夏目家順路 夏目家順路
朝倉 かすみ文藝春秋 2010-10
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 朝倉かすみ著

 

おかしな小説でした。おかしなというのは内容のことではありません。それが呼び覚ました私の記憶のおかしさなんです。  不思議と言い換えてもいいかな。    この小説読んでいる間、ちゃんとその世界に広がる夏目清茂さんの人生をなぞっていました。 ところがその頭のほんの片隅では…私の勝手な記憶による私の人生の一部が紐解かれていくんです。         本を読み他人の創造した人生をたどりながら…片方で自分の人生をたどっている…なんだこりゃ?と、また頭の違う片隅がつぶやいているんですね。  なんでこうなるのだろう? ……また違うほんの頭の片隅が考えていたのですが、この文体の妙に小気味のいい主人公の突き放し方にある微妙な間が無意識に私の意識を滑り込ませる格好の媒体みたいなものになっているのかもしれません。    葬式に至るまで、何しろ私はまだ私の葬式を経験していませんから、キヨちゃんの人生と並行してスミちゃんの人生がほどけていきました。     だから今晩はここまでにしようと、本を伏せた後も妙に眠れないということになりました。 本を読んでいる間に紐解かれたものが、本を閉じるといやな方向に行くのです。   負の記憶がのそりと立ち上がってくるのですね。 これには参りました。 キヨちゃんの人生が負ではなかったのに。   それでも物悲しい気分を醸し出す人生でもあったわけで…だから寝る前にはキヨちゃんのかぶによく似ためでたい笑い顔、犬っころのような顔のよく動く黒目を思い起こすことにしたんです。 やっぱりキヨちゃんの人生は悪くなかったねぇ…私もキヨちゃんのように終わりたいよ。

しかし懐かしいものを見た。「903」緊急定文電報、そういえば昔電話帳を繰ってこういうの送ったことがあったなぁ…あの時は…なんだったかなぁ…祝電よりもやっぱり弔文だったかも。