誰か (文春文庫 み 17-6) 誰か (文春文庫 み 17-6)
宮部 みゆき
文藝春秋 2007-12-06
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宮部みゆき著
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またやっちゃった?

読み始めて「あれ?この人知ってる!」

「名もなき毒」の主人公ではありませんか?

慌てて発売年を確認したら「名もなき毒(2006年)」、「誰か(2003年)」でした。

また過去の作品にさかさまに読んでしまいました。

「海堂尊」さん作品なんて過去へ過去へと遡って読んでいますもの。

「誰か」で生み出した主人公とその周辺設定が作者のお気に召したのか、その作品の人気が高かったのか?主人公が再登場したのですね。

「名もなき毒」の最後に30代にしては妙に世慣れて落ち着き払った知性人格優れた主人公がこれからも事件を引き受けてもいいと受け取れる発言があって、私としては今後杉村三郎氏から目が離せないぞ!と思ったのでした。

でも、まさか?過去とは!うかつでした。こんなに好きな作家ならもっと情報に眼を開いておけよ!と厳に自分を戒めたところです。

でも宮部さん多作過ぎますよォ・・・

それはともかく初お目見えのこの作品では主人公さんは人柄の良さと手順の良さで印象的でした。作品の力そのものははるかに「名もなき毒」に及ばないという気がしたのはテーマと他の登場人物の複雑な丁寧な書き込みの差によるものかもしれません。「誰が」の姉妹の対比がちょっとお決まり過ぎていてその点で甘い感じがしてしまったのではないかと一寸残念。

もっとも作者はこの杉村氏の可能性に気が付いて?もっと重いテーマの作品で活躍させて見たいと思った?ということでしょうか。

宮部さんの社会を見て問題を抉り出す眼力はここでも冴えていて、多分ちょっとしたニュースに過ぎなかったと思われる「自転車事故に寄る殺人の増加」を舞台設定に上手に引き込んでいると感心しました。そういえばそのニュース私にも記憶にあって、しかも今現在それはますます増加中のようです。

都会の細い歩道の自転車は間違いなく凶器です。私もヒャッとすることが多いですし、見ていてあっ!ということもとても日常多いのです。それが物語の発端になっていることで素直に本に溶け込んでいけます。内容的にはよくある姉妹の相克ですし、名乗り出られない犯人の問題もごく平凡です。でもサスペンスフルな現代の日常が切り取られちょっとした額縁に入って楽しませてもらえたっていう感じでしょうか。勿論人が亡くなっているのですから・・・なんて付け加えるまでもなくサスペンスタッチのエンターテインメントとして読めてしまったのですけれど杉村氏誕生を祝福したいと思います。

これで社会に自転車のマナーについての再確認と自戒を促すことになればもっと素敵だな!と、思いました。

そういえば昔私が子供の頃、町内の路地を走り抜けていく自転車に

「田舎者が増えて、人の迷惑に気が付かん・・・困ったもんだ!」と縁台で近所のじいちゃんたちが話していましたっけ。今じゃ東京は田舎者しか居ませんよ。

杉村氏の三作目を、「名もなき毒」以上の濃密なサスペンスを、期待したいと思います。