親不孝長屋―人情時代小説傑作選 (新潮文庫) 親不孝長屋―人情時代小説傑作選 (新潮文庫)
池波 正太郎新潮社 2007-06
売り上げランキング : 98666
おすすめ平均 Amazonで詳しく見る
by G-Tools

oyafukou1.jpgoyafukou.jpg

縄田一男選

コレは実に贅沢な選集でした。作家の顔ぶれを見ただけでも期待濃厚になります。宮部さんの「神無月」周五郎さんの「釣忍」は既読。しかも好きな作品です。他の作も見事に読ませる作品でした。
短編はおうおう時間ふさぎ?余暇の穴埋めで終ってしまうこともありますし、時にはそうか!なるほど!良かった!面白かった!で終わることがあります。物凄くピリッとしたいい作品にぶち当たることも勿論多いのですが。
でも素晴らしい作品の中には読み終わってそこで終らせてくれないものもあります。寝しなに読み終わると、その後の成り行きを自分で紡ぐ事になります。主人公が不安定なまま置かれたら、彼・彼女のために幸せを見出すまで私は眠れません。
「神無月」を初めて読んだ時もそうでした。市蔵が大怪我をする前に岡引に間にあって欲しいのか、無事に数年娘を看護できるお金を取れて証拠が無いのが良いのか、ああでも彼は岡引が来た途端にすべてを白日に晒して罪を認めてしまうだろう・・・じゃぁ娘はどうなるの?・・・どうなればいいのか?えんえん寝られませんよ。でもそれも作品が与えてくれる醍醐味、すごいですねぇ!
そういう意味では他の4作は一応は完結していますが「邪魔っけ」には教えられる人間の真実がありますし、ちょっと上手く話が付きすぎですが、そういうものだろうなと腑に落ちる人情がでんとあります。若い二人が学んだ事を生かして幸せに・・・と祈ります。
「左の腕」も実によく出来た作品で、小腰をかがめてつましく生きている人間にもちゃんとその人の過去という生があり、魂もある。最後のページでそうだ、そういうもんだ、うんうんと頷く自分がいます。そして今後の卯助さんの生き方を見守りたい気持ちになります。周りの人は、娘はどんな反応を示すのでしょうか?
「釣忍」などはもう「ああ周五郎さんだ!」やっぱりいいなぁと咽喉をゴクンと言わせて涙を押し込めるという醍醐味があります。ささやかな幸せを守るのも義理を通すのも人の心あってだと!
一冊の中に「贅沢な時」が読む人への「贈り物」として詰まっています。