シズコさん シズコさん
佐野 洋子新潮社 2008-04
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 佐野洋子著

きっつい本だったなぁ・・・と、読み終わって思っている。
何が重かったのか・・・って考えなければならないことがまたきつい。
読んでいる最中もきつかったがこの本は納豆みたいに結構しっかりした後を引く。読んだ全ての「誰かの娘だった人」はいやでも自分と母の関係について再考させられるだろう。幸せな関係であったとしても何らかの反省と共に、だから幸せではなかった関係の人にとっては・・・しかし結局は「いわんや悪人をや?」であるかのような結末が待っていて・・・ほっと出来るのではなかろうか?とも思うが?いやいや母娘の関係はその関係の数だけのパターンが有るから・・・読み終わって許し許された二人に訪れた穏やかな日をただただ羨ましいと思う人も多かろう。それにしてもシズコさんの亡くなったのは90歳で洋子さんは既に70歳近く?なんと言う長い旅路であったことか!そして洋子さんは死ぬのは怖くないといえる心境にある。「そちら側に すぐ行くからね」と締めくくる。
開けっぴろげに、隠さずに、弄さずに、投げ出されたようにシズコさんとの来し方が書かれ、お二人がすぐそこに投げ出されているみたい。そのまんまそこに。どちらも凄いなぁ!「情が無い」も「情が有り」も、どっちも凄い。人生の終わりを見切ってしまったらこれだけバシャッとありのままを投げ出せるのかな?
私の母はシズコさんと違ってパタッと倒れて翌日には亡くなってしまったから老後の関係はぶつ切れで終ってしまった。だからだったのだろうか?ありがたいことに私と母は絆を結びなおす期間を必要としないほど上手くいっていた。思い出す限り「いい母だったなぁ・・・」なのである。本当にありがたいことに!
それなのに洋子さんの本を読んでいると洋子さんが母シズコさんを背負っている重さが不思議なことにまるで羨ましいかのようにみっしりと感じられるのだ。傷を付け合った深さの分、流した血の量に比例して、人間の関係は深く、絆は強くなるのかもねぇ・・・とため息をつく。
静かで穏やかで当たり前すぎるほど当たり前の親子であったので、さらさらとした肌合いの母子だったので、捨てたとも捨てられたとも負の感情を一滴も持たずに私は穏やかに母と別れられた。
周りを見て不思議に思うのは愛されなかった子ほど親に優しいということだ。「あなたのお母さんこそお母さんよね?」羨ましい羨ましいといっていた友人はやはり兄夫婦に捨てられた母を看取ったし、兄弟の中で一番出来が悪いといわれ続けていた息子は優秀な兄たちが都会に出て行った後の親を一手に引き受けたし。
今99歳の母を近所に抱えている友は「本当に意地悪で口の悪い厭な人だったのよ・・・だからこんなに長生きしていまだに私にも妹にもヘルパーさんにも意地悪し放題している。」と言いながら通っている。
子に愛情を注ぎ尽くした親は、安心して育ち情緒安定して独立した子供にさらっと忘れられるのかも?彼らは親に執着せねばならぬ何ものをも持たされてはいないから!
人の関係の中で一番最初に結ぶ関係で人の一生の背骨になるのが親子関係。いずれにしても当分母を、母との様々なシーンを根掘り葉掘りしてしまいそうだな。