名もなき毒

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名もなき毒 名もなき毒
宮部 みゆき

幻冬舎 2006-08
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おすすめ平均

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宮部みゆき著

予約したことも忘れた頃に、「宮部さん?楽園がもう?」と思ったらこの本でした。そうそう、まだ読んでいなかったんだ。ちなみに今日の時点で「楽園」まだ270人待ちです。
私にとっては「ブレイブ・ストーリー」から約1年振りの現代ものです。結局時代物の方が好きなのかな?
一寸「ブレイブ」を思い出したのは、この作品もテーマの芯にスパイラル状に物語が蒔きついているという構造を感じたからでしょうか。
人の持つ毒、人が人に投げつける毒が文字通り毒殺事件の周りで回転しながら、人の持つ毒にスポットライトが当たっていく・・・人間が根源に持っている闇を順繰りに抉り出して行く・・・という風に読めたのですが。
丁度先週読み終わった「まほろ駅前・・・」とある意味正反対じゃないかとふっと思ってしまいました。
まほろ駅前ではどんなに毒され孤独になった魂にも触れ合う温みが何かの変化をもたらす・・・という善なる気分が感じられて嬉しかったのですが、今週は逆転しました。まっさかさまに転落!
だって主人公が繰り返しいわれることは「人がいい!」です。
彼の特性はそれに尽きます。彼なりの困難はあっても人目には幸せを具現している、他人に悪意のない、心栄えも心配りも‘いい’人。誰からも好意をもたれる人で、その人の周りにさえいわれも無い毒が忍び寄ってくる。本来来るはずの無いものが降ってくる。
これは何だ?です。
最初の毒殺犯の毒は想像力の欠落、他人を思いやれない心が振りまく毒。次の犯人は人間の欲が招く毒。そしてまるでその気は無かったはずの内気な青年が落ちてしまった世の中への恨みが招いた毒。黒井次長のいじめに会った娘が受けた毒。シックハウスとか土壌汚染とか社会が招く毒。人が生きていく中で否応無くぶつかる可能性のある毒が網羅されてねじ合わされて、その中心にどうにも説明の付かない「原田いずみ」という毒が大黒柱のように突っ立っている。
性悪説の具現化した魔物みたいに!
しかも読んでいるうちに心の隅に「あるある!いるいる!」に限りなく近い同意みたいなものが生まれ来てやりきれなくなる。イヤ!認めたくない・・・だけど底に忍び込んでくる肯い。
「いい人」「恵まれている人」「羨ましい人」「自分より何かで勝っている人」そのものが回りに全く責任も無く振りまく「毒」!果たしてそれを毒といっていいものか?ノン、絶対にそう呼んではならない。だが格差が広がっていくばかりのこの社会で、人は果たして憎悪を生み出さずに生きていけるのだろうか。
嫉妬や羨望や焦燥から毒を自分の中で醸してはならない。それは十分分かっている。
しかし「原田いずみ」毒は完全否定できずに社会に確かに存在すると肯って、これは人類発祥時から人類に課せられた業なのだろうか?なんて考えてしまったりしている。昔理科の遺伝の法則を習ったとき教えられた「劣性遺伝子」ばかり生み出す家系の事を不意に思い出した。ま、それは別問題か。
人間の遺伝子の中に時限爆弾のように組み込まれている悪意がどんなに愛情深い親の組み合わせの下でも無作為にポコッと産み落とされる。それこそが普通の人間には思いもよらぬ「原田毒」?それはもう神の悪意かも。
さて、最後のページです。救いと見えますか?毒消し役を志すということは・・・ねぇ、神にたてつく永遠の人間の無駄な抗いにも見えるのですが・・・北見氏も杉村氏も・・・一人ではねぇ・・・読んだ人皆が解毒剤に成るという道がある?・・・う~ん・・・
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ナイチンゲールの沈黙

