江戸の鈍感力―時代小説傑作選 (集英社文庫 ほ 16-7) (集英社文庫) 江戸の鈍感力―時代小説傑作選 (集英社文庫 ほ 16-7) (集英社文庫)
細谷 正充集英社 2007-12-14
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 細谷正充編

鈍感力ねぇ・・・コレも最近目に付くようになった言葉です。渡辺淳一さんの本は大昔1、2冊読んで「こりゃぁ、私向きじゃない」と、きっぱりけりを付けましたから「鈍感力」も読んでいません。が、なんとなく言われる方向は分かっているつもりです。
「老人力」に次いでこの本を読みましたが「老人力」よりこの「鈍感力」は主題としての括りには無理がありそうです。読み流せば「鈍感」で足りるのかもしれないけれど・・・渡辺さんのエッセイの内容にひょっとしたら即しているのかもしれないけれど(解説で編者が渡辺氏の「鈍感力」をテーマにしたと書いてあるから)、でも一般的な鈍感の意味ではこじつけに過ぎる選もあるようです。
池波さんの「江戸群盗記」と周五郎さんの「愚鈍物語」は既読。文句無く楽しく読める作品です、が、この二つが同じ括りで良いのかはなはだ疑問です。こういうアンソロジーの表題は難しいなと、思います。が、この手の本は作家に遭遇するいいきっかけになることは確かです。
村上元三さんの「上総風土記」はこのアンソロジーで読みたくなかった素晴らしい作品でした。つまり「鈍感」と言った文字をどんな意味でも冠して欲しくない作品です。周五郎さんの「日本婦道記」を思い出しました。真っ直ぐな一途な心根の物語ですから。たとえその信念が儒教や道徳や上から洗脳されたものであっても、己の信じているもの、ことに、全霊を捧げることの強さ、不屈さは人の心を打って余りあります。
残りの作品については、特に「春日」は鈍感力でも、まぁいいかです。「山女魚剣法」「婿入りの夜」は面白く読みましたが、主人公が好きになると「鈍感」と言う言葉に拒絶反応が起きます。叡智でしょう?これはと。「世は春じゃ」などは厭な物語ですが、これなどはバカなだけじゃないなんて思えて。アンソロジー編むのは楽しいだろうけれど、表題はやっぱり難しい!