁の前で奮闘する刑事たちの個々の事情、心理(焦り・葛藤)読んでいる間中、私の心は押しつぶされるような気がするのに、この最後の何かを期待してまた横山さんの作品に手を出しそうです。
終りまで読めばとにかく、何とか息がつけます。
死んだ人、死ななければならなかった人、それを永遠に引きずる人・・・改めてヤッパリ「こんな犯罪は余りにも理不尽です!」と憤りながら、私は私の知らない世界の傍らを、この作品の中を通り過ぎるのです。
「ルパンの消息」に3億円事件がどう関わるかは読んだ人だけのお楽しみということでしょうか。

*朽木さんも楠見さんも村瀬さんも「第三の時効」に出てくる刑事です。