ロザムンド・ピルチャー著

[前回]ロザムンド・ピルチャーという小説家

人と人との付き合いの中でも血縁という抜き差しならないものほど厄介なものはない?
上手くいっている間柄ならこれほど力強いものは無いが、一旦歯車が軋み始めると・・・。
ピルチャーさんの作品には割合母と娘がいい関係では無いものが多い、そしてまたほとんどが離婚家庭の娘が主人公になっているような気がする。
濃密に上手くいっている母娘でさえ、傍から見るとあまり感じがよくない場合もあるから、いっそ・・・?っていうことかしら?
母娘の関係は一般的に父息子の関係ほど難しくは無いかもしれないが、彼女の作品にはあまり父息子の物語は無いようなので、考えないこととして、この作品の主人公レベッカも母リサとは希薄な間柄の母娘であった。
リサが奔放に自由に生きたのに対して、レベッカは傷つかないように自分をくるんで生きてきたようなところがある。
長い間孤独だったせいか、彼女は母の死に際して初めて知った祖父の家へと出発する。
ここから物語りは始まるのだけれど・・・一つ不思議なのは始めて知ったのは祖父がいるということだけでは無く、父の名も初めて知ったのに、ピルチャーさんの小説は1代世代をおいた関係を描くことが多い傾向があって、この物語でもレベッカの向かったのは父の居るアメリカでは無くて、コンウォールの祖父の所へだったのだ。
そして祖父の家での従兄たち、伯母、その姪たちとの関係の中で彼女は変化して行く。
多分にご都合主義的なところがあって、レベッカは本能的に惹かれる者に潜在する危険が分かるらしい?
だから物語は破綻を秘めているのに、彼女はのっぴきならない苦悩に飛び込む前にちゃんと人生行路の選択が無事に出来てしまう。
このあたりに人生を描く物語としての喰いたり無さがあるのだけれど、また反対にそこでこそこの物語が持つ気分のよいワールドに浸れるというわけである。
ぬるいお風呂が好きな人には絶好の楽しい読み物に仕上がっていると私が思い、そこが私のこの本を愛好する所以でもある。
ジョスのような男に抱きとめられたら、女なら文句あるまい!