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海堂尊著

笑えて、楽しみました。殺人事件なのに?ホント、申し訳ありませんがこれは作者さんのせいです。私は漫画には詳しくありませんが、家の旦那は「漫画は好きだけど、劇画は嫌いだ」と言います。
その伝でいくと、「螺鈿迷宮」の巌先生は確かに劇画でしたが・・・
この作品は漫画でした。登場人物が皆絵に書けるようでしたもの・・・それも私の下手な一筆書きで。
つまり作者が登場人物をそれだけ作品の中でリアルに?目に見えるように?活写してくれている・・・ということになりましょうか?笑えてしまうのです。
巌先生も最初にチョコッと顔みせ。私は既に次作を読んでいるので先生のしゃべりの大時代風が頭に浮かんで、直ぐに劇画作成にかかったのですが「迦陵頻伽」で頷き、アツシ君(このシャベリはないでしょう?)で転向、漫画に・・・白鳥さん登場で完全に方向性を決めることが出来ました。
しかも私はどうやら何部作かになる作者の著作をさかさまから読んでしまっているらしく「螺鈿迷宮」の粗筋はもうここで披露されている・・・多分もう作者の中では出来上がってしまっていた?→凄いなぁ!です。
章題をズーっト読んでいくだけでも作者のロマン嗜好がわかりますが非常に饒舌な装飾的な文章で、章・段落の締めに来る1行に所々実に面白い叙情的な表現があってこの文を書くとき作者は楽しかったろうな・・・なんて思いながら私も楽しく読み下してしまったのです。
殺人事件の謎解きなんてこの場合もうすっかりわかっているので、謎解きが主題の探偵ものではないのですが、体裁はそうです。わかっている犯人を確証で挙げるまでの数日をいかに面白い人物たちの跋扈によって盛り上げられるかと言う事を作者は試しているのかもしれません。そしてその試みという点で確かに面白い読み物を提供できています。
音楽と絵のなんか頷きたくなる二人の女性の能力は魅力的で少女漫画に似て高エネルギーに溢れているのに、それを奏でる4人の男女のシチュエーションがそれ以上にならなくてつまらないなぁ・・・惜しいなぁ・・・とは思いましたが。(螺鈿のお兄ちゃんは頼りなかったですが、こっちの坊やの造形は一寸オバサンにはイケマス)
今回も色々な最先端の?知識が奔流のように溢れて、カタカナをせっせと目で追っていましたが、はて頭に残ったかなぁ。
法医学の現状?ホームズはどう思うかなぁ・・・私はやっぱりあの時代どまりなんだなぁ・・・とつらい再確認。でもあの紙芝居、検挙率絶対に上げるよと、大してわけもわからず太鼓判押しています。
作中「バチスタスキャンダル」の話ちりばめられていましたが、まだ読んでいないので・・・どんな死骸がでてくるのでしょう?と楽しみになりました。その第一の作品の中でも既にその後の作品の構想が人参の様にぶら下げられているのかな?作者はどんなお医者さんなんだろう?田口先生に似ていないことだけは確か!
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日本婦道記

