東郷隆著

「がまの守り符(ふだ)」「四十七士の飴屋」「のっぺらぼう」「狸囃子の夜」の4編収録

不思議ですねぇ・・・私がこの作家のこの作品の風に慣れちゃったのでしょうか?ちょっと早過ぎ?
それとも、作家の方がこのシリーズに慣れて、この世界と仲良くなっちゃったんでしょうか?リズムが出てきました!
私の読むほうのリズムです。
先の4篇よりこの本の4篇の方がずーっと読みやすく感じたのは、やっぱり私の慣れでしょうかねぇ?不思議です。
まだ注釈はあるものの~大(ダー)らん入る(大騒ぎになる)なんて言葉本当に使っていたんですかね?~今度は「・・・と当時の江戸では申しました・・・」てな風な書き方をしていたりしますから、前作ほど読むのにつまずいたりはしません。
大体前作から30年近くも経っております。あっという間に幕末の混沌も終り、明治も29年、万吉さんはもう白髪頭の職人風の綺麗な刈り上げになっております。髷はもう有りません、髪結い床は床屋になっていることでしょう?
30代から60代?まだかくしゃくとしてお元気です。しかも、明治になってからも警視庁お雇いとしても活躍していることだし・・・控えは取ってあるし、記憶をひっくり返せば幾らでも種はあるというわけで・・・老後の楽しみ期待大?
そして、この作品はその万吉さんの昔語りを速記者が書くという体裁ですから。やっぱり言葉も整理されているんでしょうか。
万吉さんも辰五郎さんも健在で活躍してくれますから、一安心です。
「四十七士の飴屋」も時と所を逆手にとったアイデア秀逸で笑っちゃいますけれど、やっぱり私は「のっぺらぼう」ですかね。
明治の浅草の奥山見世物小屋、観音様三社様あたりの風俗まで実に生き生き、見てきたように?繰り広げられる面白さはご一読くださいと言いたいようなものですよ。
ちょっと山田風太郎さんの「明治物」を思わせますが。それで話はそれますが、「風太郎さんの明治物は面白いよ。」と言ったら、おっちょこちょいの友人が早速買ってきて読んだそうです。「あんたこんなの本当に面白いと思ったの?」と妙に真顔で聞くので「何読んだの?」「くの一忍法帖!」「私だってそんなの読んだこと無いわよ。明治物は・・・って、「は」って言ったでしょう?」なんて事がありましたっけ。それでも明治物には風太郎さんの昔がチョコット残っているらしくて、女性の扱いに今一納得がいきません・・・というものもありますが。戻ります。
明治はやっぱり混沌としたところに面白くなる要素がいっぱい秘められているのでしょう。
でもやはり「とげ抜き」シリーズのお楽しみは1読2読して、3度目にようやっと声にだして読んだら頭の中にトンと落ちるといった感じにあるのかもしれません。手をかけませんと?
これこそ老後のお楽しみにとっておいて何度も読むに値するかもしれませんね。まだ一回目、ざっと目を通しただけの私です。この作家さんかなり作品があるのを発見しましたし・・・。
捕物帖の謎解き・解決のスカッとした切れ味って言うのが持ち味というより、むしろこの作品は時と所を「ざくっといい所を選り抜いたネ!興味そそられるナ!」という作品のように思いました。
そういえば「中清」の前をよく通ったものだけど、この頃からこの店はここにあったのかァ・・・と、江戸前のキスのてんぷら食べたいなぁ・・・と思ったのは・・・「のっぺらぼう」のせいですね。
又、そういえば久しぶりで日本堤のけとばしやへ行きたいなぁ・・・なんどと思ったのは・・・「狸囃子の夜」のせいですよ。
・・・めっぽうおなかが空きました。