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山本周五郎著

「私の大好きな短編集である。」
ってことは、前にも書いているかもしれない。
先週先々週と私は忙しかった!自分の用件も友人たちとの楽しい会合もあったけれど夫の趣味の旅行へのお付き合いもあったし。
それはそれでとてもいい時間だったのだが、根本的には私は一人で静かに居たい人なのだろう。
身体ではなく人と会うことが多くなると気持ちが草臥れる。
まさにこの字のごとくクタット草が踏み潰されて倒れ伏したような気分になるのだ。
特に知らない人に会わなければならない時はなお更。割合、情緒安定型に見られるのでそれに気付く人はあまり居ないのだが。
そんな時これを読む。
気持ちを奮い立たせ、しゃっきりし、こんな自分じゃいけないと叱咤するために!とも言えるかもしれないが、反面大いに泣けるからかもしれない。泣くと誰はばからず心がむき出しになって表れて、それを洗い晒して、リサイクル?リフレッシュ??出来るような気がするから。
つまり新しく立て直すための1冊なのだ。
勿論若い人が今読んだら、反発の方が大きいかもしれない。
でも自分で決めた道を自分なりに誰にも知られることも無いまま筋を通して生きていく女性たちの気迫に私は打たれてしまう。
この中の11の短編のうち、その生き方について理解が出来る女性の数はそうは無い。
多分私にしてからがもうこんなに滅私では生きられない。凛々と言う音色まで聞こえてきそうだ。
けれどそういう事を別にして、彼女たちは清清しく、潔く、強い。彼女たちに包まれて助けられて生きたことに気が付かない夫や子供たち兄弟姉妹が居ても構わない。誰に知られることもないまま終るその見事な彼女たちなりの選択と実行力に敬服する。気が付いて認められることなど殆ど無い。感謝される事も稀だ。それでも彼女たちは行く!生き通す。
「風鈴」は私にはぐっと身近だ。弥生さまの気持ちは痛いほど分かるし、私も実はそうだった。っていっても、私は苦労はしていないけれど、みっともないことに回りの豊かさに目がくらむことがしょっちゅうあったから!
他の短編でも同じ事だ。その主人公が選び取るのはいつも茨の道で、誰も今では選び取りはしません。だから私は泣ける。素直に泣けます。
でもそれは自分はこんな茨の道にはいないでよかったという涙ではありませんよ。
そういう自分だったらいやだなぁと何度も振り返って、自分の気持ちを確かめたこともありました。でも違います。
一寸代償行為のような気はして後ろめたい感じはあるのですが。
彼女たちはいつも安易な道を取らないのです。
「辛かったでしょうね。」「大変だったでしょうね。」と手を取って撫でさすって上げたいくらいですが、彼女たちは「いいえ!」と微笑むだけでしょう。
いつも安易な道、楽な道をと選って歩いている自分を再確認して情けなさに泣けてしまいます。
この作品の中には「諭し」が多くあります。例えば「桃の井戸」の長橋のおばあ様など。現在身近にこんな風に諭してくれる人あなたに居ますか?それから生き様であなたに尊敬の念をかき起こしてくれる人が身近に居ますか?
この作品で読むこれらの諭しは私にはありがたく感じられます。
日本婦道記」という題名がいかめしいですが、とっついてみると確かに道は険しくありますがその道にちりばめられた教えや諭しは心優しく美しいものです。
こんな風に自分を確認すると、「明日は違う。」と自分を起こすことが出来そうなんです。
ま、2・3日で自分の道の石ころをさっさとどけてしまうんですけれど。そこがまた情けないところで・・・

スペシャル エディション ナルニア国物語

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これは本の内容について書こうというのではありません。
本は本でも文字通り「本」そのもののお薦めです。
何が「スペシャル」で、どう「エディッション」なんだろう?
図書館の「検索」でたまたま見つけて借りてみてびっくりしました。

「スペシャル エディション ナルニア国物語」
C・S・ルイス作 ポーリン・ベインズ絵 瀬田貞ニ訳
岩波書店
です。
(7600円+税)という豪華本です。

まず重い!
私は子供向けの7冊からなる軽い!本で1冊ずつ読みましたから、
色付きの挿絵のものではありませんでしたし、この物語が1冊になってしかも美しくて想像力にピッシィッ!と、はまる絵入り本を見たのは初めてでした。
読むのも大変!
イギリスの貴族の館の図書館になら必ず置いてありそうながっちりした美しい書見台が是非にも欲しいところです。
これを支えて読み続けるには根気の他に腕力が要ります。
だから絶対これは子ども向けの本ではありません。
でも、全然違いました!
この本で読み直してみたら、まるで物語が違うような気がし始めてしまいました。
ええ、全く!
1冊づつ読んだときには感じ取れなかった壮大な枠組みとより大きなスリルと感動が本からあふれ出てくるようでした。
これは昔思っていたよりも凄い!物語なんだということがズンズン胸に響いてくるようなんです。

この物語は少なくとも読む本を選ぶべきだったんだっってことが今更に分かりました。
この物語への愛情がずうっと大きくなりそうです。
「ナルニア国物語」を初めて読むんだったら、是非この本で取り付いてもらいたいものです。
「ナルニア国物語」は子どものための想像力に溢れた楽しいSFチックな冒険お伽噺だけでは無いんです。
この物語の冒頭で「世界の創造」がされるんですけれども、1冊づつ読むとただ「そこから物語りは始まったんだ!」に過ぎないのに、この大きな本で読み始めると、創造の感動が全編を通じて心に鳴り響き続けているようなのです。
そして作品の気持ちをぴったり鼓舞してくれるような挿絵がまた心に響くのです。
と言っても、ちょっとこの本は買えそうも無いんですけれど。
高い?ええ、勿論!
それに我が家にはこの本を立てておける高さの書棚が今は無いんですよ。
こんな時にはヤッパリ図書館を利用しましょう?

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